転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2010年4月~6月 
2010.04.01

求人市場の好転! 厳しい現実、期待、そして不安

リーマンショック以来15か月間に渡って減少を続け、’08年8月時点の3分の1にまで縮小してしまった求人受託数(アクシアムの月末求人残数)が、昨年12月にようやく増加に反転、今年に入っても3カ月連続の増加となりました。

この1年半は、求人の減少に反比例するように転職相談者・転職活動者が増加を続けていて、転職マーケットの厳しさは、これまでの1998年、2001年のそれとは比べようがないほどひどい状況でありましたが、ここにきて求人ニーズの増加傾向が確かなものとなりつつあり、ようやく明るい兆しが見えはじめたと言えそうです。

ただ、市場が底を打って反転したことを宣言できるようになったとは言え、ジョブレスリカバリーと言われるように、求人はまだまだ穏やかな増加を示すにとどまっています。

一方、今年に入って外資系投資銀行やコンサルティング業界の求人が戻ったと聞きつけて、このタイミングでいち早く転職に動き始める人もでてきています。これは、今まで「動かざるを得ない人」で溢れていた転職市場に、「とりあえず転職したが、もっと良い機会があれば動きたいという人」や、さらに「今まではあまり良い求人がないだろうから待機していたが、本来動きたい(転職したい)と思っていた人」が新しく参入してくることの表れといえます。

つまり、4月以降、転職を希望する方にとってはより厳しい競争となってくる可能性があるのです。

採用側も、今まで市場に出ていた人ではなくこの新たにマーケットに出てくるフレッシュな人を求める傾向にあります。これも、無職となって就職活動を余儀なくされている人にとっては苦しい動きです。また、採用企業においては、1名の募集に百名以上の候補者のレジメが集まり、書類選考からかなり厳しく行われるというケースもごくごく普通になってきました。10年前と異なり、職務経歴書や履歴書がすべてデジタル化していることも手伝って、多くのレジメが自社サイトあるいはサーチ会社経由であっという間に集められるという状況になっています。

このような厳しい転職市場においては、応募者個人の立場からすると「積極的に応募しても、思った以上に書類選考が通らず、なかなか面談に至らない」という状況になりがちです。アクシアムのコンサルタントも日々新しい求人案件の発掘・開拓を心がけ、また優秀な皆様を懸命に顧客企業に推薦しているのですが、大変苦戦していると言わざるを得ません。

以前であれば、推薦した方は高い確率で面談に進んでいたものが、この1年ほどは同様に推薦していても面談にいたらないケースが増え、書類選考を通過しない頻度が高くなってしまっていて、まだしばらくその傾向は続きそうです。

 

他方、今後に期待している(期待できる)部分も出てきています。

それは、資本が動き始めたことです。 以前よりお伝えしていますが、ベンチャーキャピタル、プライベートエクイティー、ヘッジファンド、ボンドなどによる直接投資(企業側からすると資金調達)の動きがまた活発化しています。

日本においては、昨年末に政府による新たな経済成長戦略も打ち出され、【環境】、【健康】、【アジア】、【観光・地域活性化】、【科学技術】、【雇用・人材】への重点投資を掲げた予算が成立しました。ぜひ、「今日のパンよりも明日の糧」を考え、将来につながる投資や「仕分け」を願いたいものです。 歴史は、国が貧困になった時に国民の票はパンをくれる人に向かってしまうことを物語っていますが、時にそれは、時に自らの首を絞めることになりかねないものです。そうならないためにも、真に日本の明日のためになる投資を行っていただきたいと願います。

話が少し脱線しました。資本の動きの話に戻します。

投資家は4種類に分けることができます。1)日本政府(政策として国の予算を投下をする人)、2)金融業界の投資のプロ(機関投資家)、3)事業会社の経営者(法人として投資をする人)、そして4)個人投資家です。

4種類の投資家の中で筆者が日々の仕事上で接することができるのは、2)金融業界の投資のプロ(機関投資家)、3)事業会社の経営者(法人として投資をする人)ですが、彼らは時にほかの誰よりも日本の将来を憂い、日本の未来に対して危惧していると感じるときがあります。 そして、危機感を持っているからこそ、日本企業の持続可能な成長にむけて懸命に努力していると。必ずしも将来ビジョンが言葉で示されていなくても、あるいは必ずしも合理的な説明がなくとも、「心に訴えかけてくる何か」が感じられる、そんな投資があるのです。

それは何か?

たとえば、純粋な利潤動機によるファンドの企業投資など、当然そこ(目論見書)には日本国民のためなどとは一言も書かれていません。ファンド主導の経営再建では、リストラ(人員削減)などの職を奪う行為が非難されることもしばしばですが、そうした周囲からみたら単なるお金儲けにしか見えない行為ですら、時間経過とともに雇用を再度生み出したり、あるいは地域を活性させたり、結果として国にプラスとなる行為を行っているということはあるのです。

経営者も同じで、ステークホルダー(ストックホルダーではありません)の反対を押し切って投資を決断し、結果的に成果を挙げて、そのステークホルダーが大きな利益を得るということも起こります。そんな顧客企業の経営者を見ていると本当に感銘を受けます。

そして、そのような経営者の傍には、多くの場合それを支えるコアメンバーがいます。ベンチャー企業で新技術を開発している人、新しいビジネスモデルを作って新たな雇用や経済を生み出している人、再生の現場で年収を半分にしてV字回復に貢献している人、中小企業を脱皮し公開企業となって世界市場を目指す人たちなどです。また、そうした「日本の将来のために頑張っている方」は、必ずしも日本の企業にだけでなく、外資系企業に勤める方にもいるものです。

そのような核となるメンバーには共通点があります。彼らは、不安を言葉にするのではなく現実的な危機を言葉にすることで周囲を動かし、夢を形にすることで日本を良くしています。また、日本を良くするために尽力しているものの、日本人のためだけに働いているわけではない点も共通です。多くの企業では日本だけでない世界市場を相手にし、株主も、社員ですら日本人だけではなくなっているのです。グローバル化の中で社会は複雑につながっていて、その中で成果を挙げることが結果的に日本のためになるということを彼らは知っているのです。

 

こうした投資家、経営者、そしてそれを支えるコア人材を見ていると、アクシアムの仕事は、このような同質の危機感やテーマ、共感をつなぐ仕事になってきた気がします。 そして、その思いが共鳴して大きくなる様子を見るにつけ、そこに期待し、また明るい未来を感じるのです。

 

しかし、もうひとつ、筆者が不安を抱いていることがあります。それは、厳しい求職市場のことでも、日本の未来でもなく、「自ら自分に対して理屈をつけて殻に閉じこもってしまい、チャンスを逸している方が多い」という危惧です。

世界の一員であることを肝に銘じながらもこれからの日本のことを少しでも考えてみると、沢山の問題や課題が見えてきます。これほど多くの問題が噴出している時代は、ある意味チャンスでもあるはずです。問題が多いからこそ解決や改善の余地は多くあり、そこにチャンスがあるのです。社会の大きな変動の中で、自ら行動を起こし、その機会を獲得する人がでてきています。

その一方で、実に多くの人がチャンスを逃しているとも感じます。 たとえば、キャリアの相談を重ね、「将来のためにも、今こそ転職に動こう」ということになった方の例です。弊社からも数社を紹介し、無事、第一希望の自分の展望にかなうオファーを得て転職成功かと思いきや、結局、転職の意思決定が出来ない人という方がいらっしゃいます。これまでも当然同様のケースはあるのですが、最近、特に大手企業に勤める方などにそのようなケースが増えているように感じます。

それぞれ正当な理由、根拠はもちろんあります。その理由はそれなりに理屈が通っていて納得できるものであるのも確かです。しかしながら、理屈をつけてはいるものの、決心できないだけなのではないだろうかと思うこともしばしばです。そして、そのような人に限って、何年かした後に「あの時のようなオファーはもうないのだろうか?」と尋ねてこられます。

ただ、残念ながらチャンスの神様に後ろ髪はありません。目の前を通り過ぎたら、もう一度捕まえることはできないのです。

転職は投資と同じで、リスクが付き物です。得るものと失うものがあり、トレードオフが必ず起こります。それはリターンを得るためのリスクであるわけですが、そのリスクをアクシアムは正直に伝えています。ただ、不安のあまりリスクを実態以上に大きく感じてしまい、結果的に「リスクを取れない」、「トレードオフに対してYESと言えない」、「現状維持」という選択をする方が多くなっていると感じます。これがとても残念です。

そのようなリスクを伝えず、チャレンジだのばら色のキャリアプランだの、希望通りの職、希望通りの業界、希望通りの年収アップという美しい言葉や響きのよい言葉だけを皆さんにお伝えし、転職を促すことはもちろん可能です。そのほうが弊社も楽に利益を上げられるかもしれません。しかし、皆さんが転職後に後悔しないためにも、そしてリスクを乗り越えて成功するためにも、やはり皆さんにはリスクをしっかり開示したいと思います。しっかりとリスクを理解し、それに対処することではじめて成功の確率は高まるはずです。皆さんと真正面に向き合うことで結果的に皆さんに信頼いただければ、それがいつか弊社の利益にも跳ね返ってくるものと信じています。

長引く不況や、右肩上がりの成長が期待できない経済の中では、現状維持派が多くなることもいたし方なしですが、このリスクを取れない体質が、日本がかかえる問題にどうしても紐づいているように感じてしまいます。

これが日本の国民性なのかと考えると不安でなりませんが、そんな筆者の不安を払拭してくれるよう、日本を憂うる心に共鳴する方が増え、そして積極果敢にリスクをとってチャレンジしていかれる方が増えることを願います。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)