転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

1997年 10月~12月 
1997.10.01

人的資源活用についてのアンケート結果と考察

この4月には規制緩和、5月にはストックオプションの解禁、6月にはILO条約の改正など、日本の将来の経済システム、労働市場に対して大きな意味をもつ変化が起きました。

弊社でも新たな認可を取得し、職歴1年以上の人材を対象として、これまでの科学技術者、経営管理者に加え、専門的な職域の方や、事務職、営業職の若手キャリアの方にもキャリアをご提供(企業をご紹介)できるようになりました。

以下に、弊社の顧客企業400社を対象にアンケートを行った際の、結果に基づく考察をご紹介いたします。

インターネット、電子メール活用状況

既にホームページを開設し、採用活動に利用している企業が60%あり、その内の70%がその有効性を認めています。開設しながらも有効性を見い出していない企業は14%ありました。ホームページを開設していなくとも電子メールを活用しているところは多く、全体の83%が活用し、その内80%が有効性を認めています。アンケート集計だけでは、結論づける事はできませんが、有効性を認めていない企業の傾向として、一般的に平素から応募者が多くて対応に追われる企業、あるいは採用対象のスペックが限られてしまう企業で応募者が少ない企業の2種類あるような印象を受けます。新規応募者の獲得、並びに応募者とのコミュニケーションを図る上で、電子メールやホームページが機能するには、応募者の質と量が会社側の思惑とバランス良く合致している事が必要な様です。

4月の規制緩和、6月のILO条約改正

規制緩和によって今後の採用活動に影響があると考える企業のうち、29%の企業が好影響があると期待しているものの、54%はまだ静観している状態です。効果無しとの意見の所も17%ありました。ILOの条約に付いては、6%しか好影響を予想しておらず、57%が分からないとしています。こちらは効果無しと見なしている所が30%近くありました。

ILO条約は今から3~5年程度内に、国内の労働基準法等の改正手続きを経て、労働市場の状況を鑑み、批准されるものと予想されています。プライベート・エージェンシーと呼ばれる団体を、人材派遣、人材紹介、そして人材開発と呼ばれる3分野に分類し、これらの企業がよりグローバルな企業活動、人生設計を支援する方向にあります。今後その分類に関する議論が活発になり、その分類に於けるエージェントの業務において禁止事項が明確になって行きますが、人材流動を促進し、公益に関わるサービスに対して民間のエージェントが役割を補完する形になります。

具体的には、

  • 職務経歴1年以上のホワイトカラーの紹介が可能になりました。
    今迄は原則禁止となっていた、新しい分類として営業職、事務職などが入ります。
    従来、経営管理者としては、課長職10年以上の人材を示してこの様な人材しか紹介出来ませんでした。それ以下の職歴の人の紹介は今迄法律で禁止され市場の要望にマッチしていませんでした。
  • 派遣、紹介、或いは育成のエージェントの質と領域が更に複雑化して行きます。
    これにより、外部エージェント毎で新たなサービスが発生して来ますが、採用企業としてそれを、いかに選択するか、派遣社員の保険や年金等の問題も含めてサービスの質、タイミングが問われます。人材紹介業に於いても、この4月からだけで60団体以上の新規参入が確認されています。その殆どは派遣業界からの紹介業界への参入です。正社員で就労出来無くなった人材が市場に溢れており、派遣登録するものの正社員となりたい人々が多い事を反映していると、分析されます。

ストックオプション

導入済みが23%、導入予定が11%、検討中が29%となっており、合計で60%以上の会社がその有効性を認めています。検討無しとの明解な回答も29%ありましたが、株式公開を予定していない企業、外資系企業で本社方針が決まっている企業等でした。顧客企業の内、殆どの日本のベンチャー企業に於いては導入を検討中で、注目している事が判明しました。年末から年始にかけて行われる税法の改正をみて判断を下す為、導入検討には熱心な様です。(日本のベンチャー企業の方には、同封『ハンドブック』をご高覧の上、参加型報酬制度としてインセンティブ・ストック・オプションをうまく導入活用して頂ければ幸いです。)

メディアの活用

朝日新聞と日経新聞は共に、40%以上の顧客企業が活用しています。又、雑誌ではビーイング、テックビーイングが共に30%を越えており、最近はタイプも21%と健闘しています。

サーチ会社の利用数

40%もの顧客企業が5社以内と限定しており、改めて紹介の質が問われている事を知る事ができました。10社以内という企業も含めると74%にも上ります。21社以上のサーチ会社を利用している企業は、年間、数十名から100名単位までの大量採用を実施している会社でした。

インターンシップ

既にインターンシップを導入している企業は14%あり、検討中の所は29%ありました。インターンシップの捉え方は企業によりまちまちですが、全体の人材育成の観点から非常に重要なテーマである事は確実で、将来の日本の産業構造、労働慣行、生産性を左右するテーマでもあります。企業にとって採用のみならず、充分なメリットが考えられます。民間人材紹介でも公的な機関でもない、中立的な立場を取る機関によるインターンシップの紹介が日本に不可欠ですが、これは一偏に、社会的責任を自覚できる企業と個人の存在を抜きにしてはあり得ません。市場で生産性の無い人材が多い事を嘆く前に、社会全体で育成する運動が必要です。しかしながら、使える人材の育成のための構造作りに、一部の大学しか乗り出していない現実を指摘する声が増えています。大学生や院生の数は世界に誇れるものの、その質が問題です。導入、検討、定着の段階を踏んで行くものと思われます。

人材紹介会社に求められるもの

【1位】 人材の質(約38%)
【2位】 コンサルタントの質(約18%)
【3位】 スピード(約12%)
【4位】 紹介手続きの質(約9%)
【5位】 倫理観(約9%)
【6位】 費用(約6%)

当然の事ですが、全体として、紹介人材の質が重視されています。次にコンサルタントの質が挙げられています。前述の5社以下のサーチ会社を利用している顧客企業では、紹介人材とコンサルタントの質で、利用会社を限定しています。紹介出来る人材の質、紹介のスピード、紹介手続きの質、倫理観も、全てコンサルタントの質と能力による事を考えると興味深いデータです。

サービス向上の誓い

このアンケート結果を真摯に受け止め、アクシアムのコンサルタントは以下の事を顧客に誓い、今後より一層のサービス向上を目指します。

  1. サーチ
    • 質の高い候補者を、出来るだけ早く、より多くご紹介する為に、求人依頼を受託する前の段階から、ポテンシャル・キャンディデートと呼ばれる、自分からは転職を希望していないが能力と経験を備えた人材を対象に、長期にわたるキャリア相談を行う事により、将来顧客企業の候補者予備軍とのネットワークを構築します。人材の意識開発とキャリア育成とも呼べる部分をサーチの源泉とし、同時に今まで通り市場からの発掘を合わせて行います。
  2. 人材向けキャリアコンサルティング
    • サーチの質に関連する部分でもありますが、人材に向けて長期的なキャリアコンサルティングを行います。志望動機、キャリアに対するコミットメントを明確化し、入社以降をも視野に含めたアドバイスを行う事により、よりスムーズな紹介と紹介後の顧客企業への貢献を可能にします。
  3. 企業向けキャリアコンサルティング
    • 採用対象となる求人プロファイル、キャリアを、企業の戦略、HRを良く理解した上で、候補者の選定から、採用に至る活動を総合的に支援します。年収に関しては市場動向などが欧米と異なり、実態的な市場調査を入手する事はできませんが、参考となる情報提供をケースバイケースで行います。
  4. マッチング
    • 顧客企業と候補者の相互の理解を充足し、出会いの頻度を高めます。役割に対する処遇を、能力と意識の点においてマッチングさせていきます。

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)