転職コラムキャリアに効く一冊

キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。

2014年8月

非学歴エリート
安井元康 (著)

「社会に出た後にどういう努力をするかで人生は変わる。著者のキャリアがその証しだ」という冨山和彦氏の言葉が帯にあるとおり、安井氏のキャリアは学生時代から戦略的かつ、絶え間ない努力の積み重ねであり、社会に出てからも学歴のみに頼らない、努力によって築かれたものです。98年以前に社会人になった人達には見られなかった、新しいタイプのキャリアの価値観をもった世代です。

そんな若い世代では、有名大学を卒業して博士号をとっても、思った通りの人生を歩めない、チャンスが巡ってこない、努力しても無駄だ、と思っている人は多いのではないでしょうか?

読了後、人は成長できる、人生は変えられる、意味のある努力をやってみようと思われることでしょう。学歴とは何か、正しくハードワークするということはどういうことなのか、なぜ熱いハートとクールなマインドが必要なのか、この本から感じ取ってほしいと思います。

母子家庭に育っても一流大学を卒業していなくても、努力とキャリアの選択によって、20代でも2つの上場企業の役員として、企業の上場や再生を果たすことができること、そして人生を逆転勝利させるためのキャリアの選択と努力の過程がこの書に書かれています。加えて、実践的ノウハウまで書いてくれています。単語として使われていないものの、現状に甘んじることなく努力することで革新する、まさに人生のイノベーションの実践が書かれています。

私は38歳以下の人達に、手遅れにならないように読んでいただきたいと願っています。社会に出て15年程度経っても、正しく努力すれば、まだキャリアを変えられる可能性が極めて高いからです。同世代に安井氏のような傑物がでてきていることにまず気づいて欲しいです。加えて、安井氏は、普通の大学を卒業した人に読んでほしいとおっしゃっていますが、私はできれば高学歴の人にこそ本書を読んで気づいてほしいと思います。高学歴の人は学歴だけに依存しないで努力し、高学歴でない人も落胆せず社会人として努力する、そのどちらも正しい姿です。

本書は今までのキャリアに関する本と一線を画しています。その断片を書いておきます。

第一章:「なりたい自分」の見つけ方
  • 本当に「自分のためになる」と確信できることがあれば、人間は放っておいても努力する。「努力できるのも才能」ではない。自分がコントロールできるものとコントロールできないものがあるが、時間の使い方や未来は自分でコントロールできる。
  • 努力・根性に合理的な方向付けをする。
  • 高学歴者が成功する確率が高いとしても、それは生まれつき能力が高いという事では必ずしもない。彼らは「成し遂げるクセ」がついているのだ。
第二章:逆転のための羅針盤
  • 「俺も若いころは苦労した。おまえは若いんだから頑張れ」というような、自分の体験がすべてになっているおじさんの話は聞かないほうがよい。自分はもう年寄りだからもう頑張らないと言っているのと同じ。彼らはもうゲームを降りている。自分と彼らとは取り巻く環境も違うし、時代も違うので、アドバイスが無力。本当にその人だから成功したのかどうか、よく分析してみるとその人でなくても成功していることも多い。
  • 「人生成功マニュアル」を破り捨てろ。世間の考える「正解」を知って、その逆を行きたかった。
  • 誰よりも自分を応援することが大事。
  • 成功したら、どこまで自分の力だったのか問おう。「転職して給与が下がった人が、そろそろもうちょっともらっていいと思う」という人がいるが、それは前の会社の環境によってもたらされていた可能性が高い。個としての自分を厳密に評価すべき。
第三章:逆転のための「会社」とのつきあい方
  • イニシアチブが取れる会社を選ぶ、成長できる環境を選ぶ。
  • 現段階における自分のレベルに見合う規模の会社に入る。ベンチャー企業でも大企業でも成長は可能。スキル、責任をとれる機会を得られれば、成長と成功の最大化はベンチャー出身者のほうが上。どちらが自分には合っているかが本質的な問題で、よく吟味する必要がある。
第四章:逆転のための「人」とのつき合い方
  • 「周りにどう見られているか」を行動規範にしない。自分に恥じることがなければ合わせる必要はない。
  • 徒党を組まない。目的もなく親睦を深めない。まわりには自分のレベルにあった人が集まる。飲み会にはいかない。
  • 上司と同僚は無能でいい。その理由は自分が好き勝手できるチャンスだから。
  • 常に周りの人の中から仕事の進め方、スキル、知識など、学べる人を見つけ、その人を超えるためには、を考える。マルチスキルを持つことが、これからのセーフティーネットを自分でつくることになる。

安井氏が本書で述べていることは、私のキャリアの基本的な考え方に非常に似ており、私が20年以上キャリアコンサルタントとして多くの方にお話ししてきたことと重なります。その理由は今更ながらですが、私も高学歴ではないのに高学歴の人のキャリアコンサルティングをする立場で仕事しているからだと気づかされました。高学歴ではないからこそ気づくこともあるという事かもしれません。世の中学歴だけではありません。されど学歴の意味を理解すれば、人生設計に役立つでしょう。

最後に以下は本書のあとがきに書かれていることをまとめてみました。彼の誠実さが出ています。

「他人の言葉に流される「浮遊層」になるなと繰り返して述べてきましたが、当然、本書の言葉にも流されないよう、読者自身が考え、正しい努力、自分なりのベストなものを選択していくべきでしょう。本書の中の自分に合ったものだけ選び、合わないものは捨てて下さい。」

安井氏はまだ35歳。まだまだ成長していくでしょう。

安井元康氏プロフィール: 経営共創基盤(IGPI)ディレクター。1978年東京生まれ。母子家庭に育ち、都立高校を経て2001年明治学院大学を卒業、GDH(現ゴンゾ)に入社。翌2002年おなじくベンチャー企業のMGJに転職。2004年、同社のIPO実務責任者として東証マザーズへ上場達成後、26歳でCFO(執行役員・経営企画室長)に。その後、自身の学歴コンプレックスを解消し、同時に自己流の仕事術がどれだけ通用するかを確認するためにケンブリッジ大学大学院へ私費留学。同大でMBAを取得。その後、2007年に経営共創基盤に入社し、4年弱でディレクターに昇進(同社最年少)。クロスボーダーM&Aを含む各種成長戦略や再生計画の立案・実行などに従事。2008年~2010年には、ぴあ(株)財務担当執行役員として同社の事業構造改革などを主導。金融庁非常勤職員(専門調査員)。