転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2016年1月~3月 
2016.01.07

不確実性が高まる時代の羅針盤とは?

2015年夏、日経平均株価は数年ぶりに2万円を超えたものの、直後に急激な下落に見舞われ、秋以降になって徐々に落ち着きを取り戻しました。12月に入り、米国では連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を0.25%引き上げる声明を発表し、7年続いたゼロ金利政策を転換。直後に為替市場では円売り・ドル買いが加速し、ダウ平均が200ドル以上続伸しました。この金利政策の転換は、米国の雇用情勢の堅調さを受けての決定だといわれています。つまり、金利を上げても良いと米政府は判断したということです。

昨今、インターネット等で散見される株価と雇用情勢の関係ですが、改めて、日本における日経平均株価と就業者数の推移の関係を調べ、グラフにしてみました。どうやら株価が就業者数の先行指標となりえているのは確かなようです。

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株価は高値を示し、求人数は過去最多となり、日本の企業はもっと投資すべしとの声が多く聞かれた昨年。大手投資銀行のレポートでも概ねそのような主張がなされています。しかしながら、このグラフを眺めて思うのは、1998年から株価は上がりもすれば下がりもしてきたわけで、数年単位で起こる株価の正弦波曲線からすれば、そろそろ減少局面に入りそうだということ。その時期がいつかにかかわらず、求人数も必ず同様の曲線を描くのだということです。

では、株価が下がって求人数が減少傾向に入ったとすれば、私たちはどうすればいいのでしょうか。事前に何を考え、どう行動すべきなのでしょうか。

私たちは過去にすでに3度、そのような経験をしており、そのすべてには兆候がありました。長銀ショックの前年には山一證券が倒産し、アンダーセンショックの前年にはエンロンが倒産し、リーマンショックの前年にはサブプライム問題の顕在化があったのです。

それらを感じ取って行動を起こせた人は、嵐に巻き込まれることなく、無事に人生の航海を進めています。それどころか“勇気”をもって進路変更し嵐に立ち向かった人は、嵐が去った後、風を受けて晴天の海原をどんどん前に進んでいます。“勇気”を持つことができなかった人は、安定を望むあまり嵐が来るというのに進路を変えず、嵐が来てからもただじっと去るのを待つのみで最悪の事態を招きました。幸い日本の労働市場では、これまではそのような人でも藻屑となることはなく、何かしら職を得て、海原に浮かぶことができましたが(でも、ただ浮かんでいるだけです。エンジンを失い、残念ながら自分で進路をとれる状態ではありません)。

このような過去の3度の経験から、私たちはいくつかの教訓を得ることができます。まずは、兆候を見つけるアンテナを常に立てておくこと。それから、兆候が見えたら行動する“勇気”を持つこと。そして、見かけの天候や状態だけで判断しないこと。この3点が嵐を乗り越えるすべとなるのだと思います。なかでも“勇気”の重要性は、ぜひ心に留めていただきたいのです。“勇気”を持てなかった人が不況時に判断を誤り、転々と職を変え、後悔が残る選択をしてしまった例を、これまでいくつも見てきたからです。

どれだけ科学データを使って分析・予測しても、予測どおりにならないことは多々あります。“勇気”の源泉は、考えに考え抜く行為そのもの。これまでの人生で経験がないほど、ご自分と向き合い、人生やキャリアや働くことについて考え抜いてこそ、そこから“勇気”は湧き出てくるのではないでしょうか。過去の偉人の言葉にもあるとおり、あらゆる手段を奪われた時にでも、最後に人間に残るもの、残されるもののひとつは“勇気”なのですから。

今年一年、世の景気動向、労働市場の動向がどうであれ、“勇気”を合言葉にして前へと進んでいきましょう。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)