転職コラムキャリアに効く一冊

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2012年2月

辺境から世界を変える ソーシャルビジネスが生み出す「村の起業家」
加藤 徹生 (著), 井上 英之 (監修)

アジアの社会起業家が起こした、不可能を可能にしたビジネスモデルはいろいろとある。本書は、著者である加藤氏が何年にもわたってその起業家達を追い、その人となりまで踏み込んで書き上げたビジネス・ルポである。

たった一冊、本書を読むだけで、いろいろなことに気づかされる。東京での日常生活がいかに恵まれているか、かたや不満や不自由ばかりを感じ、それが日本の問題だと勘違いしてやいまいか、そして分かったつもりでも分かっていないことがどれほど多いかなどである。

どうも今の日本は概念論に終始し、机上の空論だけで、夢を失ってしまっているように思う。そのような中、この書は海外の事例ながら、東日本大震災の後の日本においてはとても参考になる。 そして、世界の途上国の現実を改めて自分の目と心で見てみることがいかに大切かを痛感させる。

例えば、世界が注目するNPO「コペルニク」。

代表の中村俊裕氏は、大手コンサルティングファームからUNDP(国際開発計画)に移り、東ティモールの建国や世界最貧とまでいわれたシェラレオネの大統領選などに携わったいわゆる非の打ち所のないキャリアを歩んできた方である。その中村氏が、途上国の最貧層の生活を救うNPO「コペルニク」を立ち上げた。助けを必要としている国や地域に、シンプルな「適正技術」を直接提供できる仕組みは、2010年の2月の開始から瞬く間に広がった。既に世界7カ国で18のプロジェクトを完了させ(2011年7月現在)、最貧層に「灯り」や「安全な水」を提供することに成功している。

カンボジアのチャンタ・ヌグワン氏は、シルク職人を育成する草の根NGO“SWDC”のリーダーである。カンボジアの女性の生活を変えるため、そして文盲の女性でもカンボジアのリーダーとなれることを示すため、逆境を乗り越えて進んできた素晴らしい女性だ。

彼女は、シルクについても何も知らず、起業家としてもビジネスパーソンとしても全く教育を受けたことのない素人であり、情熱だけの人といってよいかもしれない。

それでも上手くいったのは、彼女の「あきらめの悪さ」のおかげだと加藤氏は言っている。

彼女は「問題の当事者」であるからこそ、逃げずに(逃げられずに)這いつくばってでも前に進もうとするのだ。そして周囲もそれに惹かれ、まきこまれていき、イノベーションが起こるのだろう。

かくいう著者の加藤氏も、彼女のあきらめの悪さに惹かれ活動を共にし、その経験が本書を書くきっかけにもなったそうだ。

本書で取材対象となっている社会起業家の人達は皆、不可能だと思えるような現実的な問題の解決に対して、「当事者」として決してあきらめずに逃げない人達である。

そして著者の加藤氏、監修の井上氏もそれは同様で、みなとても魅力的である。

「辺境から世界を変える」ということは、一方で「辺境には、人間の大事なことを再発見し、自分を見つける機会が溢れている」ことを物語っているように思う。

今後は日本でも、井上氏、加藤氏、あるいはコペルニクの中村氏のような高学歴者がNPOに参加したり、あるいは自らが社会起業家となったりすることが多くなるだろう。そうなれば、世界はもっと良くなると確信できる書であった。

辺境から世界を変える ソーシャルビジネスが生み出す「村の起業家」 出版社:ダイヤモンド社
著者:加藤 徹生 (著), 井上 英之 (監修)