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2014年11月

ネルソン・マンデラ 未来を変える言葉
ネルソン・マンデラ (著), 長田雅子 (翻訳)

その他参考作品:
『ネルソン・マンデラ 私自身との対話』Conversations with Myself By Nelson Mandela
『信念に生きる――ネルソン・マンデラの行動哲学』リチャード・ステンゲル(著)
映画『INVICTUS:インビクタス‐負けざる者たち‐』(出演:モーガン・フリーマン、マット・ディモン 監督:クリント・イーストウッド 製作総指揮:モーガン・フリーマン)。
※本文中に映画の内容に言及がございますので、ご注意ください。


ネルソン・マンデラは1918年生まれ、南アフリカの白人政権下で、反アパルトヘイト自由運動を起こし、そのために46歳のときに国家反逆罪で終身刑の判決を受けました。全世界でマンデラの解放運動が起こり、解放された1990年まで27年間の投獄生活を余儀なくされました。解放された時すでに72歳となっていたものの、白人を憎むことなく、許し、サティアーグラハ(ガンディーが政治・社会改革の方法として始めた非暴力不服従の思想・運動)を貫くことで、南アフリカに人種差別撤廃の改革を成し遂げました。このリーダーシップに私達は、多くを学ぶことができます。翌1991年にアフリカ民族会議(ANC)の議長に就任。デクラークと共にアパルトヘイト撤廃に尽力し、1993年にノーベル平和賞を受賞。1994年、76歳で南アフリカ初の全人種参加選挙を経て同国大統領に就任しています。

小職はこの夏、南アフリカのGIBSにおいて、本書の翻訳者である長田雅子博士自らの講義を聞く機会に恵まれました。本書の著者、ネルソン・マンデラについては沢山の著書や映画作品がありますが、ヨハネスブルグに滞在し、ネルソン・マンデラについて、また、今後の日本、私個人のことに関して深く考える機会を得たことは人生の大きな転機となりました。これから人類は資本主義と民主主義の2つの思想の中で、どうすればよいのか。今の日本が置かれている状況では、何が必要なのか。私はどうすれば良いのか?これから日本のキャリアデザインはどう変わってゆくのか?そんなことを課題として臨んだ旅でした。

前述した課題に一つ、答えを示してくれたのが、南アフリカの旅と20世紀が生んだ最後の偉人ネルソン・マンデラが残してくれた言葉です。

『人生最大の栄光は、一度も転ばないことではなく、転ぶたびに立ち上がることにある。』

この言葉とともに、マンデラと同じく南アフリカのノーベル平和賞受賞者でもあるツツ大司教が添えた言葉が本書のすべてを表しています。「あなたの人生の指針にしてください。歴史は私たち一人一人にふさわしい役割を与えています。人間は皆、偉大なことを成し遂げる力をもっています。そして、世界はあなたの力を必要としているのです。」

さて、本書は、マンデラの人生や偉業について映画などをみた上で、ぜひ読んで欲しいと思います。聡明で見識のある立派な政治家による永続性のある言葉です。以下に本書からの抜粋です。


  • 私は決して言葉を軽んじません。27年の獄中生活で良いことがあったとすれば、ひとりでいることから生じる沈黙のおかげで、言葉がいかに大切であるか、心からの言葉が人間の生死にいかに影響を与えるかを理解したことです。
  • 人間は社会によってつくられる。自分の良いところを認めてもらうことで、人はやる気になる。
  • 与えられたものではなく、持っているものから何かを創りだすかによって、人と人との違いが生まれる。
  • 道義は私たちが友人を見捨てることを許さない。
  • 人と人を結びつけるのは思いやりの心である。憐憫や庇護の情からではなく、共通の苦難を未来への希望に変えることを学んだ人間同士として結びつくのです。
  • 大切なのは何が起こったかということよりも、それをどのように受け止めるかということだ。
  • 自分を改革するのはとても困難だ。社会を改革するよりも、ずっと難しい。
  • アフリカには「他の人間がいるからこそ、私たちは人間である。」という認識に基づいた、「ウブンツ」という概念がある。
    ※本書の訳者あとがきにも書かれていることですが、筆者も、ウブンツには先祖を敬うこと、年長者を敬うこと、謙虚であることなど日本人が伝統的に大切にしてきたことに通ずるものがあると考えます。
  • 自由であることの目的は、他人を自由にすることにある。
  • 「刑務所に入っていないこと」と「自由」は同義ではない。「戦争がない状態」と「平和」が同じことを意味しないように。
  • 地上最強の武器は、暴力ではなく対話である。
  • 暴力と争いでバラバラになった今の世界において、平和と非暴力というガンディーのメッセージは、人類が21世紀を生き残る鍵を握っている。抑圧者の情け容赦のない権力に、サティアーグラハという魂の力を対抗させることによって、抑圧者を正しい倫理的な見方に改心させることができると、ガンディーは信じていたし、それは正しかったのだ。
  • 宗教団体には、社会の良心、道徳の後見人、弱者や虐げられた者の勇敢な擁護者であり続けてもらう必要がある。市民社会の一員として、基本的人権の保護と正義のための運動を展開してもらわなければならない。
  • 世界各地に存在する道徳観の腐敗したコミュニティは、人類に対する犯罪として世界中から非難されている行為の維持を正当化するために、神の名前を利用したりしている。
  • 妥協する意志がなければ、交渉は不可能だ。
  • たとえばどのような紛争においても、一方が完全に正しいとか、完全に間違っているとか言えない点に達するものだ。真剣に平和と安定を望む者にとって、妥協以外に選択肢のない段階に達するものだ。
  • 国家は、最上層の国民をどう扱っているかではなく、最下層の国民をどう扱っているかによって判断されるべきだ。
  • 組織の中でも、個人の仕事においても、自分が間違ったことをしたら反対してくれる、強い人間で周りを取り囲むのは非常に有意義なことだ。
  • 貧困が存在するところに、真の自由は存在しない。
  • 今の若者にお願いしたいことがあります。自分の運命の脚本を自分で書き、自分で主役を演じてください。
  • どの大陸、どの国、どの地域社会でも、国籍や宗教や人種や言語に基づいた勢力が争って血煙が立ちのぼる戦場になることは二度とないと、私達は自信をもって宣言できるだろうか?世界は途方もない経済発展の可能性を秘めているが、経済発展が権力を持つ人だけではなく、世界中の人々すべてに恩恵を与えることを確実にするという歴史に与えられた挑戦を、私達は受けて立つことができるだろうか?

みなさんが本書を読まれた後には、同じ言葉だとしてもきっと違う言葉に感じることでしょう。私は上記の言葉が心に沁みこんできました。人類のリーダーとして、マンデラは人の話をしっかり聞くことを重視していたといいます。そして彼は素晴らしい言葉を残してくれました。

マンデラがもっとも私たちに伝えたかったことは、他者を許す事が何よりも未来を変えるために強い行為であること、そして「私が我が運命の支配者、私が我が魂の指揮官なのだ」という事に尽きると思います。この言葉は、27年間の投獄中にマンデラの心の支えとなった英国の詩人ウィリアム・アーネスト・ヘンリーの「INVICTUS」の詩の最後の言葉です。

本書と共にぜひネルソン・マンデラ大統領を描いた映画『INVICTUS:インビクタス‐負けざる者たち‐』をご覧ください。(出演:モーガン・フリーマン、マット・ディモン 監督:クリント・イーストウッド 製作総指揮:モーガン・フリーマン)

映画の中で、マンデラ大統領がラグビー代表チーム主将フランソワに対してリーダーシップについて語るシーンがあります。

マンデラ:「指導者としての君の哲学は?チームに全力を尽くさせるには?」
フランソワ:「手本を示して仲間を導きます。」
マンデラ:「だが、彼らが思う以上の力を引き出すには?実に難しいことだ。
ひらめきが求められる。卓越した力が必要な時に自らを奮い立たせるには?周りの者すべてを鼓舞する方法は?私は優れた作品に勇気づけられた。絶望的な状況になった時、詩にひらめきを得た。ヴィクトリア時代の詩だ。打ち負かされた私に立ち上がる力をくれた。」

映画の最後はさらに見事でした。ネルソン・マンデラを訪問しているモーガン・フリーマンがメイキングフィルムのように出てくるのですが、常に未来を信じるマンデラ大統領は、自らの運命のみならず、人類に希望を与えてくれる指揮官になったのだなと感じました。

最後に、マンデラ大統領が27年間の投獄中に心の支えとした詩、英国の詩人ウィリアム・アーネスト・ヘンリーの「INVICTUS」を全文記載しておきます。

INVICTUS – William Ernest Henley

Out of the night that covers me,
Black as the Pit from pole to pole,
I thank whatever gods may be
For my unconquerable soul.

In the fell clutch of circumstance
I have not winced nor cried aloud.
Under the bludgeonings of chance
My head is bloody, but unbowed.

Beyond this place of wrath and tears
Looms but the Horror of the shade,
And yet the menace of the years
Finds, and shall find, me unafraid.

It matters not how strait the gate,
How charged with punishments the scroll.
I am the master of my fate:
I am the captain of my soul.

インビクタス-負けざる者たち-
ウィリアム・アーネスト・ヘンリー

私を覆う漆黒の夜
鉄格子にひそむ奈落の闇
私はあらゆる神に感謝する
我が魂が征服されぬことを

無惨な状況においてさえ
私はひるみも叫びもしなかった
運命に打ちのめされ
血を流しても
決して屈服はしない

激しい怒りと涙の彼方に
恐ろしい死が浮かび上がる
だが、長きにわたる脅しを受けてなお
私は何ひとつ恐れはしない

門がいかに狭かろうと
いかなる罰に苦しめられようと
私が我が運命の支配者
私が我が魂の指揮官なのだ

ネルソン・マンデラ 未来を変える言葉 出版社:明石書店
著者:ネルソン・マンデラ (著), 長田雅子 (翻訳)