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2015年9月

人と企業はどこで間違えるのか?成功と失敗の本質を探る『10の物語』
ジョン・ブルックス(著),須川綾子(訳)

起業家、経営者、第一線のビジネスパーソン…その誰もが生涯で何度かは、苦痛ともいえるほどの“どん底”に陥る時期があります。しかも絶頂期を享受した人ほど、その苦痛は大きいものです。

ビジネスでの成功を目指す人たちは、メディアで取り上げられる有名経営者や起業成功者、コンサルタントや学者の話に魅了されることが多いでしょう。わくわくするような成功体験や成功秘話は、たしかに興味深いものに違いありません。

しかし、キャリアの選択をするときや経営判断をするときのように、厳しい決断を迫られる際にこそ、成功よりも失敗について書かれている本、先人たちの失敗の原因を記した本が、きっと役に立ちます。成功するためには運に恵まれていることが必要不可欠ですが、失敗は単に運に恵まれていなかったから、というわけではありません。失敗にはそれにつながる原因、つまりターニングポイントとなる選択が必ず存在します。ですから成功を願う人には、ぜひ成功よりも失敗の実話をお薦めしたいのです。

失敗について語られた名著、古典として、3冊の本が挙げられます。1冊目は、『シリコンバレー・アドベンチャー ザ・企業物語/ジェリー・カプラン(著)』(原題:STARTUP:A Silicon Valley Adventure)。2冊目は、『社長失格/板倉誠一郎著』。この2冊は、ベンチャーの創業から破たん、解散までを起業家自らが書いた本であり、今もなお読み継がれているものです。

そして3冊目が、今回取り上げる『人と企業はどこで間違えるのか? 成功と失敗の本質を探る「10の物語」』です。ジョン・ブルックス著の本書の原題は「Business Adventures」。先の2冊同様、会社が成長して絶頂を極めた後、急転直下、経営が傾きはじめ破たんしてゆく様が見事に描かれています。前述の2冊との違いは、著者が起業家ではなく、経済・金融ジャンルで数々の優れた作品を残した編集者・ライターである点。そして取材対象になった10社の中で、見事に再生し、今なお継続的な経営が行われている企業がある点です。

また本書は、ビル・ゲイツ氏が初めてウォーレン・バフェット氏と会った際、お気に入りのビジネス書を教えて欲しいと依頼して、推薦された本としても有名です。のちにビル・ゲイツ氏は「ウォーレンが私に貸してくれてから20年以上も経つが、その間、今でも読み返すことがある愛読書であり、最高のビジネス書であり続けている」と語り、絶賛しています。

本書に描かれているのは、アメリカの資本主義が辿ってきた道であり、起業家や金融業界が繰り返し辿ってきた道。経営者や株主、一流といわれるビジネスパーソンが、人生やビジネスにおいて“どこで間違えたのか”あるいは“間違えなかったのか”がつぶさに語られています。日本でも間違いなく「経営」と「直接金融」について理解を深めるには、最適の書に思えます。

最後に、本書の目次をご紹介しておきます。GE、フォード等、過去の経営者の栄枯衰勢物語としても面白いのですが、そう読むだけではなく、各章の主人公たちが失敗や成功に至った原因の「本質的部分」を読み解いていただけると、非常に役立つ教訓が得られると思います。

  • 第1章 伝説的な失敗 ─ フォード社エドセルの物語
  • 第2章 公正さの基準 ─ テキサス・ガルフ・サルファー社インサイダー事件
  • 第3章 ゼロックス、ゼロックス、ゼロックス、ゼロックス
  • 第4章 もう一つの大事件 ─ ケネディの死の裏側で
  • 第5章 コミュニケーション不全 ─ GEの哲学者たち
  • 第6章 最後の買い占め ─ メンフィスの英雄、かく戦えり
  • 第7章 二つめの人生 ─ ある理想的なビジネスマンの記録
  • 第8章 道化の効能 ─ いくつかの株主総会にて
  • 第9章 束の間の大暴落 ─ 永遠のホセ・デ・ラ・ヴェガ
  • 第10章 営業秘密の変遷 ─ ダンス、クッキー、宇宙服
人と企業はどこで間違えるのか?成功と失敗の本質を探る『10の物語』 出版社:ダイヤモンド社
著者:ジョン・ブルックス(著),須川綾子(訳)