転職コラムキャリアに効く一冊

キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。

2011年12月

「明治」という国家(上)(下)
司馬 遼太郎(著)

「竜馬がゆく」「坂の上の雲」「国盗り物語」など多くの国民的歴史小説を世に残してくれた氏は、日本の経営者がもっとも好きな著作家だと聞いたことがある。

私も20代の頃、氏の著に没頭したことがあるが、社会人になってからはすっかり遠ざかってしまった。氏のストーリーには、その場に居合わせているような臨場感と思わずのめりこんでしまう凄烈さがあり、フィクションの部分さえも歴史の真実だと信じ込んでしまう危うさがあったからだ。

また、私があまり尊敬できない経営者の何人かが、好きな小説家として司馬遼太郎を挙げていることもあり、氏の歴史小説がとても世俗的なものに思えてしまったからだ。

しかし今年になって、複数の知人―日本の社会を良くしようと本気で考えている何人かの人たち―から本書をすすめてもらう機会があり、久しぶりに氏の書に接した。

本書も司馬遼太郎独自の歴史観、仮説の上に成り立っているのは変わらないが、本書は小説とは異なる歴史書と言うべきもので、日本の近代を大きく捉えておくには非常に良書であると感じた。

勝海舟、坂本竜馬、小栗忠順、西郷隆盛、福沢諭吉、伊藤博文、秋山好古、大久保利通はどんな思いで人生を懸けたのか。”公”の感覚とモラルをもったこれらほんのわずかの日本人によって明治時代が生み出され、そして日本の近代が形作られていった様子が事細かに描かれている。

どんな人でも、今、この書を読んで自らのキャリアを省みないわけにはいかないであろう。