転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

1995年 10月~12月 
1995.10.01

95年をまとめて

戦後50年の節目でもあった今年は、阪神大震災やオウム事件などの惨事にも見舞われ、雇用や金融に対する不安が広がり、国外より国内、個人単位でも外面より精神的内面に意識が向かった年でもありました。

また自動車問題や金融問題、さらに流通改革や規制緩和の例に見られるように、国内経済と政治の問題を解決する事が、国際経済にも貢献する事となりました。雇用をめぐる発表や記事も多く、転職、失業の話題は、バブル時期以前に比べて身近なものとなりました。但し賃金が総じて減少している点が過去のケースと違う点ではないでしょうか。

しかし賃金の減少を嘆く人もいれば、それ以上に働く価値を見い出せた人も多数いました。弊社がお手伝いをした求職者の中にも、機会や、挑戦、新しい人との出会い、将来役立つ職務や技術を得た方が多くおられます。賃金以上に大切なものを報酬として見い出せた方ほど幸せな方はいません。

しかも、この不況下でもコストをかけてまで採用しようという顧客企業(求人者)への転職ですから、賃金も平均的には10~30%の上昇がありました。同業社や過去の経験が(正社員という雇用形態の元)本来の意味で活かせるのなら、賃金は好不景気にかかわらず上昇します。

最近の市場では、アウトプレースメントのコンサルタントや人事が、誰に向かっても「社会全体で賃金が下がっている」などと求職者にアドバイス(吹聴?)しているのを耳にしますが、これほど同業者として腹立たしい事はありません。

本来、キャリア採用の場合、賃金が下がる事はありません。金融機関とコンサルタント業界で1000万円を大幅に超える賃金層の方で現状維持が困難なケースも見受けられましたが、そのケースですら業界を変わる為で、時間あたりの賃金を試算すれば下がったとは思えません。このように賃金が下がるケースは、業界が変わったり報奨をはかる単位が賃金以外の形で得られるケースにのみ許され、同列子会社への派遣や再就職斡旋の場合でも、賃金が下がる事があってはなりません。

また、人生の持ち主、すなわち人生の資本家である個人は、同時にどのような人生を送るかの意思決定をする経営者でもあります。この資本家の方々こそ未来を開く新資本主義の主役です。従来の資本に加えて、人的資源の有効利用こそがこれからの経済社会でのキーとなります。今までも企業は人なりと言われて来たものの、あまりにも資産と資本を会社に集積する構造になっていたのではないでしょうか?今まではあらゆる資本の集中が有効で、それで良かったのでしょうが、これからは資本金も人と言う資本も、双方に分配していく構造をとるべきではないでしょうか?

その分配のための市場のメカニズムを構築することが必要ですが、人の流通改革、アルビントフラーの言う新資本主義は今年が元年だったと言っても過言ではありません。彼の言う新しい社会はコンピュータによる恩恵を享受できる時代でもあります。インターネットを含むコンピュータを活用した人的資源を活用した、求人・求職の双方向による情報の発信、探索、流通、企業内人事システム活用が否応なしに始まっています。現在、求人情報を掲載しているプロバイダーは20社程度ですが、今後ますます増加し、これらがネットワークでさらにつながるものと思われます。現状の日本では求職者のデータベースは存在しませんが、現在検討中のところもあり、今年中には開始の見込みです。求職者と求人者を相互に支援するネットワークが望まれます。

最後に、日本の新社会資本社会を作っていくには、前述の理由で社会資産を個人の資本として蓄積するためにも、個人が貯金以外に資産を持ち合わせておく必要から年金や証券を持つ事が望ましく、働きがい、就労意欲の喚起のためにもストックオプションは必要だと思います。

これらは革新のためのメカニズムにおいて不可欠です。現在やっとワラント債の形でソニーが着手し、一部ベンチャー企業が譲渡の形ではありますが、ストックオプションを導入しています。年内に日本式オプションが始まるとの事で、導入後はもっと多くのベンチャーや大手企業に導入が期待されます。企業のみならず、個人が個人の責任でも人生のP/L、B/Sを描ける事がキャリアデザインの要諦です。同時に採用企業側にも、新しい「やる気を起こさせる人事制度」として、賃金以外の報酬も加わった参加型報酬制度が望まれます。

将来に向けてキャリアの変更をした人も近々予定している人も、現在価値の分析だけに囚われず、将来の価値想像のために、強い意思も持って人生計画を実行して下さい。社会全体の流れの方向は幸いにして間違っていないようです。後は個人のキャリアプランを考える実行段階である各論で間違いさえなければと言う事です。今年は内面に向かう年でしたが、来年は言うだけや考えるだけでなく、外に向けた実行の年である事を期待します。

概況

8月の有効求人倍率は0.61倍、完全失業率は3.2%

求人状況は依然横這い状態で、失業率も最悪の状態が続いています。中高卒の求人倍率でも、それぞれ1.07倍・1.11倍と最低ラインにまで来てしまいました。16才~19才の失業率は実に6.9%です。この夏、労働省の雇用対策は本格化の兆しを見せており、実効性の高い企画が検討に入っております。ベンチャー支援の一貫として、創業時における賃金の1/3を政府が負担するプランや、現在就業中の求職者に対しても相談を開始する事、また人材派遣業においても、あらたに12業務を従来の16業種に加える、などといった動きです。特に、「研究開発」と「企業の組織などに関する制度の設計、または変更」については、次期通常国会で派遣法の改正案が通過すれば、かなりベンチャー企業にとって朗報となります。

ベンチャー起業家による眼で選ばれた新しい価値を創造でき得る人材が起業の準備段階から派遣・参入されるべきで、今までのような、人の紹介や組織間の腐れ縁に頼った受け入れからの脱却が可能になります。その他に、通産省が事業法を改正してベンチャーに限り、ストック・オプション制を進める特例を出す等、この夏は、官民をあげて、新雇用創出に動き出しています。

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)