転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2005年 4月~6月 
2005.04.01

売り手市場の時ほどプロフィットのない転職が増える

求人が活発になってきていることは皆さん良くご存知のことと思います。この1年間を振り返ってみて、ご自分の身の回りで知人や友人が転職したという話を聞いている方も少なくないはずです。

実際、アクシアムで受諾している求人数は、昨年9月から今年2月の半年間で前年度比で約30%アップ、前々年度比では実に300%アップにもなっています。2003年と比べて、2004年初頭から完全に求人状況は回復しており、スカウト型/募集型の両方の求人が増加しています。

一方、アクシアムからの紹介で転職された方の85%が、長期的な相談から、ご自分の展望とスキルに合致した転職、すなわちアクシアムが提唱している「展職」を果たしています。ただ単に、転職したいから転職するのではなく、現職と比較し、しっかりとした相談を長期的に行い、ご自身のキャリア開発を目的とした転職をされています。

もちろん今すぐ転職したいという方の相談も多いのですが、自発的なキャリアプランを想定しておき、そのような展望にあった求人案件をアクシアムが、期間をかけてご紹介していくケースが目立ってきています。キャリアにおけるご自身の価値感がしっかりと定まっている方は、相談から始まって求人案件のご紹介までは時間がかかることもありますが、いざ求人案件が発生した際には、短期間で面談へと進みます。面談後は他の求人案件を検討する必要もなく、2~3週間程度で決心されることが多いようです。

また、このように転職の決断が早い方は、2回目以降の転職という方に多く、初めて転職される方の場合にはなかなか決心ができず、結局は現職に留まるということが多いようにも思えます。もちろん現職に残ることが、ご本人のキャリアにプラスになるケースもあるのですが、数社からオファーをもらい、チャンスがあることが分かった段階で、ご自分の将来のキャリアに安心してしまい、現職に残るという方も増えています。

35歳まではいろいろな会社からオファーをもらえる方が、35歳以降にもオファーがあるとは必ずしも限りません。昨今のように求人案件が多くなり、周囲の友人が次々と転職するようになって、いざ自分のキャリアとなるとリスクのない転職を望んでしまいます。

リスクのない転職は存在しませんが、プロフィットのない転職が多いように思います。年収が上がるが長期的には報酬面でプラスとならない転職、将来のキャリア価値が下がる転職、現職からの避難的転職、自己中心的な転職、キャリアの資産が減じる転職、など枚挙に暇がありません。これらの共通点は、景気の良い時、売り手市場になった時に起こりがちです。

多くの人が会社を変わる瞬間だけで、転職のプラスとマイナスを判断しがちです。そういった転職をされた場合には、会社を変わった段階で、その多くのプラス面が消えてしまうのです。本当に大事なことは転職してからであり、転職先でいかにプラスを生み出せるかということに他なりません。

景気が良い時には、採用側から、「ぜひ我社に来て欲しい。これだけの条件を出すから」と積極的に誘われたり、ヘッドハンターからも強力に勧められたり、家族もプラス面を高く評価するからです。一方、採用側が候補者に「入社後、この課題を乗り超えて成果を上げてくれれば、処遇を上げよう、君なら可能性があるから。」と本音で話しをしてくれた企業には、なかなか入社しないものです。ほとんどの方が、「自分を高く評価してくれるところ」を「自分の値段を高く提示してくれたところ」と誤解しています。採用したいから心地よい言葉を列挙してくれているのか、本当に採用側として、候補者のキャリア資産を認識した上で、将来、成果を出すと見込んでくれているかどうか」あくまでも、将来の成果を自分と先方共が見込めるかどうかが、長期的な展職成功に向けてチェックすべき点なのです。

市場に存在するキャリアは、まるで、湖に落ちた斧のように見た目と違うものです。金のキャリア、銀のキャリア、銅のキャリア、あなたは、どのキャリアを選びますか?しっかりと吟味してみましょう。

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)