転職コラムキャリアに効く一冊

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2011年11月

会社が放り出したい人・1億積んでもほしい人
堀 紘一(著)

著書の堀氏は、MBAホルダーの中でも最も知名度の高い人物の一人である。1980年にハーバードビジネススクールを卒業し、その後常に先駆的で時代の先を歩んできたアントレプレナーである。読売新聞、三菱商事を経てボストン コンサルティング グループの日本代表を勤めた後、55歳でドリームインキュベータを創業している。

本書は、2006年、当時60歳を超えていた氏が本音を語った書であると感じる。20代、30代の人達にこそ購読をお勧めする。氏の助言は、本当に力のある人に、新しい一歩を踏み出す勇気を与えてくれるのだ。

キャリア相談、特に数多くのMBAホルダーのキャリア相談を行っているが、堀氏のような人はそう多くない。単にMBAだから出世したのではないと断言できる。自ら物事を考え、時代の流れや人というものをしっかり観察し答えを出して、選択、行動に移してきたからこそ、経営コンサルタントとして大成し、多くの経営者から信頼されるに至ったのだと思う。MBAホルダーの人たちにもぜひ一読を勧めたい。

氏が何度も繰り返してメッセージを出している相手は、日本の大企業の中で人生の大事な選択を先送りにしてしまっている人たち、すなわち、「転職してチャンスをつかむか、現職で経営を目指すか」などの問いに明確に答えられない人たちである。

本書を読んでいると、日本の組織では、人生の意思決定を先送りしてしまうタイプや会社に頼るだけのサラリーマン、意思決定が出来ないサラリーマンタイプの人が、そのまま経営者になってしまいやすいということがよく分かる。意思決定できる人や仕事が出来る人ほど、会社に残らないのではないかとさえ思えてしまう。

氏の「転職は3回まで、最後の転職は40代半ばまで。」という助言には、まったく同意である。ほかにも、「経営者が欲しい希少価値のある社員」とは、1)仮説が構築出来る人 2)実行力がある人 3)みんなと力を合わせて仕事が出来る人 と氏は言う。

リーダーシップには、経営者のリーダーシップと、マネジャーのリーダーシップの2種類があり、前者には“アントレプルニアル”が必要だが、後者には必ずしも必要ではないと説いている。これには異論を唱える人も多いかもしれないが、その後、具体的に経営者のリーダーシップについて述べる論点を読んでゆけば、納得できるに違いない。 特に、厳しい決断を迫られた経験をもつ、経営経験のある人であれば頷けるはずであろう。

また氏は「MBAを取っても経営者になれない」とも言っている。アメリカのビジネススクールであれ、日本のビジネススクールであれ、ビジネススクールではこのリーダーシップが身につくものでないというのである。氏によればビジネススクールは経営センスを得る一つの手段であり、経営のリーダーシップについてはビジネスの現場でのみ磨かれるものであるというのがその理由である。

この点は、多くのMBAの人やMBAを目指す人達に肝に銘じておいて欲しい点である。

この書を読めば、無自覚のうちに会社から放り出される人になり始めていないか、あるいは無意味に転職をしてしまっていないか、読者自身で判断ができるはずである。逆に、この書に勇気付けられた人は、未来にむかって何か決心できるはずであろう。

会社が放り出したい人・1億積んでもほしい人 出版社:PHP研究所
著者:堀 紘一(著)