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2012年3月

「指一本の執念が勝負を決める」&「カイシャ維新」
冨山 和彦(著)

産業再生機構のCOOとして41件の事業再生を終了し、2007年、47歳にして株式会社経営共創基盤を起業した氏が、その志を語ったのが『指一本の執念が勝負を決める』である。そして2010年、JAL破綻に際して改めて氏の名前が日本中に知られることになった時、「変革期の資本主義の教科書」としてまとめたのが『カイシャ維新』である。

「指一本の執念が勝負を決める」は、プロフェショナルを目指す人、リーダーを目指す人には必読の書だ。氏は、尊敬する内村鑑三の「後世への最大遺物とは、勇ましい高尚なる生涯」であるという言葉を引用し、自ら、「天からしかるべきギフトとチャンスを与えられた者、真のプロフェショナル」として、自ら後世に生涯をささげる覚悟と信念を掲げている。印象的だった文章をいくつかここに引用しよう。

「時代の転換期には、旧体制とは違った資質をもったリーダーが求められる……。(中略)人が役に立つか立たないかのわかれ目は、その人のストレス耐性があるかないかなのです。頭がいいとか悪いとかに関係なく、ストレス耐性のない人は、本当に戦って欲しい局面で機能しなくなるのです。むしろ、典型的なエリートほど、ストレス耐性がない場合が多く、現場から引き上げてもらったことが何度もありました。」

「経営者が意思決定をするときって、もう絶対寝不足なのです。寝不足とストレスで、みんなボロボロの状態で意思決定する。そこでキレてしまったり、ストレスに負けて倒れてしまう人はダメなのです。(中略)戦国時代は、もうこれしかあり得ないという乾坤一擲の大戦略、賢い戦略で勝ったなんていうケースは、信長の桶狭間と義経のひよどり越えぐらいのもので、非常にまれです。多くは実力が伯仲する中で、理性を失った側が負けているのです。逆にいえば、心身ともにタフなやつが勝つのです。」

「私はこれからもずっと、ガチンコ勝負を続けていく。そこから得られるものの素晴らしさを知り、その虜になっているからだ。(中略)……ガチンコ勝負が終わった後に血となり肉となり得られているものは、ビジネススクールの授業とは比較にならないほどの価値があるものだ。負けを避け、ローリスクローリターンの勝負を続けていても、得られるものはそのときの組織の中だけ、あるいは限られた状況下においてのみ通用する、見かけ倒しのパワーや小ざかしいノウハウだろう。(中略)カイシャ幕末体制に代わる新しい社会システムを作り上げるのは、そうやって生き抜いてきた新しい世代なのだ。既成のシステムに順応し、既得権益構造に組み込まれてしまった中高年エリート層には、もはやあまり多くを期待できない。」

一方、『カイシャ維新』は、こうした経験をさらに氏の知に照らし合わせながら、経済社会のメカニズムや、構造、現在何がおきているのか、将来にむけて何を考えておくべきかなどについて、帰納と演譚の思考の循環から考察したものである。

それは社会に向けられた言葉であるが、2007年から3年の間で、冨山氏の思想が日本の問題から世界の問題、さらに資本主義経済にまで広がっていることがわかる。

知的良心が求められるという氏の主張は明快で、決して、安易な普遍原理を振りかざすような愚かしいことはしない。答えは述べられていない。しかしながら、単なるムラ社会批判や悲観からは何も生み出せないとすれば、この書にかかれている考察を参考にしながらも、私たち一人ひとりが自ら考え、決断を続けてゆくことが著者の願いなのだと思った。

「指一本の執念が勝負を決める」&「カイシャ維新」 出版社:ファーストプレス
著者:冨山 和彦(著)

カイシャ維新 変革期の資本主義の教科書


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出版社:朝日新聞出版
冨山 和彦(著)