転職コラム注目企業インタビュー

ウォルマート・ジャパン2012.01.14

2008年にウォルマートグループとなった西友は、2011年6月、ウォルマートで要職を歴任した最高執行責任者(COO)のスティーブ・デイカス氏(元ファーストリテイリングで海外事業部門 SVP)が新たに最高経営責任者(CEO)に就任し、さらに改革を進めている。 西友は、ウォルマートの創業者サム・ウォルトンが提唱している「Every Day Low Price(EDLP)」「Saving people money so they can live better.」「個人が勝つわけではない、チームが勝つのだ」といった経営哲学をもとに、見事に再生を果たした。西友がウォルマートグループになってからのこの3年間で、一人当たりの売上高は40%改善、また、収益率も大きく上がった。 そして2012年はさらに攻めの戦略に転じる。今年は3年ぶりの新規出店を計画しており、食品スーパーと惣菜専門店など年間20店舗を出店する予定とのこと。CEOデイカス氏はメディアを通じて「日本はデフレで物価下落が進んだが、小売価格はまだ高い。景気低迷下で可処分所得が下落、節約していい生活をしたいというお客様が増えており、われわれのビジネスモデルは整合性がある。われわれの会社はまだまだ成長できる潜在能力を備えている。」と言っており、実際に同社の既存店売上高は2009年度、2010年度連続で前年比プラスとなっている。 そして現在、西友はその経営改革を進める「次世代マネジメントリーダー」を採用・育成することに大きな力を注いでいる。その流通改革の最前線で活躍されているお二人に話を聞いた。 [掲載日:2012/2/9]

ウォルマート・ジャパン

日本の流通業界を改革するリーダーとは

渡邊

本日はお二人に、流通、小売業界の経営改革の最前線で感じておられることを率直にお伺いできればと思っております。よろしくお願いします。

コンサルティングファームから小売業界に転職されたお二人にとって、ウォルマート、西友がもつ魅力はどんなところでしょうか?

ウォルター・ボッケル 氏

ボッケル氏

私は社会人となって15年程度、西友に入社して1年ほど経ちましたが、それまで感じたことがない素晴らしい感覚を感じていますし、人生を楽しむことができています。まず最も実感できることは、西友は日本のお客様を対象としたローカルなビジネスを運営する上で、世界中で展開しているウォルマートのビジネスプラクティス、サプライチェーンマネジメントの力などをうまく活用することができている点です。

その次に、ビジネスとパーソナルの区別を意識することが無く、仕事のやりがいを感じることができるようになったことですね。コンサルティング職の時代には、ビジネスとして様々な業界で多数の企業の改革を支援してきましたが、どのような業界も自分の身近に感じることはできませんでした。しかしながら、小売業である西友に入社してからは、一人の生活者として身近にビジネスを考えることができるようになりました。日々買い物もするし、食品を買って料理もするし、カスタマーの視点をもってビジネスを捉えることができるので、自宅に帰ってからも特にビジネスのスイッチを切る必要がありません。日々の生活の中で仕事を楽しく感じることができる自分を発見できたことは、大きな驚きでもあります。

井上氏

私もコンサルティングファームに勤務した後、スペインのIESEにMBA留学し、昨年卒業と同時に西友に入社しました。まだ入社して日は浅いのですが、何よりもワーク・ライフ・バランスが格段に素晴らしいと感じています。大体は18時30分には退社している状況で、コンサルティング時代には考えられない生活です。小売業界は全然休めないと思われがちですが、自身の部門も含め、調整すれば長期の有給休暇も取得できる環境です。

また、周りの人々や経営陣からの自分に対する大きな期待を強く感じています。期待に応えたいという責任感も強くもっています。小売業については、MBA留学している間は、自分のキャリアの選択肢にまったく入っていなかったのですが、今は西友に入社して間違っていなかったと思っています。

ボッケル氏

プライベートや日常の生活のサイクルと仕事のサイクルが非常にうまく回っているというような感覚を持てることは素晴らしいものです。西友のお店に買い物に行って、カスタマーとしていろいろな改善点に気づくことがあるのですが、それは仕事としてやらされているのではなく、極めて自発的な気づきです。本当にビジネスが身近になりました。コンサルティング会社か事業会社かなどと考えて転職する必要がありませんでした。日常生活に密接しているのが、小売業の魅力ともいえます。

渡邊

なるほど、コンサルティング業界と大きく違いがありますね。ところで、日本の流通業界の賃金はコンサルティング業界と比較すると低い印象がありますが、その点はいかがですか?

井上氏

そもそもコンサルティング業界は事業会社に比べ高い報酬制度だと思いますが、他の事業会社と比較した場合、(西友が)必ずしも低いとは思いません。実際に転職する際に検討した会社の中でも競争力のある給与水準でした。同業他社比較はしていないので明確にお答えできませんが、ワーク・ライフ・バランスを保つ事もできますし、個人的には満足しています。

ボッケル氏

何よりもグローバルな仕事環境で、かつ日本に住む生活者として身近でやりがいのある仕事ができるので、コンサルティング業界と比べ高い報酬を得ること以上に満足感を得ています。もちろん、泥臭い仕事や仕事上のストレス、プレッシャーもありますが、小売業の中で、このウォルマートグループのチームの一員としてやりがいを感じられていることは、他では得られないことだと感じます。年収だけを優先する人にはお勧めできませんが、やりがいを感じたいなら、小売業は選択枝になると思います。

渡邊

小売業界に長く勤める人や、小売業界以外勤務経験がない人、あるいは小売業界は賃金が低いと思い込んでいる人達は、意外にも、小売業界に勤めることの本当の意義や魅力を感じられていないのかも知れませんね。

さて次の質問です。日本企業であった西友がウォルマートというグローバル企業の一員となったわけですが、そのグローバル化、改革を進めるにあたり、日本の悪しき商習慣や年功序列的人事、属人的な人間関係が妨げになったりすることはあるのでしょうか?

ボッケル氏

まったくない訳ではありませんが、基本的にはとてもオープンな社風であり、組織のヒエラルキーによって自由な議論が阻害されるというようなことはありません。他の小売業に勤務したことがないので断定的にいえませんが、コンサルとして様々な外資系企業の仕事をした経験から申し上げれば、外資といいながら中身はほとんど日系企業という会社も多くある中、西友はそれらの外資系企業の日本支社と比べて、格段にオープンで風通しは良いと思います。

井上 謙 氏

井上氏

様々な課題があることは事実です。しかし、コンサルティング時代には、改革のための分析と企画、提案までが仕事だったのに比べ、今は改革プランを実践し、さらに実行段階で新たに発生する課題の解決までも行い、最終的には成果に至るまで一貫してリードできることが逆にやりがいになっています。

結果をマネジメントやチームと共有できるところが何よりやりがいになりますし、学びとなります。さらに改革、改善に終わりはありませんので、モチベーションを継続的に維持できています。コンサル時代は、プロジェクト毎で完結していましたが、経営改革、経営に終わりがないということに改めて気付きました。このような価値観、感覚が持てたことは、自分のキャリアにとっても大きな収穫だと思っています。

渡邊

企業カルチャーについてはどのように感じていますか?

ボッケル氏

ウォルマ-トのカルチャーが浸透してきていると思います。そのカルチャーとは創業者のサム・ウォルトンが掲げた3つの信条で「お客様のために尽くす」「常に最高を目指す」「全ての人を尊重する」であり、仕事を進める上での基盤だけでなく、ライフスタイルにも影響があると感じています。

「お客様のために尽くす」で例を挙げるとしたら東日本大震災時の対応が象徴的だと思います。被災された東北地方のお客様のためにライフラインとなるミネラルウォーター、おにぎり、毛布などの緊急物資を一刻も早く届ける事と、被害を受け閉店した店舗をリオープンさせるために、サプライヤー・ベンダーと従業員一丸となって取り組んだ事はアソシエイトの励みにもなりましたし、何よりもお客様がお店に戻って来てくれた時は生活が少しずつ戻り始めてきた事を実感でき、本当に嬉しく思いました。また、懐中電灯・電池などの支援物資を緊急輸入できた事と、品不足で地域の物価が高騰している中、西友のEDLP戦略で商品値段を変えなかった事は、いかにウォルマートグループが巨大リテーラーかを感じましたし、スピード感を持ってシームレスに共通の目標を持ち、復興のために地域のお客様や、店舗のアソシエイトの生活に尽くす事でインパクトを与えられたと思います。「全ての人を尊重する」という意味合いの延長線はワーク・ライフ・バランスと感じており、会社が勤怠管理をしっかり行う事で生活の中でのメリハリがつくようになりました。

井上氏

「お客様のために尽くす」に関しては担当しているプロジェクトの中で課題を解決する上で日々感じています。よく課題に対する仮説を具体化するために、売り場を見に行ったり、家族や友人に西友や、他社の売り場について聞いたりしています。「すべての人を尊重する」という事に象徴されるのがオープンドアポリシーだと思います。元々西友は日系企業ですので、ヒエラルキーがあるのではないかと思われるかもしれませんが、日々の仕事をする上であまり感じた事はありません。先程ボッケルさんが話していた通り、上の人ともオープンに仕事のディスカッションができますし、マネジメントとのやり取りも多くあります。また、「常に最高を目指す」という意味では常に結果を求められるだけでなく、個人の成長も求められます。チャレンジングな環境ではありますが、その分成長できる機会は多くあると思いますし、成長機会を求める人にはチャンスも沢山与えられると思います。私の場合、小売業の経験もなく、社歴も浅いですが、既に非常に責任もやりがいもある仕事をさせて頂いています。入社2カ月目に行った分析をマネジメントにプレゼンする機会を頂いた時にはびっくりしたりもしましたが、日々学ぶ事も多く、非常に充実しています。

渡邊

経営戦略部では、具体的にどのような仕事をされているのでしょうか?

ウォルター・ボッケル 氏

井上氏

経営戦略部では、様々な経営課題の解決や改善をリードしてゆき、自身としてはマネジメント人材となれるように努力しています。物流の改善や販売、セールス、マーケティング、オペレーションなど多岐にわたるプロジェクトを経験していきます。すべてマネジメント、経営陣から戦略的なテーマや課題が与えられます。

それらの課題を解決するには、セールス、店舗、現場の声を聞くことも重要です。 おのずと部門の壁や役職の壁をこえて、非常に広い数百単位の人脈が広がり、信頼関係を構築できるのがなによりも良いですね。部門採用からキャリアをスタートするとどうしても部門を越えた人脈や縦の人脈を広げることが難しいと思うのですが、このプログラムでは、国境を越えた人脈を広げることも可能です。日本支社のプラクティスだとしても、その解決施策を海外のプラクティスに求める場合も多く、コンサルティング時代とは比較にならないほど、英語で海外のメンバーと仕事をすることが多くあります。店舗の人達と仕事をする場合はもちろん日本語ですが、経営企画の仕事だけとれば、ほとんど英語で業務をしています。

井上氏

外資系日本支社では英語をあまり使わないとか、セールス、売上にかかわる責任ばかりが問われると言う人もいますが、西友の経営戦略部の仕事はまったく異なります。ローカルな課題を、ウォルマートの海外のメンバーと共に解決するようなことが本当に多く、入社する前にはここまで英語で仕事をするとは思いませんでした。また、経営陣が直面する重要な経営課題にここまで深く携わることは、コンサルティング時代にはそれほどなかったように思います。これは、自分が将来経営の任に当たるときに非常に役に立つだろう、貴重な経験です。この機会を得られたことに本当に感謝しています。

渡邊

会社のことやお仕事の内容をいろいろお伺いできましたが、西友への応募を考えている方へ、先輩としてメッセージをいただけますか。

ボッケル氏

社内でグローバルな人的ネットワークを構築できることや、プライベートとビジネスのサイクルが非常にうまく自然にバランスされ、両者の区別がなくなるほどやりがいを感じることはお話しした通りです。加えてぜひお伝えしたいのは、毎日のニュースや出来事がこれほど仕事に直結するところも他にはないだろうということ。これは、リテールの仕事の魅力の一つだと思います。TPPや欧州金融不安、少子高齢化、円高、震災など、およそマクロな社会の出来事の全てが生活者に影響することであり、すなわちそれは全て自分の仕事に直結していことにもなります。本当にダイナミックな仕事ですし、社会に直結している感覚を持てることは大きな魅力だと思います。

井上 謙 氏

井上氏

私事になるかも知れませんが、スペインに留学した直後にリーマンショックが起きたのですが、その時、MBA取得後は「カスタマーの視点を持てる個人向けのビジネス」で仕事をしたいと考えました。その点からも、他のBtoCビジネスやメーカーなどよりも、リテールである西友に入社して本当に良かったと思っています。

ボッケルさんが言ったことの繰り返しになりますが、この仕事は日本のローカルな仕事だと誤解されることもあるかもしれませんが、実際はアメリカ本社のみならず海外のメンバーと広く交流したり、情報を共有したりすることが多く、とてもグローバルな仕事です。これは入社前にこれほどと想定していなかったことであり、西友への応募を考えている方にぜひお伝えしたい点です。

ボッケル氏

私も最後に付け加えておきます。改革のリーダーとして期待されている私たちは、チェンジエージェントとしての期待役割が大きいところです。従い日本語でも英語でも同様に、オープンにコミュニケーションする力が不可欠であり、物事を取りまとめる力、推進してゆく力、そして何よりも打たれ強さが求められます。

渡邊

小売業の経験はなくても大丈夫でしょうか?

ボッケル氏

小売業界の経験があればもちろん良いと思いますが、小売業界出身者の方でなくても、コンサルティング出身者やMBAの方であれば対応できると思います。2~3か月程度である程度のラーニングは可能でしょうし、そもそも「EDLP」や経営改革には終わりはありませんので、現場の経験者の人達の声に耳を傾けそこから継続的に学んでいく姿勢をもてる人であれば、未経験者でも問題ないと思います。むしろ、小売業の面白さを学ぶよい機会となるはずです。

渡邊

最後に、お二人は西友に入社され、次のステップ(社内のキャリアパス)はどのようにお考えでしょうか?

井上氏

まずはクロスファンクショナルのプロジェクトを多く経験し、西友、そして小売業をきちんと学びたいと思います。その上で、今まで培ったコンサルタントの経験や、MBAでの経験を活かし、ステップアップしていきたいと思います。まだ具体的なキャリアパスはあまり意識していませんが、国内・海外問わず1人のリーダーとして会社にインパクトを与えられるような仕事をしていきたいです。

ボッケル氏

西友は3つの信条のひとつである「常に最高を目指す」、目指せる会社だと思っていますので、ウォルマートでリーダーを目指したいと考えております。コンサル・大手事業会社での経験を基に、他部門に渡る重要なプロジェクトを西友で担当して広げてきた小売業での経験や、知識も深めながら人脈も構築してきましたので、自身の理想的なリーダー像に近づいていきたいです。 ただし、その方向に向かうためにはまだまだ経験や、知識を肌で感じていたいです。小売業もシンプルなビジネスモデルに見える半面、奥深さがありますので、特定の部門でスペシャリストとして目指したいです。また、日本のノウハウを他のウォルマートが展開している国に自身の経験を活かしたいとも考えていますので、グローバルでのチャンスがあれば積極的に参加したいと思います。更なる貴重な経験をさせて頂いた後は、将来的に海外での経験とベストプラクティス(成功体験)を日本にも持ってきたいと考えています。

渡邊

私も小売業の事を分かっていたと思い込んでおりましたが、今日はお二人からウォルマート・西友や小売業のおもしろさをあらためて教わることができました。お忙しい中、ありがとうございました。

※当記事でご紹介している内容は、ご登場頂きました方の所属・役職を含め、掲載当時のものです。

Profile

ウォルター・ボッケル

経営戦略部 シニア・ダイレクター

神戸生まれ、神戸育ちのバイリンガル。神戸のインターナショナルスクール卒業後、渡米。インディアナ大学卒業後、日本アクセンチュアに入社。CRMの立ち上げに関わるプロジェクトに参加(東京、サンフランシスコオフィス)、様々なコンサルティングプロジェクトを担当後、シリコンバレーのIT企業へ転職。2003年に日本へ帰国し、ABeamコンサルティングや、GEコンシューマー・ファイナンス(新生ファイナンシャル)でビジネスの一線におけるプロジェクトをリードする。2010年に合同会社西友の経営戦略部にシニア・ダイレクターとして入社し、現在に至る。

井上 謙

経営戦略部 ダイレクター

東京生まれ。日本のインターナショナルスクール卒業後、渡米。米国デューク大学卒業後、日本アーンスト・アンド・ヤングコンサルティング入社。システム関連プロジェクトのPMOを幅広く経験。その後保険会社を経てスペインのIESEビジネススクールに留学。MBA取得後、BCGに入社。2011年に合同会社西友の経営戦略部にダイレクターとして入社し、現在に至る。