転職コラムキャリアに効く一冊

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2011年10月

カンブリア宮殿 就職ガイド 村上龍×73人の経済人
村上 龍(著),テレビ東京報道局(編集)

大学新卒者の2割が就職先が決まらないという時代を迎えている。著者は、まえがきの中で3.11の大震災で若者の就職難が忘れ去れた感があることにふれ、そこへ警鐘を鳴らすところから本書を始めている。震災後の復興は、経済を活性化すること以外の道では果たせないと思うが、その上で、この問題は避けて通れないはずである。

新卒学生や若手の転職希望者向けに書かれた本書であるが、真剣にキャリアデベロップメントを考える人、未来のビジネスリーダーを本気で目指す人にも良書であると思う。

村上 龍氏には、「13歳のハローワーク」という良書を世に出した功績がある。若年層向けにさまざまな職業をつまびらかにし、身近に感じさせるすばらしい書だ。またJMMというメーリングサービスは、赤字でも人に役立つということで何年も続けている。

村上氏が、なぜ日本の経済や雇用の問題にここまで力を入れているのかについては本書で述べられていないが、社会的課題に正面から取り組み、「物書き」という自分の領域、スキルでその解決にあたっているのは紛れもない事実だ。

社会にインパクトをあたえるという点、小説家というだけでなく、立派な起業家であると認定しても良いはずである。経営者という名称でないだけであるように思う。

村上氏がもつ労働環境への見識は極めて的を射ている。下記のまえがきからも賢明な皆さんにはそれが容易にご理解いただけると思う。

それは、村上氏が伊藤譲一氏を友とするなど、多くの経済人と交流する中で見識を紡いでいるからであろう。

「新人をトレーニングする余裕がない企業が増えているし、(中略)……。企業側の人材獲得の方法が高度化しているのに対して、学生側は、高専や専門学校、それに大学の医療系学部などを除いて、職業・実践教育というのを受けていないし、インターン制度なども確立しているとは言いがたい。

(中略)……。さらに製造業、非製造業に共通して、高度な知識・技術・スキルと必要とする専門・管理職のニーズは減少し続けている。高収入が約束される職業・職種・部署はしだいに限られたものになりつつある。そして、非常に多くの企業において、いくら働いてもほとんど給料が上がらないという決定的にネガティブな事実もある。

(中略)……。勘違いしないで欲しいが、企業トップの経営ポリシーを知れば、その会社への就職が有利になるということではない。

まず、どのような業態・業種があり、それぞれにどのような相違点と、共通点があるのかを知って欲しい。スズキや花王や伊藤忠、それにユニクロやニトリやソフトバンクの社員はどういった働き方をしているのか、トップはどういったことを考えているのか、どんな人材を欲しがっているのかなどを知ることは、就職に向き合うときに重要な情報となるはずだ。そして、この困難な時代、利益を出している優良企業がどのような考え方、システムで経営されているのかを、知ってもらいたい。その知識は、実際に面接などでも役立つだろう。」(本書前書きから抜粋)

さて、本書では、村上氏が、テレビ東京の同名の番組で対談した社長達の対談録から、2ページずつ、金科玉条の言葉として抜粋されている。

ビジネスコンサルタントではない村上氏が聞き手に回るからこそ、経済人が率直に自分の言葉で話しをしてくれており、また経営評論のように企業や経営者を分析しないところが、素晴らしい点だといえる。

企業価値分析などには一切役立たないが、経験や見識がある程度高いビジネスパーソンにとっては、逆にもっとも社外から知り得ることができない企業文化をイメージしたり、その片鱗に触れたりすることは出来ると思う。

何よりも、未来のビジネスリーダーを目指す皆さんには、自分の価値観を磨くこと、あるいは価値観に照らして共感できるビジネスリーダーやロールモデルを見つける手立てになるかもしれない。

私が読者の一人として心をうたれた、金科玉条の言葉の一例を抜粋しておく。すべて、成功と失敗の経験者だからこその言葉だと、深く共感する。 (掲載順、敬称略、所属企業及び役職名は掲載当時)

  • カルロス・ゴーン  日産自動車社長兼CEO
    「社会人として必要な知識は、方法論とプロセス、そして心構え。」
  • 岡野 雅行  岡野工業代表社長
    「できなかったっていうのは、途中でやめちゃうからできないんだ。」
  • 稲盛 和夫  京セラ名誉会長
    「知恵と才覚があれば企業は始められる。五年、十年と続けていこうとすると、忍耐力、地味なことを飽きないで続けることが必要。」
  • 中村 俊郎  中村ブレイス社長
    「今の日本の若者は非常に優しい。優しいパワーを持った日本人が、これから土台を作っていく。みんなが自分の良さに気が付いた時には、どこの町でも立派な仕事ができる。」
  • 大山 泰弘 日本理化工業会長
    「人に手を差し伸べることによって、その人も活き、自分にも返ってくる」
  • 川鍋 一郎  日本交通社長
    「「やる」ことがいかに大変か、やった人にしかそれはわからない。やればやるほど、「やる」というのは意外とアバウトにできる、とわかってくる。」
  • 天坊 昭彦  出光興産会長
    「世の中が変化しているということはみんな、わかっている。それを自分にあてはめて考えるのはなかなか難しい。」
  • 秋元 久雄  平成建設社長
    「いい仕事は、自分のほうから探すしかない。」
  • 古田 英明  縄文アソシエイツ代表取締役
    「キャリアはアップアップしてもしようがない。人生は深めていくものだから。」
  • 三木谷 浩史  楽天会長兼社長
    「本当の安定とは、自分に選択肢があるということ。自分の実力、生活力、ビジネス力を上げていくことが、安定だ。」
  • 宋 文洲  ソフトブレーン創業者
    「みんなと全然違う方向を向いてしまえばチャンスは来る。」
  • 星野 佳路  星野リゾート社長
    「お客様から褒められるということが、仕事の醍醐味。そうやって良い環境になっていくと、自分自身がまた成長する。」
  • 柳井 正  ファーストリテイリング会長兼社長
    「会社は続くもの、成長するものと思っているから会社がすごいと思ってしまう。すごいのは人がいて、金があって、事業活動を行うことで、会社はすごくなんてない。」
  • サフィア・ミニー  ピープル・ツリー/グローバル・ヴィレッジ代表
    「誇りを持つことや人間関係を築くということと、収入源を持つことはすごく関係がある」
  • 渡邉 美樹  ワタミグループ創業者
    「夢を達成することが人生の目的ではない。目的を追ってゆくプロセスの中で人間として成長すること、それが我々の生きる目的だ。」
  • 安部 修仁  吉野家ホールディングス社長
    「全力でやっていないと、次の世界につながっていかない。どんな小さなことでも、その役割を全うすると次の世界が見えてくる。」
カンブリア宮殿 就職ガイド 村上龍×73人の経済人 出版社:日本経済新聞出版社
著者:村上 龍(著),テレビ東京報道局(編集)