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2011年9月

プロボノ pro bono 新しい社会貢献新しい働き方
嵯峨 生馬(著)

2011年4月20日に発行されたこの書は、日本の社会人が今後の人生や日本社会を考える上で、非常に有益で示唆に富んでいる。

マスメディアにおいて昨年あたりから「社会起業家=ソーシャルアントレプレナー」という言葉ともに多く語られるようになったが、最近になると新たに「プロボノ」というキーワードが使われることが多くなった。

「プロボノ」とは、単なる時間や労働力を提供するボランティアとことなり、ビジネススキルをそなえた人達が専門性、経験、見識、スキルや人脈を持ち寄って社会に貢献することである。NPO団体、非営利団体を通じ無償で行うことが多く、現職をもったままパートタイムで可能な時間のみ使役を提供するケースが多い。中には休暇を取得して、ある期間労働を提供するケースもある。

これまでにも、既に大学生を中心に社会貢献活動やNPO活動は広がっていたが、社会人やビジネスマンの間でも社会貢献活動への関心が高まったのが昨年2010年からであり、そして2011年に入りこの「プロボノ」という言葉が急速に広がりはじめた。

ゴールドマン・サックス証券株式会社でも、2010年10月から社員参加型の社会貢献活動として、NPOの組織基盤構築支援を行うプロボノプロジェクトを開始している。

このような社会の流れのさなか、2010年3月11日に大震災が起きた。

その復興の動きの中で、「プロボノ」がさらに注目されている。

本書では、そんな日本で始まったばかりのプロボノの実体、様々な形態を示してくれている。

筆者の嵯峨氏は、東大卒業後シンクタンクに勤めていたが、アメリカのNPOなどの運営状況などを実際に訪問、調査したところからこの書は始まる。

現在、嵯峨氏はシンクタンクを退職し、「サービスグラント」というNPO団体を立上げ、プロボノワーカーの発掘と日本での啓蒙活動、各種社会貢献活動をプロジェクトとしてマネジメントしておられる。「サービスグラント」には、すでに774名の登録者がおられ、実際過去社会貢献プロジェクトに参加したプロボノワーカー数は118名となっているそうだ。

本書はそうした実践者、啓蒙者としての立場から書かれており、概念のみ披露した研究書とは一線を画す。プロボノを考えている人には、この書とNPO「サービスグラント」のホームページは必読だ。

もう一度、震災後の日本人のキャリアや働き方や幸せの形を考える時、プロボノは一つの選択枝となりえる。

アクシアムも、何度かプロボノとしてプロフェッショナルサービスをNPO団体に提供したことがある。よって、本書に書かれている内容にそこまで新しい驚きはなかったものの、本書に取り上げられていたあるデータには大きなショックを受けた。

『78ページ 図3-5 新入社員の意識調査』
  2003年ごろから2010年までの公益財団法人日本生産性本部「2010年度新入社員意識調査を元に筆者が作成されたもので、以下の2つの回答者比率を比べたものである。

A 「今の会社に一生勤めようと思っている」
B 「社内で出生するより、自分で起業して独立したい」

2003年ごろは、A:31.5% B:30.8% とほぼ同じ程度いたのだが、何と2010年のデータでは、A:57.4% とほぼ増加し、約6割の新人は、就職した会社に一生勤め上げたいと考えているというのだ。逆に、独立起業したいと思っている人は12.8%まで減少してしまった。

さらにショックなことに、「キャリアアップをどの程度重視していますか?」という問いに対して、55%が「重視していない」と答えている。

別の調査では、日本人の職場における満足度は他国と比べ極端に低く、数%程度しか満足していないという。これは、米国よりも、フランスよりも、英国や中国よりも低い。

「やめるほどではないが、満足はしていない。でも社外のキャリアに対しては慎重。」という社会人像があらためて浮き彫りになっている。

筆者の素晴らしいところは、そのような日本人の心情を踏まえながら、行政運営への市民参加の取り組みに新たな提言をしている点である。行政や公共事業のマネジメントにおける「成果主義」「民間活用」「顧客志向」の流れの中、プロボノ活動による市民と行政の「成果による協働」が不可欠であるということを力説している。

震災後5か月が経過したが、復興のためのNPO活動がそろそろその成果を見せ始めている。そのような活動成果を明らかにすることが、プロボノ参加者の誇り、参加のためのインセンティブになると私も思い、著者に多いに共感するものである。

プロボノ pro bono 新しい社会貢献新しい働き方 出版社:勁草書房
著者:嵯峨 生馬(著)