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2012年6月

IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ
冨山和彦(著), 経営共創基盤(著)

過去の冨山氏の書はどれもが、それまで氏の人生やプロフェショナルとしての矜持であり、日本経済の構造的問題点を独自の論点と歴史観から明らかにし、批判を恐れぬ舌鋒で日本企業の経営者に警鐘を鳴らすものであった。

しかしながら、今回はノウハウの伝授である。企業再生のプロ、経営のプロ、経営コンサルティング会社の経営者でもある冨山氏が、そのノウハウを明らかにしている。とはいえ、単純な経営分析、教科書的な分析ではなく、実践から導き出した、企業の実態、真実の姿を理解するための独自手法や、チェックポイント、そして考え方を37の「リアル経営分析」として取り上げている。

しかも難しい専門語を羅列した専門書ではなく、およそ社会人であれば誰もが読み込める入門書である。自社の行く末を想い悩む経営者や、勝ち方に迷う大手企業の経営企画室長あたりがこの書を読めば、冨山氏が率いるIGPIにすぐにでも相談に行きたくなるであろう。まさにIGPIのマーケティングツールとしても見事な本書である。しかし、そのような現在経営にかかわる人ではなくても、キャリアを考える以下のような方にも、それぞれの理由から一読されることをお勧めする。

◆経営コンサルティング会社に興味がある人や、コンサルタントを目指す人に:
企業再生の実際のケースが掲載されておりコンサルタントの仕事がどのようなものなのか、また、コンサルタントになりたいと思っている人が応募前に体得しておくべき基本的な知識や分析手法がどのようなものなのか理解できるであろう。経営コンサルタントとして必要な企業財務や管理会計、PL・BS・CS、3C分析、SWOT分析、5Forces分析などの基礎能力の先にある、経営メカニズムを分析する手法とはどのようなものかということも理解できる。ビジネススクールを卒業した、MBAを持っています、と言うだけでこれらの最低限の知識やスキルを学校で習得できていない人は、経営コンサルティング会社に応募する前に、改めて勉強しておく必要があるだろう。

◆転職を考えている人や転職活動中の人に:
自分が勤める会社に将来性があるのか、経営がうまくいっているのか、自分の会社の社長や経営陣に経営力があるのか、あるいは応募している会社はどうなのか分析してみると良いだろう。最低限でも財務諸表ぐらいは見ておくべきだが、それ以上にどのような視点で会社を見ると良いのか、新しい視点が得られるはずだ。

◆将来経営者を目指す人や現在経営責任がある人に:
本書の最後で述べている点が本書の肝となっている。

「会社は無形物であり、本当の姿を知ることは本当に難しい。ガチンコ競争の中にあって、個別具体的な会社、ナマの事業の実態を出来る限り有形化する技法とそれを身につけるための方法論が、本書で紹介した手法、チェックポイント、ものの考え方である。さらに会社も事業も日々変化してゆくものであり、「動的平衡」物であるゆえ、経験、勘、度胸も動員してそのメカニズムを理解し、実像に迫り続けていく。そして分析者自身が謙虚な姿勢を持ち続け、逆説的であるが分析対象、分析手法、自身の能力につねに疑いを持つことが、それらをより良く理解する近道なのである。」

実際、筆者も自社の経営を分析する際や戦略を考える際、参考になる点が多かった事をつけ添えておく。

IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ 出版社:PHP研究所
著者:冨山和彦(著), 経営共創基盤(著)