転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第150回
2015.08.06

起業した元上司から営業部長職の誘い、YESかNOか?

大学を卒業して上場ネットベンチャーに就職し、5年が経ちました。現在は新規事業開発チームのリーダーをしています。10歳年上の上司であった執行役員が半年前に退職。起業をしました。その元上司から「新会社に営業部長として来てくれないか」と誘われています。

新会社は現在の会社の競合などではなく、まったく別の新たなビジネスです。お話を伺ったところ、年収は下がりますが挑戦のしがいはありそうです。惹かれる部分が多いのですが、現職でもまだ成長できそうですし、やりがいも感じています。2つの選択で悩んでおり、もう1ヵ月も悶々としています。どちらに決めれば、今後のキャリアにとってより良いのでしょうか?

Answer

転職をされても現職を継続されても、楽しくお仕事ができそうですし、どちらを選択されてもそれぞれ学びが多く成長できると思います。まだお若いので、これから数年程度であれば、ご自分への投資期間として色々なご経験をされることは有益でしょう。「こちらのほうがよい」「こちらが正解ですよ」と誰かに言ってもらうと気が楽になる、ということだけなのかもしれませんね。

もし同じ質問を35歳以上の方がされたなら、一刀両断です。「それ位の判断ができないで、管理職や経営職を目指すことはできないと思います。しっかりご自分で決めてください!」と答えるのみです。しかし20代の方には、あえて丁寧にご説明・ご助言しましょう。

まず、元上司の方からの誘いだと思わないで、赤の他人から誘われたと仮定してください。はたして今回のオファーをお受けになりますか? まったく知らない起業家からの誘いだと思って、組織や職責・処遇・将来性を吟味し、競合他社分析・資本政策・事業計画書・商品の競争優位性などを客観的に精査してみましょう。重要な点は、すでに成功しているベンチャーではなくスタートアップであること。この場合、会社の将来は社長次第です。上司として立派だったとしても、起業家としてあるいはリーダーとして、本当にその会社を導いて成長させられる人物なのか、厳しく評価すべきだと思います。

あなたにスタートアップベンチャーの将来性を審査する能力はありますか? ベンチャーキャピタリストや経営経験が豊かなビジネスパーソンでも、分析することは簡単ではありません。「惹かれる部分が多い」というご自分の直感の根拠は、元上司の方とのこれまでの人間関係、恵まれた現職の環境下で上手く仕事ができた実績でしかないはずです。スタートアップの厳しさを、元上司の方もあなたも本当の意味でご理解されているでしょうか? それ相応の覚悟ができているのであれば問題ないのですが、1ヵ月間躊躇されているのは、その覚悟ができないからではありませんか? 今回のようなケースをたくさん見てきましたが、直感は過去の限定的な経験に由来していることが多く、このような際の直感ほど当てにならないものはありません。

元上司の方があなたを誘っているのはなぜでしょう? そこも大切なポイントです。ちょっと辛辣な言い方になってしまい恐縮ですが、第三者から見ると、その方は今や起業家であり、優秀な人材の採用が急務のはず。しかしそれは、スタートアップベンチャーでは簡単ではありません。よって知り合いを採用するしかなく、あなたが優秀なら、なおさら喉から手が出るほど採用したいと思うでしょう。仕事ぶりは査定済ですから、彼にとっては採用リスクも低いというわけです。

あなたを誘った真意を聞いてみて、その答えが納得できるものであれば良いのですが「ぜひ新しいことを一緒にやろう」くらいの内容なら問題です。キャリア選択をするために考えなければならない様々な要素(前述に挙げたような項目)に目をつぶることはできません。あなたのキャリアをどのように考えているのか、スタートアップに誘った責任を感じているのか、成功する自信を持っているのかなどを改めて質問し、ご自身でも審査してみてください。

その結果、もし今回の誘いにすぐに乗れないと思われたなら…その理由をしっかりご自身で因数分解しておきましょう。今後、何らかキャリアの選択をしなければならない場面に遭遇した際、ご自身の価値基準が何であるのか、整理するのに役立つと思います。一方、思い切って今回の誘いに賭けてみようと思われたなら…以下のアドバイスもぜひ参考になさってください。

その方の起業家としての能力や運の良さを信じて転職を決心された後、半年~1年程度で事業が断念となる可能性は概ね50%。半数以上のベンチャーは短期間で清算・解散・吸収される運命にあります。その時、後悔がなく元上司の方を恨むこともないなら、転職の選択も良いでしょう。あなたが入社することで、そのスタートアップは成功するかもしれませんし、あなたの努力や能力に関わらず失敗に終わることもあります。失敗経験も評価される時代ですから、スタートアップに転職して失敗したことは今後のキャリア展開上、マイナス評価にはなりません。要はベンチャーが成功するか失敗するかではなく、そこであなたが本当に“キャリア開発をできるかどうか”が重要なのです。

会社が成功しても、そこでキャリア開発ができないことだってあります。元上司が社長なんだから、成功すれば自分は執行役員以上になれるなどと勝手に思い込んではいませんか? 急成長したベンチャーでよくあるのは、会社の規模の成長に個人の成長が追いつかないので、ある程度事業が成長軸に乗った段階で、役員クラスの人材を外から連れてくるというケースです。この場合、あなたの上に外部人材が来ることになり、あなたはずっとマネージャーのまま…というわけです。「成功すれば執行役員」という口約束があったとしても、その時、本当にそれだけの力があなたについているのかもわかりません。タイトルではなく、社外にも通じる能力を身につけ、誰にでも見える実績を残せるのか。その点を最重視してください。

結論として、判断のポイントをまとめてみます。

  • あなた自身が自信を持って飛び込めるか
  • あなたが成功でも失敗で受け入れることができるか
  • あなたが本当に成長できる場であるか
  • あなたが目に見える形で実績を残せそうか

の4点だと思います。年収ややりがいなどはあえて含めず、考えてみてください。

知り合いからの誘いにのって転職する人の多くが失敗してしまう要因は、仕事上で失敗したからではなく、盲目的に知り合いを信じ、転職の決意前に冷静な分析をしなかったからです。元上司あるいは友人として良い関係でも、起業家と部下の関係になった瞬間に、新しい人間関係の契約書を作らなければならないことを、肝に銘じてください。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)