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2014年9月

GE 世界基準の仕事術
安渕 聖司 (著)

世界で勝ち続けるエクセレントカンパニーの強さの秘訣を紐解くということは、言い換えれば世界で仕事をしていくために知っておくべき仕事術を知ることと言えます。

GEは世界的に経営人材を数多く輩出してきた会社でもあり、100年以上にわたり不況や産業変遷の荒波を乗り越えてきた会社です。私は、GEは他のアメリカ企業に比べると典型的なアメリカ企業という印象がなく、特異な企業だと認識しています。

120年の歴史の中で、わずか9名のCEOが長期の視点で経営のリーダーシップをとってきました。一人当たりの在任期間は長く、オーナー経営者同様、短期的な視点で経営されておらず長期の視点で経営判断、戦略がとられてきたこと。米系企業では珍しいのですがGE社内で育成したリーダーがCEOに就任してきたこと。そしてそのトップリーダーだけがGEを導いてきたのではなく、社員一人一人がリーダーシップを持って仕事をすること、社内全員にリーダーシップが求められているということ。この点は日本企業との最大の違いでしょう。

安渕氏は、三菱商事とGEの違いを見事に、「リーダーシップについての定義付け」「リーダー育成のメカニズム」さらに「そのリーダーに対する評価システム」にあることを述べています。

外部変化以上に社内変化が激しいこともGEの特徴でしょう。 経営企画室などの部署が存在せず、経営者自らが内外の情報を取り入れ、仮説を持ち検証するプロセスになっています。

GEのリーダーに求められる3つの重要な要素は、「変化をドライブする」「パフォーマンスを出す」「インテグリティを守る」ことです。社内のいたるところで、いろいろな変化が起きるようにすることがリーダーに求められています。ポジションパワーから人を動かすのではなく、リーダーが影響していくことが重要と述べておられます。

GEが重要視する、普遍的価値観をこのリーダーシップだとすれば、時代によって変化するような相対的価値観がGEの「グロースバリュー」と呼ばれるもので、リーダーは前述のリーダーシップがあっても、「グロースバリュー」がなければならないとされています。2009年以降は以下のようなものが定義づけられていますが、それ以前の「GEバリュー」に比べて大きく変わったのではなく、より社会変化に対応し、世界のGE社員が共通の概念をもつこと、仲間として戦う相対的価値観を再度、誓ったものと捉えることができます。

  • 外部志向 External Focus
  • 明解でわかりやすい思考 Clear Thinker
  • 想像力と勇気 Imagination & Courage
  • 包容力 Inclusiveness
  • 専門性 Expertise

GEのリーダーシップは、上記の(1)リーダーシップスキル(2)グロースバリュー、そして(3)専門知識や能力(4)ビジネス知識・能力の4つから構成されていますが、(1)(2)をより重視されています。

本書は経営者が読んでも参考になります。心地よく働けるためのカルチャーづくりや、上司抜きで上司について語り合う場づくり、ポストイットをつかったワークアウト、プロセス改善方法、会議からネクストアクションを生み出す方法など、会社によっては導入しても良いノウハウが沢山盛り込まれています。何より、日本の経営者が、ベンチャー起業家であっても、オーナー企業でも、大手上場企業でも、規模やガバナンスにかかわらず、再認識してほしいのが、安渕氏が述べている「CEOが果たすべき5つの役割」についてです。この「5つの役割」は、安渕氏流にまとめられたものと書かれていますが、私はGEの普遍的価値観そのものであると思いました。いずれにしましても、日本社会、日本のCEOにもっとも不足している認識であり、日本の多くのCEOに対して安渕氏が主張されたかった部分だと勝手に理解しています。

安渕氏はCEOとしての説明責任は当然ながらも、それに加えて次の5つを「CEOとして(ご自身)の役割と責任」と挙げています。

<CEOの5つの役割>

  1. 将来の大きな方法性を定め、資源を配分し、全体のポートフォリオをマネージする【戦略】
  2. すべての経営資源(人・情報・知識・資金)を活用して、経営目標を達成する【実行】
  3. GEの文化、グロースバリュー、インテグリティ最優先を組織の隅々まで浸透させる【基盤】
  4. 日本の金融界・実業界に対して積極的にGEを代表し、インパクトを与える【ブランド】
  5. 優秀な人を採用し、教育し、コーチし、評価し、元気付け、成長を助け、リーダーを育てる【人材】

本書の最後のパートには、ハーバードビジネススクールで得られたことや、日本がこれから迫られているグロール化への助言が書かれています。英語力よりも何を語るかが重要で、英語を上達させるには自分の興味領域から取り組むことが氏の一番の助言になります。

<MBAで得た主な7つのこと>

  1. 世の中は決して公平にできていない
  2. 複数分野でのエキスパートにはなかなかなれない
  3. 不完全な情報の中で意思決定をしなければいけない
  4. 知識というものはどんどん陳腐化していくものですが、問題へのアプローチや考え方の枠組みのようなものは陳腐化しない
  5. 人生において一番重要な資源は時間である
  6. リスクを取らなければ、リターンはない
  7. アイデンティティは極めて重要だ

<世界で勝ち抜くための5つのポイント>

  1. Who are you?
  2. What are you interested in?
  3. What do you think?
  4. How do you come up with ideas?
  5. Why don’t you speak up?
  6. これは、世界を目指す人のみならず、普段のジョブインタビューでも同じ点が問われます。しっかり自分を理解し、自分の言葉で話せるだけの専門性、価値観、考え方のフレームを持ち、論理性とパッションを備えた個性が求められています。 他の人と同じ回答や、ネットで拾ってきた議論、回答しかできない人が増えているように思われ共感した部分です。

    安渕氏も本書の最後「リーダーをいかに育成していくか」という項目で、「ジョハリの窓」について述べています。ご存じの読者も多いでしょうから、ここでは説明を割愛しますが、リーダーとして重要なことは「自分のことをより良く知る、そして他人にも知ってもらうこと」と仰っています。 そして、より高い目標や新しいことにチャレンジすることでストレッチすなわち自己成長が可能となる。何よりも自分の頭で考えること。他人から自分について語ってもらい自覚を高め自分を磨き上げること。これらはリーダーを育てることにも、自分自身が成長するためにも重要な事と結んでおられます。

    本書は、安渕氏がまるでGEの社員に語るように、読者に育ってほしいという熱い想いが込められたリーダーからの贈り物です。