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2016年12月

マインドセット「やればできる!」の研究
キャロル・S・ドゥエック (著), 今西康子 (翻訳)

今回ご紹介する【マインドセット「やればできる!」の研究】は、ある企業の採用担当の方とお話をした際に、「この本に書かれているような“growth mindset”を持つ方を採用したい」というコメントがあったことから、純粋に企業研究のために読んでみようと思った本です。仕事の一環として手にした本でしたが、読後、自分自身も何か少し考え方を変え、前向きな気持ちで日々を過ごしてみようと思える一冊でした。

本書の著者であるキャロル・S・ドゥエック氏はスタンフォード大学の心理学教授であり、パーソナリティ、社会心理学、発達心理学における世界的権威です。これまでにモチベーション、人間関係、メンタルヘルスに関する研究で多大な業績を挙げてこられました。本書は下記のような文章からスタートします。

私の研究テーマは、人間の信念の力を証明するという心理学の伝統的テーマの一つである。人間の信念は、本人が意識しているといないとにかかわらず、その人がどんなことを望むか、そして、その望みがかなうかどうかに大きく影響する。また、信念を変えることはーそれがどれほど単純な信念であれー甚大な効果をもたらすことが、すでに実証されている。

十人十色といわれますが、なぜ人には個人差があるのでしょうか。これには大きく二つの説があるようです。ひとつは「このような差異は確固たるフィジカルな違いによるもので、避けがたく変えようもないという主張」で、もうひとつは「そのような差異は生まれ育った環境や体験、教育および学習方法に起因するものだという主張」です。本書では、この二つの主張をそれぞれ「硬直マインドセット=fixed mindset」と「しなやかマインドセット=growth mindset」と言い換えています。

さて、あなたのマインドセットはどちらでしょうか。

(1)知能は人間の土台をなすもので、それを変えることはほとんど不可能だ。
(2)新しいことを学ぶことはできても、知能そのものを変えることはできない。
(3)知能は、現在のレベルにかかわらず、かなり伸ばすことができる。
(4)知能は、伸ばそうと思えば、相当伸ばすことができる。

(1)と(2)は硬直マインドセットで(3)と(4)はしなやかマインドセットです。
「知能」を「芸術的才能」「運動能力」「ビジネススキル」に置き換えてみてください。いかがでしょうか。

能力についてだけではなく、人間的な資質についても同じことが言えると本書では述べられています。

(1)どのような人間かはすでに決まっており、それを根本的に変える方法はあまりない。
(2)現在どのような人間であっても、変えようと思えばかなり変えることができる。
(3)物事のやり方は変えることができても、人となりの根幹部分を本当に変えることはできない。
(4)どのような人間かという基本的特性は、変えようと思えば変えることができる。

(1)と(3)は硬直マインドセットで(2)と(4)はしなやかマインドセットです。
あなたはどちらに近いですか? 完全にどちらかに分類されるわけではなく、この部分は硬直マインドセットだが、この部分はしなやかマインドセットというように分類される人がほとんどだとも著者は述べています。

能力を固定的に考える世界では、つまずいたらそれでもう失敗。能力は伸ばせると考える世界では、成長できなければ失敗。能力を固定的に見る世界では、努力は忌まわしいことである。能力は伸ばせると考える世界では、努力こそが人を賢く、有能にしてくれる。

硬直マインドセットの人はしくじってはならないという切迫感に駆られており、その失敗を認めようとしません。さらには本気で努力することを恐れ、失敗しないようなことしかやろうとしないようになったり、責任転嫁をしたりします。著者はそのように指摘し、テニス選手のジョン・マッケンローや元クライスラーのCEOだったリー・アイアコッカを例に挙げています。いずれも世界No.1のテニス選手であり大手企業の経営者ですが、自らの才能や能力におぼれ、より良くする、維持するということに対して努力をしませんでした。

一方で、しなやかマインドセットの人は自分のベストを尽くし、学んで向上することが成功であり、失敗は教訓を与えてくれるもので、失敗をバネにして前進しようとします。また、成功を勝ち取り、それを維持する方法を、責任を持って工夫していると述べられています。こちらの例として、マイケル・ジョーダンや元GEのCEOだったジャック・ウェルチが挙げられています。両人とも努力をし、失敗から学んでさらに成功をした人物です。このほかにも本書では、硬直マインドセット、しなやかマインドセットともに多数の例を出して興味深い内容が語られていますので、ぜひご覧になってください。

また本書では、このような考え方は人間関係構築、さらに子どもの教育の際に留意すべきものだとも述べられています。例えば、子どもが成功したときに、あなたはどのような言葉をかけますか? 「早くできてすごいね。賢いね。」など、頭の良さをほめると学習意欲が損なわれ、ひいては成績も低下するという研究があるそうです。これは子どもに「早くできなければ頭が良くない」というメッセージとして伝わってしまう可能性があり、頭の良し悪しや才能の有無にこだわる硬直マインドセットそのものだということです。そうではなく、「ほめるときは子ども自身の特性をではなく、努力して成しとげたことをほめるべきだ」と著者。このような捉え方は教育のみではなく、ビジネスの場でも応用できることではないですか?

成長をめざして自分の可能性を開いていけば、自分が今より大きくなることはあっても、小さくなることはない。これまで見てきたしなやかマインドセットの科学者、芸術家、アスリート、CEOたちは、完璧にできあがったロボットではなく、自分の個性と可能性を最大限まで伸ばした人間であった。

弊社では展望を伴った転職=「展職」のサポートをするべく、現時点でのマッチングだけではなく、5年後、10年後も活躍していただけるようなご支援をしたいと考えています。しかし日々業務を行う中で、採用企業側の要求要件と、求職者のスキルとの単なるマッチングに陥ってしまいそうになることもあります。そのたびに現時点のみならず、将来の可能性も踏まえた上で、採用企業と求職者の双方が長期に活躍できる紹介業務を、と襟を正しています。

ただ、これまでのキャリアコンサルタントとしての経験から、ご相談に来ていただいた方が「どういうご経験をお持ちなのか」「どういうことをやりたいとお考えなのか」をヒアリングさせていただきつつ、「どれくらいのことが出来るのか」を見極めているのも事実です。

では現時点でのご経験・能力がすべてかというとそういうわけではなく、今後の可能性ももちろん、キャリアの展望を実現するには重要な要素になります。本書の一番の主張は「自分のやれること、可能性、才能は現時点で完成されているものではなく、考え方次第でもっと成長させることができる」ことです。

これまでの人生や将来のことだけでなく、日々の仕事でもうまくいくときもあれば、うまくいかないときもあります。「困難を楽しみ、現実に慢心せず、努力を惜しまない」…なかなか難しいことだと思いますが、マインドセットを変えることでうまくいかなかったことを糧にし、今後もまだまだ成長していけると思えるのであれば、日々をもっとしなやかに過ごしていけるのではないでしょうか。

マインドセット「やればできる!」の研究 出版社:草思社
著者:キャロル・S・ドゥエック (著), 今西康子 (翻訳)

コンサルタント

伊藤 嘉浩

株式会社アクシアム 
取締役/エグゼクティブ・コンサルタント

伊藤 嘉浩

2008年、アクシアムに参画。エグゼクティブ・コンサルタントとして、経営者やプロフェッショナル人材、MBA、若手・次世代ビジネスリーダーまで、幅広い年齢層へのコンサルティング、キャリア開発、紹介実績あり。アクシアム参画前は、商社にてアパレルブランドの輸入販売や海外事業開発を手掛け、新規事業の立ち上げと事業の黒字化を達成。事業計画策定、商品企画、マーケティング、リテールマネジメント、組織開発、生産管理などの経験を持つ。海外事業開発をはじめとする“実業経験を持つキャリアコンサルタント”として、個人のグローバルなキャリア、イノベーティブなキャリアの実現を使命とする。

日本キャリア開発協会認定 キャリアディベロップメントアドバイザー(CDA)