転職コラムキャリアに効く一冊

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2013年3月

「イノベーション・オブ・ライフ」 How Will You Measure Your Life? ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ
クレイトン・M・クリステンセン (著), ジェームズ・アルワース (著), カレン・ディロン (著), 櫻井 祐子 (翻訳)

本書は、2010年にハーバード・ビジネススクールで実施されたクレイトン・M・クリステンセン教授の最終講義をまとめたものである。毎年、講座の最後の授業では、経営理論や戦略の話ではなく、人生をどのように生きていけば良いかについて語ってこられたそうだが、まさしくその最終講義だ。「最高の人生を生きてほしい」という強い願いを胸に、巣立っていく学生たちに送った教授の渾身の言葉に感動を覚える。

この書を読んで、私が20年に渡り行ってきたキャリアコンサルティングと助言は間違っていなかったと安堵を覚えるとともに、私が論じてきたこと全てがこの書に書かれているため、もう私のコンサルティングは不要になってしまったのかと思うほど衝撃を受けた。

また、東日本大震災の後、教授が送ってくれた日本への激励メッセージを思い出す。

「人生で最も大切なことを決して後回しにしてはいけません。「いつの日にか」という日が必ず訪れる保証はどこにもないのです。惜しむことなく助け合い、新しい社会を築いていこうではありませんか。」
(日経ビジネス 2011年6月6日号記事、クリステンセン教授からの手紙 ※1)

教授は、心臓発作、ガン、脳卒中という三重苦に見舞われ、一命を取り止めた後、うつ病に悩んだ経験を持つ。彼のメッセージは、病気を克服してアカデミアに戻るまでの苦難の連続の中で見出した彼自身の人生観と経験に基づくリアルなアドバイスであり、きっと多くの人の心に届いたものと思う。

本書で述べられているメッセージもまさに同じである。 以下、特に印象に残った部分を要約する。

5年毎にハーバード・ビジネススクールの同窓会が開かれるが、卒業後5年目の同窓会では、皆それぞれが遣り甲斐のある仕事に就き、年収も高く、また魅力的な伴侶を見つけて、夢溢れる、素晴らしい人生を運命づけられているように思えた。しかし、10年、20年、30年後には、もちろん成功している人も沢山いたが、何処でどう間違ったのか、はなはだしく道を踏み外し監獄行きになるような、決して人生の成功者とは呼べない人たちがいた。幅広く豊かな才能に恵まれ、教養にあふれた、世界に大きく貢献し得ることが明らかな人たちであったはずなのに。何人かの同級生の足をすくった問題はなぜ起きたのか、その原因を理解することは、計画した道から外れてしまった人だけでなく、まだ正しい道を歩んでいる人や、いままさに旅を始めようとしている人にとっても重要だ。

人生の難題には、簡単な解決策などなく、理論もその答えを与えてはくれない。しかし、理論は、人生の状況に応じて賢明な選択をする手助けとなる考えであり、ツールである。「何を考えるべきか」ではなく、「どう考えるべきか」が重要であり、理論とは、「何が、何を、なぜ引き起こすのか」を説明する。理論を人生に役立てる。

動機づけ理論は、ふだん自分に問いかけないような問題について考えよと、わたしたちを諭している。この仕事は、自分にとって意味があるだろうか?成長する機会を与えてくれるだろうか?何か新しいことを学べるだろうか?だれかに評価され、何かを成し遂げる機会を与えてくれるだろうか?責任を任されるだろうか? ―これらがあなたを本当の意味で動機づける要因だ。これを正しく理解すれば、仕事の数値化しやすい側面にそれほど意味を感じなくなるだろう。(イノベーション・オブ・ライフ、第1部 幸せなキャリアを歩む、p44)

報酬を与える制度があれば人は行動すると主張する誘因理論(インセンティブ理論)と対峙し「本心から何かをしたいと思うかどうかこそが重要」とする動機づけ理論(モチベーション理論)では、やりがいのある仕事、他者による評価、責任、自己成長などを動機づけ要因とする。ステータス、報酬、職の安定、作業条件、企業方針、管理方法などは、動機づけ要因ではない。満たしても、仕事への愛情を生み出す要因ではない。真の動機づけとは、人に本心から何かをしたいと思わせることで、この種の動機づけは、好不況に関係なく持続する。

創発的戦略と意図的戦略の概念を理解すれば、自分のキャリアでこれという仕事がまだ見つかっていない状況で、人生の向かう先がはっきり見えるようになるのをただ漫然と待っているのは、時間の無駄だとわかる。いやそれどころか、予期されない機会に心を閉ざしてしまうおそれがある。自分のキャリアについてまだ考えがまとまらないうちは、人生の窓を開け放しておこう。状況に応じて、さまざまな機会を試し、方向転換し、戦略を調整し続ければ、いつか衛生要因を満たすとともに動機づけ要因を与えてくれる仕事が見つかるはずだ。このときようやく、意図的戦略が意味をもってくる。これという仕事が見つかれば、ピンと来るものだ。(イノベーション・オブ・ライフ、第1部 幸せなキャリアを歩む、p67-68)

あなたの子どもが、優先事項や価値観をよその人から学ぶなら、彼らはいったい誰の子どもだろう?(イノベーション・オブ・ライフ、第2部 幸せな関係を築く、p155)

子どもに資源を与えすぎたり、親として果たすべき役割をアウトソーシングして人任せにしたりしてはいけない。子どもが考える力、価値観を養う手助けをする貴重な機会を奪ってしまうからである。親は、子どもに考える機会を与え、困難に立ち向かうとき、そばにいてやることが大切である。あなたがそばにいてやらなければ、彼らの優先事項を、そして人生を方向づける、貴重な機会を逃すことになる。

キャリアで成功を収め、幸せになってほしい。家族や友人たちと親密で愛情あふれる関係に深い幸せを見つけてほしい。誠実な人生を送る決意を新たにしてほしい。だが、何よりも、だれもが自分にとって最も重要なものさしで、成功を評価されることを望んでいる。あなたが人生を評価するものさしは、何だろう?


t※1 クリステンセン教授からの手紙 「人生のジレンマ」を乗り越えるために(日経ビジネスオンライン、2011年6月6日)

「イノベーション・オブ・ライフ」 How Will You Measure Your Life? ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ 出版社:翔泳社
著者:クレイトン・M・クリステンセン (著), ジェームズ・アルワース (著), カレン・ディロン (著), 櫻井 祐子 (翻訳)