転職コラムキャリアに効く一冊

キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。

2013年10月

知の逆転
ジェームズ・ワトソン ほか(著)/吉成真由美(インタビュー・編)

ジャレド・ダイヤモンド
 「銃、病原菌、鉄」の著者として有名な人類生態学者

ノーム・チョムスキー
 言語学の巨星 「普遍文法」で有名なMIT名誉教授

オリバー・サックス
 「レナードの朝」でも有名な神経学・精神医学者

マービン・ミンスキー
 人工知能の父、コンピュータ科学者 MIT教授

トム・レイトン
 MIT応用数学科教授 アカマイ創業者

ジェームズ・ワトソン
 遺伝子「二重らせん」構造を解明したノーベル生理学・医学賞受賞、分子生物学者

この書は、インタビュー集である。作家の作品でも論文でもない。だからこそ価値がある。編者は「情報に溢れる今の時代にロマンは失われつつあるが、人生は人に会うことが全てだと信じている。心に残る人との出会いがあれば、少々難儀な人生でも何とか生きていけるのではないだろうか。」と語っているが、まさに編者が本書を編纂した意図と思いがこの言葉に集約されている。

自身の専門外の分野で、しかも一流の人の話を聞いたり読んだりする時に、時として人の脳は予期せぬ触媒のような働きをする場合がある。自分の専門分野とは違う分野の論文などは、その知識の基礎がなければ到底読み解けるものではないが、インタビュー形式になると簡潔で平易な言葉が分かりやすく、想像力を働かせることができる。キャリアを考える時でもそうなのだが、このような専門性の高い人の会話から出た言葉は非常にインスピレーションにあふれている。

「今、会えるなら会ってみたい」と思う知の巨人に、この6名のいずれかの名前を挙げる人は世界中に沢山いるはずだ。「この人たちに会うまでは…」と著者が述べているように、彼らを独り占めして時間を共有できた吉成氏が本当にうらやましい限りである。

吉成氏は、MIT卒業後、Harvard大学院の心理学部で脳科学を修めたサイエンスライターでもあるが、インタビュアーとしての知性溢れる質問、軽やかで格式ばらない翻訳も読んでいて心地よい。巨人達の答えだけだと脈絡がなかったりするところに、インタビュアーが巨人達の話の概要・要約を質問の中にうまくちりばめてくれている。これは、私のような一般人にはとてもありがたい。

本書から抜粋した以下の言葉に関心がもてれば、ぜひ本書を直接手にとって読んでみていただきたい。

ジャレド・ダイヤモンド
西洋の発展はたまたま農業を行うのに適した土地に動物や植物がいたからであって、そこに住む民族の能力が高かったわけではない。/リーダーが大衆から隔離されると国が滅びる。文明はたやすく崩壊する。/日本の定年退職60歳はまったくひどい話だ。/「人生の意味」を問うことに意味はない。/私にとって人生は星や岩や炭素原子のようにそこにあるだけ。

ノーム・チョムスキー
「資本主義の将来は、市場原理だけでは必ず破綻する。/アメリカが考えているのは「核抑止」ではなく「核支配」だ。/五万年の間、人間の認識能力は進化していない。/言語は人間に特有の能力だ。/細分化された社会の中では、インターネットはカルトを生む土壌になる。/偽善者とは他人に当てはめるモノサシを自分に当てはめることを拒否する人のことだ。/理想とする教育とは、子供たちが持っている創造性Creativitiesと創作性Inventivenessをのばし、自由社会で機能する市民となって、仕事や人生においても創造的で創作的であり、独立した存在であることを手助けすることだ。/自分から知りたいと思うように励ますのが教育だ。
オリバー・サックス
没頭している「平和な時間」こそが音楽や芸術の基盤になる。/ナボコフは音楽不能症だった。フロイトはそうではないが、音楽が引き起こす感情については分析して理解することができないので避けていた。/言語と音楽のどちらが人類の発達段階で先であったかという問いには、ダーウィンは音楽が言語よりも先に発達したと考えているが、ハーバート・スペンサーはその逆であると主張しており、私は複雑に両者が絡み合っており、両方とも一緒に発達してきたのだと考えている。/最も生徒を生き生きと興奮させるのは、先生の情熱だ。

マービン・ミンスキー
福島の原子力事故でなぜロボットが復旧に参加できなかったのか、この30年間一体何がおこってきたのか理解しがたい。/社会が集合知能に向かうかと問われれば、ヒットラーを選んだ時ように、全員が一致団結して大勢が賛成してしまい、一人も反対を言えなくなると、悲劇に結びついてしまうので、集団の中に一般的な叡智があるとは信じられない。/科学の叡智はいつも個人知能によってもたらされた。/本来、「感情」と「思考」を分けて考えるべきではない。

トム・レイトン
50K懸賞に残るも入賞はできませんでした。でもしっかり作り込みに時間をかけて起業し成功した。/教育はオンライン化を避けられない。

ジェームズ・ワトソン
文明の大きな進歩は「個人」が生み出す。/感情は常に理性より重要です。/真実は時として不都合なものだ。/これからの科学研究は「脳」「老化」「メタボリック」の3つだ。
知の逆転 出版社:NHK出版
著者:ジェームズ・ワトソン ほか(著)/吉成真由美(インタビュー・編)