転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第160回
2016.06.02

起業に必要なことは、何でしょうか?

大学で情報工学を専攻し、修士号を取得した後、これまで基幹業務系のシステムコンサルタントとして8年間勤務してきました。現在の年収は約1,200万円。共働きの妻、そして2人の子供がおり、家族にも恵まれています。最近、大学時代の友人があるベンチャー企業に転職し、ふと大学院時代にIT関連のベンチャーでインターンをしていた頃のことを思い出し、将来自分で起業したいと考えていたことが頭をよぎりました。大学院を卒業した当時は、起業のアイデアもなく、まずはコンサルタント会社で学ぼうと考えて現在の会社に就職。仕事は面白く、あっという間に時間が過ぎてしまい、今まで起業の夢を忘れてしまっていました。32歳になり、改めてIT関連の領域で起業したいという思いが湧いてきました。どうすれば起業ができるか、あるいは起業に役立つ経験を積めるキャリアがあるのか、教えてください。

Answer

どうすれば起業できるか。起業に必要なものといえば、資金力、経営力、経験則、知見、ビジネスアイデア、人脈、顧客、メンター、実績、夢、ビジョン、起業家精神やリーダーシップなどの指導力、カリスマ性などが挙げられ、どなたも異論はないことでしょう。

これまでキャリア相談をお受けした方の中には、転職をせずに起業された方も、転職後に経験を積み、その後で起業された方も、どちらもたくさんおられます。

その中で成功した方もいれば失敗した方もおられるのですが、その違いはどこにあるのでしょうか。前述のとおり、資金力や経営力からカリスマ性まで、必要と思われる要素をすべて揃えてスタートしたから成功するわけではありません。また、それらの要素がいくつか不足していても、成功する方はいらっしゃいます。

皆さんのキャリアの軌跡を拝見する中で、最も大切なことは、いったん起業をしたらあきらめないで継続することのように感じています。そのためには、自分への自信を持つこと。「失敗するかもしれない」という心配よりも、根拠があってもなくても「やれる」という確信、自分への強い自信こそ必要なのではないでしょうか。やりたい」という思いが、まずはあれば良いという意見も世間にはあるようですが、私は反対です。「やりたい」思いだけでは、起業後に成功することは至難の技でしょうから。

強い自信を持つためには、ご自分の限界や強みを理解できる環境に、一度身を置いてみることです。厳しい環境の中で、起業後のシミュレーションとまではいわずとも、新規事業や新サービスに関わる仕事を経験するのはとても有益だと思います。

たとえばベンチャーキャピタル、戦略コンサル、投資銀行で自らを鍛える。あるいは、ベンチャーの社長室や創業社長の直下で経営をサポートする業務を行う、大手企業で事業開発を手掛ける、インキュベーション関連の仕事を行うなどは良い経験になります。実際に起業をする前に、起業後に起こるであろう出来事を経験できるのは、大きなメリットといえます。

既得権益者のど真ん中から、ベンチャーは生まれてきません。新興産業、新しいマーケットが出現してきたような領域でこそ、ベンチャーのビジネスモデルや起業家は生まれてきます。今回のご相談者の場合、あえてお答えするとすれば、ITコンサルから直接起業されるよりは、このような領域で、起業後に役立つ知識やスキル、経験値を得ておくことをお薦めします。

経験値を得るために転職をすれば、年収は下がるでしょう。それにそもそも起業をすれば、年収の約束などどこにもありません。ですから、起業前に高い報酬を得られる会社で数年をかけて資金を貯めておくことも大事です。そうすれば、年収が下がってもご家族を養うことができます。

さて、過去にこんな方がおられました。

Aさんは、大学の工学部を卒業し、起業家に憧れ世界的な企業であるX社に入社されました。そこは創業者がまだ社長を務めておられる会社でした。そこでエンジニアとしてキャリアをスタートされ、企業派遣で海外の理系大学院にも留学させてもらい、いったん復職された後に起業を試みようとしました。ですがご自分が経営について、まだまったく理解できていないと感じ、ビジネス系のキャリアに展開すべく会社を退職。今度は海外MBA校に私費で留学し、卒業後は戦略コンサルタントに転身されました。

戦略コンサルタントとして経験を積まれた後、まだ経営者がどのようなものか、それを知るための実践ができていないと考え、ベンチャー企業の社長直下で経営企画部長として転職。執行役員までキャリアを積まれました。ついに常務になられましたが、まだ自信が持てませんでした。お金もビジネスのネタも人脈も実力も、すべて揃っているにもかかわらず、起業の決心ができなかったのです。

自信が持てないのは、「経営者」を経験していないからだとAさんは考え、外資系企業の日本支社などで雇われ社長でもいいので社長業を経験しようと思われました。経営者としての自分を試してみたいと考えたわけです。そこで再び転職。ある企業の社長として無事に3年間務め、成果を出されました。そしてついに満を持して、自分に対して起業することを許し、最終的には起業され、成功をされています。

Aさんのお話を通じてお伝えしたいのは、社長経験を起業前にしておけということではありません。自己評価として、自信を持って起業する大切さを言いたかったのです。もちろんできるだけ起業する前に、経営者として必須となる知識やスキルは身につけておきたいものですが。ただそれらが完璧に備わっていなくても、起業後にあきらめることがないような、ご自分を信じられる力こそ重要だと思うのです。ちなみに根拠のない自信でもいいのですが、できれば実績を作り、根拠のある自信をお持ちいただければと思います。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)