転職コラム注目企業インタビュー

ウェルスナビ株式会社2016.12.08

「働く世代が豊かさを実感できる社会を創る」という想いのもと、その資産形成をサポートするまったく新しいサービスを開発した企業があります。その名も、ウェルスナビ株式会社。これまで一部の富裕層や機関投資家のみが恩恵を受けてきた世界基準、プロ基準の資産運用サービスの一連のプロセス(ゴール設定からポートフォリオの作成、投資、運用まで)を高度なアルゴリズムを用いて自動化。PC、モバイルアプリにて提供し、誰もが気軽に自分の資産を育てられるサービスを開始しました。2015年4月の会社設立から同年12月の金融庁の認可・登録、2016年7月のサービス正式リリースまで、異例のスピードで事業を開発し、進めている同社。創設者でありCEOを務める柴山和久氏に、設立の背景、経緯、今後の目論見など様々なお話を伺いました。 (インタビュアー アクシアム 渡邊光章) [掲載日:2016/12/8]

ウェルスナビ株式会社

富裕層偏重の金融サービス、社会の在り方を変えたい

渡邊

まずは御社の創業の理念、目指されているものをお教えください。

柴山氏

我々の目標は、働く人たち、とくに20代から50代の働く世代の資産形成をサポートすることです。そのために、誰もが世界水準の資産運用サービスを使えるようにしたいと考えています。もちろん自社の事業を拡大することも重要ですが、それ以上に、金融機関へのシステム提供を通じて「金融のインフラ作りをしたい」という思いを強く持っています。そのような取り組みを通じて、働く人たちが豊かさを実感できる社会を創りたいと思っています。

渡邊

いまの日本では、働く世代は資産形成がしにくい、あるいは資産形成の選択肢がないとお考えですか?

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柴山氏

はい。そこには強い問題意識を持っています。日本の金融資産の2/3以上が60歳以上の高齢者に集中しているため、金融機関が提供する資産運用サービスも当然、高齢者向けが中心です。実際、私は前職でコンサルティング会社にいたのですが、まずは資産を持つ高齢者向けの商品やサービスを充実させようという話になりがちでした。少し広げたとしても、退職金の運用セミナーをやるなど、せいぜい50代までです。

銀行も証券会社も平日の日中しか営業しておらず、会社勤めの人にとっては非常に利用しにくいのですが、金融機関のメインのお客様である法人や高齢者にとっては何ら問題ありません。これは、極めて合理的な経営判断の帰結なのです。しかし、その結果として若い人に向けた資産形成、資産運用サービスがなく、欧米に比べて20~30年は遅れているのも事実です。

渡邊

その問題意識が創業へとつながったのですね。では、保有資産としてはどのくらいのレンジの方々が、御社のメインユーザーになるのでしょうか?

柴山氏

現在、1,000万円以上の資産を保有している方が、ウェルスナビのユーザーの65%を占めています。

日本では、年収800~2,000万円くらいの、ビジネスの第一線で新しい産業やサービスを生みだしている人たちが、実は、一番損をしているのではと考えています。年収800~2,000万円の層は、給与所得者4,700万人のうちの8%に過ぎませんが、給与にかかる所得税8兆円のうちの40%を負担しています。日本経済の背骨を支えている存在ですが、労働時間が長く、税負担が重くのしかかっています。

また、子どもがいる場合に、保育園などの子育て支援も不十分です。実際に、財務省に勤務していた際には、高齢者向けには年金・介護・医療などが充実している一方で、現役世代向けの子育て支援や教育、社会保障はなかなか充実させにくく、もどかしく感じていました。選挙の票になるところに予算が偏ってしまうのが、民主主義の悲しい現実です。

このような課題意識から、日本経済の背骨を担う働く世代が豊かさを実感できるような社会になるように、新しい金融サービスを提供していきたいと考えています。

フィンテックのど真ん中から、金融を変える、社会を変える

渡邊

御社はよく「フィンテックベンチャー」であると評されます。私個人の印象では、既存のいわゆる「フィンテックベンチャー」と、御社との間に色々と違いがあるような気がして、その呼称に少々違和感を覚えるのですが。

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柴山氏

弊社が「フィンテック」かどうかと言われると…むしろそのど真ん中ではないか、と思います。我々は、金融サービスの規制の外側ではなく、内側でイノベーションを起こそうとしています。そのイノベーションを起こすドライバーがテクノロジーであるとすると、むしろフィンテックそのものと言えるでしょう。日本では、規制の内側でテクノロジーによってイノベーションを起こそうというベンチャーは少なく、我々は少数派かもしれません。規制の対象となるサービスですので派手さもなく、むしろ毎日地道な努力の繰り返しです。渡邊さんがお持ちの違和感は、そのあたりにあるのかもしれないですね。

渡邊

なるほど。規制の内側でビジネスを始めることは、よりチャレンジの度合いが大きいように思います。それでも踏み込まれた理由は?

柴山氏

働く人たちが海外の富裕層と同じレベルの資産形成サービスを受けられるようにするには、従来の金融サービスのコスト構造では絶対に実現できません。そうすると、コスト構造を根本から変える必要があります。そこで我々が出した答えは、テクノロジーを活用してお客様のスマートフォンからNYの証券取引所までシステムを連結し、機関投資家の人たちが使っているようなアルゴリズムをそこに乗せ、資産運用をできるようにすること。資産形成サービスに関するプロセスすべてに、テクノロジーを全面的に活用することによって、コストを従来の何十分の一かにしました。このようなビジネスモデルは、金融機関としてのライセンスなしには実現できないことでした。規制の内側に飛び込んだのは…狙ったわけではなくて、気が付いたら自分たちがそこにいたという感じです。あくまでコスト構造を根本から変えることにより、海外の富裕層と同じレベルの資産形成サービスを誰でも利用可能にする、という目的を達するために必要なことだったからですね。

財務省、マッキンゼーを経て創業を決意

渡邊

柴山さんはウェルスナビを創業されるまでに、どのようなキャリアを辿られてきたのです

柴山氏

私はまだ金融庁ができる前の大蔵省で金融行政を担当し、その後の財務省時代も含めてトータルで10年弱、勤務しました。その間、海外人事交流の一環として2年ほどイギリスの財務省に出向。イギリスで社会保障予算、税制などを幅広く担当していました。日本の財務省に戻ったのち、イギリス勤務中にアメリカ人の家内と国際結婚したことがきっかけとなって退職。その後、フランスのINSEADに通い、MBAを取得しました。

卒業後は日本に帰国したのですが、当時はリーマンショックのさなか。元公務員がMBAを持っていたところで就職が難しく、就職活動をするも二十社近くも落ち、しばらく失業していたんです。お金がなくて区役所に相談に行ったら、収入がないので社会保険料の減免を受けたほど。公務員は失業保険がないですから。そのあともしばらく就職活動を続け、なんとかコンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーに拾ってもらいました。2010年、32歳のときでした。

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渡邊

退職後に移られたマッキンゼー・アンド・カンパニーには、どのくらいおられたのですか? また、官庁からコンサルティングファームに移られて、ご苦労などはありましたか?

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柴山氏

約4年半おりました。最初の1年は日本にいて、韓国に3ヵ月、それからはずっとアメリカのプロジェクトを担当していました。入社した当初は、とにかく仕事ができなくて。出来が悪かったんですね(笑)。とにかく毎日が必死で、東京、ソウル、ニューヨークの年下の先輩から厳しく指導されました。そして少しチームに貢献できるようになったかな、と思えるまでに丸二年くらいかかったと思います。

渡邊

当時、ご自身がのちに創業されることは想定していましたか?

柴山氏

想像もしていませんでした。入社前に通ったINSEADはアントレプレナーシップで有名ですが、アントレプレナーシップ関連の授業は2つくらいしか受けませんでした。

渡邊

では、創業のきっかけは何なのでしょうか?

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柴山氏

2013年から約1年半、ウォール街に本拠を置く機関投資家向けのプロジェクトを担当しました。そのプロジェクトが終わった時に、新興国に向けて同様の資産運用やリスク管理の仕組みを展開していこうという話が持ち上がりました。それらの国々の金融機関や機関投資家は、バブル期の日本のようなバランスシートになっており、リスク管理がきちんとできていない状況です。マッキンゼーにもガバナンス、ルール作り、金融工学に基づくアルゴリズムを使ったシステム構築の手法など、様々な問い合わせが来ていました。

その時、ふっと「先進国の中にも同様の課題がある」という考えが浮かびました。日本の個人金融資産の多くは預貯金ですが、当時、高利回りを謳うハイ・イールド投資信託がどんどん喧伝され、金融機関の売れ筋商品のトップを独占している状態。ウォール街ではそんなリスクの高いものは、たとえクライアントの資金が10兆円あっても数%しか組み入れないルールになっていて、システム上もリスクが一定以上になったら発注ができないようにしていたのに、です。

巨額の資産がある機関投資家は、マッキンゼーやゴールドマン・サックス、ブラックロックなどの金融のプロからのアドバイスを受けられます。個人でも3~5億円程あると、プライベートバンクからのサービスを受けられます。しかし、そのレベル以下になると、受けられるアドバイスがない…そこの不均衡を是正したいと強く思いました。このアイデアを、最初は大手の金融機関に提案しようと思ったのですが、よくよく考えてみると、従来のビジネスとぶつかってしまいます。社内調整と経営判断に相当の時間を要するため、これはスタートアップでないとできないと考え、創業を決意しました。

「自前でモノづくりの革新を起こせる金融機関」というユニークネス

渡邊

御社は2015年4月の設立後、10月には、メガバンク3行すべてを含むベンチャーキャピタル6社から6億円の資金調達に成功し、12月には金融庁の認可が下りて第一種金融商品取引業、投資運用業、投資助言・代理業の登録を完了されました。その翌年1月には招待制のサービスを開始され、7月には本サービスを正式にリリースされています。そして、10月には15億円の資金調達を実施。凄まじいスピードで事業を立ち上げられたわけですが、ここまでどのような日々でしたか?

柴山氏

海外の富裕層が利用しているような資産運用の全プロセス、つまり目標設定、ポートフォリオ作成、取引の一連が自動化されたサービスを構築できたことが、まずこの1年の一番の成果です。創業チームができた2015年9月までは私ひとりでしたが、9月からの4ヵ月間でシステムを作り、実際に稼働するようにし、2016年1月からは招待制でサービスの提供を開始。つぎの半年間ではユーザーからのフィードバックを受けて、サービスをどんどん改善していきました。例えば、毎月定額を積み立てられる機能や、自動的に節税する機能の追加など。

いまは正式リリースをして、誰でもウェルスナビのサービスを利用できるようになったので、すでに次のステップへ取り組みを始めています。それは、金融機関向けにウェルスナビのサービスの仕組みを提供し、各金融機関の付加サービスとして使えるようにしていくこと。その第一歩として、10月にはネット証券・ネット銀行の最大手であるSBIとの業務提携を発表しました。我々が創り上げた仕組みを金融インフラにしたいと冒頭でお話ししましたが、それが次の半年の目標だと考えています。

渡邊

金融庁での認可も、異例のスピードではないですか?

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柴山氏

確かに、そうかもしません。「普通は2年くらいかかる」との理由で出資を断られたこともあります。フィンテック・スタートアップとして、モノづくりのスピードは特に重視しています。ウェルスナビのビジネスの核心は、「富裕層向けのサービスが誰でも使えるようになります」というだけではなくて、それを可能にするエンジニアリングがあり、同時に金融機関としてライセンスを持っていることです。社員の6割がエンジニアで、自分たち自身の手でモノづくりができる金融機関である、というのが最大の特長。モノづくりの力とライセンスの両方を持っているのは、日本はもちろん世界を見ても、ユニークな存在ではないかと自負しています。

理想は500円からの運用。社会を変える金融インフラを目指して

渡邊

ものすごいスピード感を持って立ち上げられ、順調に推移しているウェルスナビ事業。今後はどのような会社にされたいですか? あるいは、大事にしていきたい価値観などありますか?

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柴山氏

我々のような事業を行うにあたって一番重要なことは、「ユーザーの利益を最優先すること」だと考えています。金融サービスの核心は、数学。苦手な人も多く、嫌い、わからないという方が多い領域です。ですから、医師や弁護士に近い倫理観が求められるのではと思うのです。例えば医師と患者には圧倒的な情報格差があり、医師から告げられた病名を患者はめったに疑わない、また疑えません。それゆえ医師には高い倫理観が求められます。金融も同じで、情報格差や圧倒的な知識の差があるからこそ、お客様の利益を最優先する高い倫理観を持つべきなのです。

これまでは、規制産業の宿命として、金融機関にとって最適なサービスが提供されてきた気がします。これからは他のありとあらゆる産業でそうだったように、ユーザーにとって最適なサービスが提供されるよう、180度転換されるべきだと思っています。

あるいは、ユーザーの利益を最優先にすることを一番の倫理観、バリューとして持っていないと、我々のようなサービスはその信頼が根底から覆されてしまうという側面も持っていると思います。アジアで金融機関が一番信頼されていないのは、じつは日本です。それは過去の色々なことが積み重なってのことなのですが、日本の金融サービスの信頼を回復していくためには、やはり自分たちは金融のプロであるからこそ、金融の知識を持っていないユーザーの利益を最優先するサービスを創っていくんだ、という誇りと責任感を持たねばならないと思っています。

渡邊

倫理観を挙げられたのには、新鮮な思いがします。柴山さんご自身が、金融の世界にいらっしゃったが金融機関におられたのではなく、外から見る立場だったからこそ、ウェルスナビを創業されたのかもしれませんね。

柴山氏

アメリカの場合、リーマンショックの影響で金融機関の在り方が全面的に見直されました。特に投資銀行の利益は半減し、人材がシリコンバレーのスタートアップに流出。そこからフィンテックが始まったんです。シリコンバレー流のビジネスモデルやモノづくりは、ウォール街から見ると異質なものに見えているでしょうね。

渡邊

御社では、主にサイト上で資産運用に関する情報提供をされています。今後も実際のユーザーと潜在ユーザーとの双方に情報提供をしていかれるのですか?

柴山氏

はい。サービスサイト上で、色々とアドバイスをご提供するように心がけています。やはり日本では正しい金融の知識が普及しておらず、金融庁や東証も問題意識を持っています。しかし、では具体的に改善に向けた動きがあるかというと、まだまだこれからです。フィンテック企業側が情報を提供している場合でも、その実情はステルス・マーケティングにすぎない場合もあります。ですから、投資や金融に関する情報提供は、今後も積極的に行っていくつもりです。

渡邊

PL上には表しきれない、御社の価値が出せるところですね。最後に、今後の目論見をお聞かせください。

柴山氏

現在、弊社のサービスの預かり資産は100万円からなのですが、これを段階的に引き下げていきます。SBIのお客様に提供するサービスでは、30万円からになる予定です。さらに、投資初心者向けには500円から。ワンコイン投資、豚の貯金箱のような存在になりたいですね(笑)。いまは投資経験があり、ある程度のリスクを取れる人がメインユーザーになりますが、金融インフラとして機能し、すべての人が利用できるサービスを目指したいと思っています。

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※当記事でご紹介している内容は、ご登場頂きました方の所属・役職を含め、掲載当時のものです。

Profile

柴山 和久(しばやま かずひさ) 氏

Founder & CEO

日英の財務省で合計9年間、予算、税制、金融、国際交渉に参画する。その後、マッキンゼーでは、ウォール街に本拠を置く機関投資家を1年半サポートし、10兆円規模のリスク管理と資産運用に携わる。次世代の金融インフラを構築したいという想いから、2015年4月にウェルスナビを創業。
東京大学法学部、ハーバード・ロースクール(LLM)、INSEAD(MBA)卒
ニューヨーク州弁護士

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)

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