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CAREER DESIGN SEMINAR in USA Spring 20102010.05.27

2010年4月、約1年半ぶりにUS主要ビジネススクールを訪問しました。前回はリーマンショック直後の2008年9月に訪問しましたが、それから19カ月、社会の大きなうねりの中で日本人MBA事情が大きく変わってきたことを実感しています。

3つのポイントでその変化をご報告させていただきます。

1)MBAの方の関心の方向

前回の訪問時期は、在校生が金融業界への就職に対して警戒心を一気に加速させた時期でした。当時、PE業界への関心度はピークを越えすでに下降し始めていましたが、まだそれに代わるものはなく、方向を模索しているような印象でした。それがこの1年間で、MBAの皆さんの関心は、次の3つのテーマに向かって大きくシフトしたと感じます。

【注目の3つのキーワード】

  • Environment
  • Energy
  • Healthcare

金融、コンサル、PE、VC、医薬医療、ハイテク、IT、ネット、モバイル、消費財、ブランド、リテールなど、業界に対する志向性は学生の方によって異なり、多用化して選択肢も広がったと感じるところもありましたが、同時に全体としては上記3つのテーマがMBA留学中の皆さんの心に大きなバイブレーションを起こしているようです。

これは日本で相談しているPost MBAの方よりも明らかに強く、一歩二歩先行している印象です。 実際にアメリカ社会においては、求人ニーズでもこの3つのテーマに関するものが増える流れが生まれています。 優秀な若い人が、レガシーな産業から資本とともに成長産業や成長市場に移動することは当然のことであり、それは社会のプラスになることだと思いますが、その意味で、これはとてもうれしい流れです。

ただ残念なことに、日本の求人市場ではアメリカのような流れが生まれているとは言えず、そのテーマに関する求人は相変わらず少ないと言わざるを得ません。雇用までガラパゴスになったのではと、危機感を抱きさえします。

2)チェンジメーカー

世界規模での社会貢献をしたり社会変革を起こしたりする起業家、「チェンジメーカー」といいますが、そのような単語を使わずとも、業界やテーマは様々ですが、世界的スケールでインパクトのあることや社会のためになることをしたいと、強く心から思っている人が数多くいました。一方で、「漠然と社会貢献をしたいという人や、社会貢献という言葉を軽々しく口にするばかりで具体性がない人は信じない」という厳しい視点を持つ方もいたことが印象的でした。

ただ、どちらのタイプも「何かやり遂げたい」という強い気持ちがある点は共通していると感じます。 「口先だけの社会貢献は信用しない」というタイプの方は、「金融機関のプロを目指している自分としては、社会貢献などと言う前に、あるいは他人のためにと言う前に、まず自分のことをしっかり磨きたい」という思いであるだけで、社会貢献そのものに否定的なわけではないあたりが頼もしいなと思いました。投資銀行の中にも会社としてさまざまな社会貢献活動を行い、あるいは寄付を通じて社会に貢献しているという会社もあるし、個人としても社会に還元する方法論が多数ある社会に変わってきたのだと思います。

いつの世も、「社会を変えよう。もっと良くしよう。」という思いを熱く語ることは若者の特権かもしれません。しかし、この社会への貢献を現実的、かつ強く思っている人は、10年20年前のMBA留学生よりも明らかに多くなったと思います。それだけ日本の産業社会が大きな問題や閉塞感を抱えてしまっている、と言うことなのだと思います。ただし、MBA在校生の中でも社会起業家のクラスに強い関心を持っている人もいますが、まったく関心を示さない人もいて、その温度差はかなりありました。

筆者としては、「ヘルスケアの領域やエネルギーの領域で、絶対に社会や、日本をとりまく環境をかえたい。そのために留学中も、こんなところでインターンをしたり、人脈を広げたりしています。」というMBAの方にお目にかかると、とても嬉しい思いになりました。このように、単なる概念論ではなく、実際に社会起業家としてスタートする準備をしている人が多く生まれ始めていることから、今まで以上に、「チェンジメーカー」を目指すというキャリアが具体性を持ち始めていると思いました。

3)日本人減少

日本人学生数については、企業並び官庁派遣と私費留学がともに減少傾向にあるのではと、強く危惧します。今回訪問した先はいわゆるMBA上位校ですが、各校の2010年入学生の合格発表のあるこの時期、日本人がかなり減少していることが徐々に判明してきたことから、在校生も強い危機感を持たれていました。いろいろな方から聞いた理由と、私が思っていた理由をまとめてみます。

  • TOEFLのスピーキングテストは、日本人にとって難易度が上がり、高得点をとることが難しくなった。
  • インド、中国からの留学生は積極的で、かつ学校側も歓迎、拡大している。相対的に日本人が減少。
  • 製造業出身者の私費の方が減少、日本の製造業に勤務する人の賃金がここ数年かなり抑制されてきたので、20代の人が留学資金を貯めて来ることが難しくなった。特に学費の高い上位校では、外資系金融、コンサル業界出身者など、留学資金を準備できて英語力もそもそも高い人の割合が高くなっているように思えた。
  • 上位校では、2010年入学の日本人留学生全体の数が減少したが、特に企業派遣生の減少が目につく。相対的に私費留学生比率は高くなっているようである。母数が減少したとはいえ、企業派遣生が以前ほど簡単に上位校に合格していない状況であるといえ、企業派遣生が昔に比べ学校側から評価されなくなったのではと個人的には思う。
  • アメリカでは、MBAのみならず短大・大学・大学院留学の全ての学位レベルにおいての留学志向が、20年程度のスパンで見て減少している。他方、欧州やアジアへの留学希望者は、増加しているという話と減少しているという話が現時点(2010年5月)では混在している。
  • MBA留学への投資効果を疑問視する人が増加。2年という時間と高いコストに投資をしなくなった。
  • タフな競争に打ち勝とうする意欲、高い志を達成するための精神力、競争に勝つために学ぼうとする人が減少。安易なMBA下位校への留学、コモディティー化したMBAの拡大。

原因は決して一つではなく、上記の複数の理由が重なってのことであると思われます。

これを危惧する方いらっしゃる一方、中には「上位校のMBAが減少したら、上位校のMBAの希少価値が高まるから、いいじゃないか」とおっしゃる方もおられました。なるほど、その方のMBA卒業時における利益だけ考えればそのとおりかもしれませんね。

しかし、長期的には個人にとってもプラスでなく、マイナス面が大きくなってくる気がします。 例えばグローバル企業の採用においては、そもそも、日本人としての希少性があまり意味を持たなくなっています。 社会経済全般において日本の地位がどんどん低下する中、アジアでリーダーとなれる人材という視点で採用選考が行われるとすると、日本人が少なくなった分、中国人や韓国人という手ごわいライバルが増えただけで、希少価値が上がることはなく、むしろポジションの競争はますます熾烈になるともいえるのです。

グローバル企業でも、あるいはグローバルコンサルティングファームや投資銀行でも、多数のMBAから優秀なMBAを選んで採用したいのであって、それにはある程度の母数が必要です。母数としての日本人数が減れば、関心が減じることになってしまいます。分子が少なくなったことで希少価値が生まれるということはなく、日本での(日本人の)採用が減るだけで、ちっともメリットを享受できないかもしれません。

それよりも、より多くの優秀な日本人MBAホルダーが世界中で活躍し、日本の地位が再度上がり、そしてゆくゆくは皆さんが求人側として後輩たちを採用することとなるようなスパイラル構造を作ったほうが、よほど個も全体も幸せになると思います。上位校出身者に限らず、あるいはアメリカであれ欧州であれ、MBA卒業時であれPost MBAであれ、MBAの方の活躍次第だと思われます。

以上、1)MBAの方の関心の方向、2)チェンジメーカー、3)日本人減少という3つの視点で最近の変化をレポートいたしましたが、社会の変化の中でMBAホルダーに対する人材ニーズと需要のパターンが多用化し、多彩な業界や領域に拡大している中、一人でも多くのMBAの方がビジネス社会でより活躍されることを引き続き願います。

CAREER DESIGN SEMINAR in USA Spring 2010

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