転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

2022年7月~9月 
2022.07.07

いま最も人材が不足している領域:PE、VCなどファンド業界についての考察

今年の4月以降、VC(ベンチャーキャピタル)やPE(プライベートエクイティ)、ファンド運営会社からのキャピタリストの募集が増加しています。同時に投資先であるスタートアップやグロースベンチャー、バイアウト投資先の企業での経営コア人材に関する求人も、急激かつ目立って増加しています。この傾向は昨年の後半あたりから現れていましたが、今年に入って加速。さらに、インパクト投資やESG投資に関わる、新設ファンドの運営会社からの求人なども出てきました。

現在、弊社アクシアムで求人のお手伝いをしているファンド関連企業のうち、VCだけでも十数社あるのですが、そのうち5社は最近新たにご依頼をいただいた企業です。彼らが求めているキャピタリストのレイヤーはアソシエイト、VP、ディレクター、プリンシパル、MDなどさまざまであり、全般として人材への需要が高く、供給が薄い領域となっています。

いま最も人材市場が求めているハードスキルを挙げるとすれば、企業投資、ファイナンシャルデューディリジェンス、投資後の事業価値アップ(支援)、上場(支援)、M&A関連業務などといえそうです。また実務経験として、投資や投資先育成、事業会社経営、財務アドバイザリーなどの経験がある候補者が大変不足しているようです。

このようなハードスキルの観点からいうと、VCやPE経験者以外では、投資銀行、戦略コンサルティングファーム、財務系ファーム出身者、あるいは事業会社や商社で投資戦略、M&Aなどの部署にいた方、MBAなどでしっかり企業財務を学びデューディリジェンスやモデリングなどの知識を持つ方が潜在候補者になります。

仮に候補者にこのようなハードスキルと経験がある場合には、その方の「ハート」の部分の違いで進路がVCとPEに分かれるように思います。「イノベーション、インキュベーション、グロース、グローバル、ベンチャー」といったキーワードに関わっていきたいと思えばVCに、「経営再建、再生、事業承継、ローカル経済」などを進めていきたいとなれば、PEを選択することが多いと感じます。

(当たり前のことですが、「ハートがあってもハードがない」、「ハードがあってもハートがない」というのは困ります。ハードもハートもマッチしていることが、求人側にも求職側にも重要です。ですが、実際の転職の現場では、このようなミスマッチの状態が往々にして見られ、市場でのアンバランスさを生んでいます。)

ただ最近、この領域での進路が複雑になってきました。PEにおいてVC的業務を行ったり、VCにおいても投資先ベンチャーに再生が必要になったりという具合です。加えて、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の立ち上げ・拡大が増え、それらの人材募集が始まり、金融投資(キャピタルゲインが仕事)と事業投資(事業開発が仕事)の混合型ともいえる業務が始まっています。ですから候補者となる個人は、ご自分の持つハード、そしてハートの両方をしっかり見極めておく必要があります。

そのような混合型業務は、宇宙、ゲノム、フィンテック、フードテック、ロボット、ドローン、プラットフォーム、新素材、半導体、生命工学、アグリテック、エネルギーテックなど、様々な分野で増えていくのではと個人的には思っています。

海外のファンドでは、出資者はファンド・オブ・ファンドや年金運用財団などの機関投資家が多いのですが、日本ではそのあたりは少なく、主に大手企業あるいは保険会社や銀行などの大手金融機関が出資者を占めています。日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、株式及び債券への投資に加えて、投資資産全体の5%を上限にオルタナティブ投資枠を設けており、その時価総額は1兆 3419 億円(2021年3月末時点)となっています。ただ、PEとVCには数百億円程度しか投資がなされていないといいます。2000年あたりまでは1%以下に制限されていたことを考えれば5倍に増えていますが、これを多いと考えるか、少ないと考えるかという点については、今後行われる投資効果の測定と評価を行った上で判断すべきだと思います。

2021年度は、コロナ前にはそれほど見られなかった、海外のVCの国内スタートアップへの投資参入が目立ちました。また海外のVCと国内のVCのクロスオーバー投資、外資系PEのグロースベンチャー投資などが本格的に行われるようになりました。それらは、スタートアップにおける調達金額の約4割を占めるに至っています。

国内でのスタートアップによる資本調達額は、2000年前後は年間500億円ほど、2015年には2000億円ほどでした。それが2019年には5847億円となり、2020年にはコロナ禍などで一時減少したものの、2021年には8000億円にまで増えたといわれています(※)。一部のVCのパートナーからは、2022年は1兆円に届くだろうという観測も出てきています。

※参考:2021年 Japan Startup Finance 〜国内スタートアップ資金調達動向決定版〜

また、ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)の調べによれば、VC の投資動向については、2021年はコロナ禍の最中にもかかわらず、米国では36.5 兆円 と前年の 18.3 兆円から 99.2%増とほぼ倍増し、2020 年以前から突出した水準に達しました。中国も 6.3 兆円を記録し、前年の 3.3 兆円から 90.0%増と大きく増加。欧州では 2.4 兆円と前年の 1.6 兆円から 52.8%の増加となりました。一方、日本は0.3 兆円で前年の 0.2 兆円から 34.6%の増加となりました。世界中のリスクマネーが、スタートアップに流れ込んでいることがわかります。世界最大級のベンチャーデータベース・CrunchBaseの調査によると、2021年の世界のベンチャー投資額は6430億ドル(74兆7,300億円)に達し、2020年の3350億ドルと比べ92%の成長になっているそうです。

このように2021年度は、国内に限らず世界中のスタートアップ、グロースベンチャーにとって資金調達が容易な環境となったといえます。ただ、2022年の前半に国内でユニコーンといわれてグロース市場に上場したベンチャー企業の時価総額が、上場後も高騰し、金融関連の企業投資のプロフェッショナルや株式アナリストからは「時価総額高騰の原因が見えない」という意見も出てきています。また海外に目を移せば、2021年に注目された多くのユニコーン(=評価額10億ドル以上の非上場スタートアップ)がレイターステージの段階でありながら、すでに評価額を減らしているとの報告も見受けられるようになりました。国内外のスタートアップによる資金調達額、投資件数、IPO企業数、あるいはVCのファンド組成時の資金調達額などの2021年度の調査結果公表は、今後順次行われると思いますので、注視したいところです。

また、視点をESG・インパクト投資に向けてみると、Global Sustainable Investment Alliance (GSIA)の調査によれば、2020年度の世界のESG投資残高(インパクト投資含む)は2018年度から15%増の35.3兆ドル強となっています。また、世界の運用残高は19年末に推定7150億ドル(約78兆円)と前年比で4割増え、インパクト投資のうち先進国の未上場企業に投資し、市場並みのリターンを目指す場合で収益率は平均16%とされるとの調査もあります。

2019年に国際金融公社(IFC)が主導して作成された、9つの要素から構成された「インパクト投資の運用原則」は、投資家が投資のライフサイクルの中に、インパクトについての考えを意識的に組み込めるフレームワーク を提供しており、これから世界中のESG・インパクト投資にかかわるファンド運営会社が、それぞれが重視する社会課題解決の領域で、投資運営と同時に社会への貢献を目指す際の一助となるものです。日本でも10億円から100億円までのインパクト投資ファンドが始まっており、「少子高齢化」「女性問題対策」「地球課題」「技術研究開発」「気候変動」などをテーマに挙げています。

ベンチャー起業家も、SDGsなどの課題解決のために立ち上がった社会起業家も、どちらもリスクマネーを調達できるフレームが整ってきました。しかしながら、前述のように資金以上に課題となるのは「人材確保」の難しさです。日本の人材市場では、一度でも失敗をすると再チャレンジが難しいという状況が長らく続いてきました。しかし今後は様々な課題解決を進めるためにも、社会全体で「失敗は悪。必ず成功しなければならない」という呪縛から抜け出し、むしろ新しいチャレンジの際には失敗することが普通で、成功することが稀だという現実を直視し、もっとチャレンジすることを楽観的に考えるべきだと思います。

徐々にではありますが、失敗から学ぶことができ、またそれが評価される時代へと変化の兆しがみえてきました。今後個人がキャリアを築いていく際には、アップサイドリスクをしっかり見る力、ダウンサイドリスクをしっかり判断できる力を身に着け、大いにチャレンジするキャリア選択をしてほしいものです。

「イノベーション」「ベンチャー」「キャピタル」といったキーワードにかかわるキャリアで、弊社アクシアムで転職支援をさせていただき、成功した最近の事例を一部ご紹介します。

50代 日系企業海外支社経営幹部から、外資日本支社幹部に。人生で初めての転職。
50代 ベンチャー企業経営者から、ベンチャーキャピタルMDに。過去数回の転職経験あり。
40代半ば ベンチャー企業取締役から、PE投資先企業経営者に。過去数回の転職経験あり。
40代半ば 理工系博士、政府系研究機関から、スタートアップメンバーへ。初めての転職。
40才前後 大手企業経営管理から、グロースベンチャーコントローラー管理職に。初めての転職。
30代後半 ベンチャー企業マーケティング責任者から、PE投資先ベンチャーCMOに。過去数回の転職経験あり。
30代後半 監査法人財務コンサルからベンチャーキャピタル管理本部長に。初めての転職。
30代半ば 弁護士事務所から、ベンチャーキャピタル・法務部へ。過去に転職経験あり。
30代半ば 監査法人、大手外資、ベンチャーなどを経て、ベンチャーキャピタルへ。
30代半ばで起業したが、拡大が難しく売却し、日系大手企業の子会社経営幹部として転職。過去数回の転職経験あり。
30代半ば 商社投資部から、ベンチャーキャピタルへ。初めての転職。
30代半ば 事業会社の経営企画から、日系企業・投資統括部門に。初めての転職。
30代半ば 上場企業執行役員から、グロースベンチャー事業開発責任者に。過去に転職経験あり。
30代前半 海外NPO、プロジェクトマネジメントコンサルから、グロースベンチャーCEO補佐・事業開発へ。過去数回の転職経験あり。
30才前後 事業会社、財務コンサルを経て、ベンチャーキャピタル・アソシエイトに。
20代 投資銀行2社を経て、ベンチャーキャピタル・アソシエイトに。
20代 大手企業商品開発担当から、スタータップに。初めての転職。
20代 大手企業のM&A担当、海外勤務だったが、VCに転職・帰国。初めての転職。

こうして改めて書き連ねてみると、非常にユニークなものばかりであり、それぞれ「ハード」と「ハート」の両方をしっかり備えた方ばかりでした。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)