転職コラムキャリアに効く一冊

キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。

2016年11月

藤原先生、これからの働き方について教えてください。
藤原 和博 (著)

私が人材業界に入って15年が経ちました。その間、じつに多くの方のキャリアデータを見てきましたが、「この人は、なぜこんなに高額な報酬を得ることができるのだろう?」「この人は、これだけ多くの転職を重ねているのに、なぜ次々と面白い機会を得ることができるのだろう?」との印象を持つことがしばしばあります。時には、その逆の印象を持つこともあります。

今月ご紹介する一冊、『藤原先生、これからの働き方について教えてください。』を手に取ったとき、「あの人はこういう考えを持っていたから、あのようなキャリアを実現できたのか」「こういうことを実践してきたからなのか」と、様々な方のお顔が浮かび、また想像を掻き立てられました。本書を読み、キャリア構築に成功されている方々の、成功の根拠の一端を見ることができたような気がします。

本書の著者である藤原和博氏は、リクルート入社後、東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任し、メディアファクトリーの創業も手がけた人物です。その後は都内で義務教育初の民間出身校長を務めるなど教育分野に転身し、現在は「教育改革実践家」という肩書のもと、講演活動や執筆活動などを行っておられます。

そんな藤原氏が提案する、これからの働き方とは? キャリア成功のポイントとは? 私なりの理解を交え、そのエッセンスを要約してご紹介していきたいと思います。

◆あなたの仕事を測るのは「年収」ではなく「時給」。年収だけで優劣を比較しても意味はなく、時間当たりに生み出す付加価値の量で比べないと、仕事の効率が見えてこない。日本人の時給は、アルバイトからシニアレベルのコンサルタントまで、100倍の差がある。100倍の差は何から生まれるか。それは「希少性」の差。

◆天才といわれるオリンピック選手や芸術家などは、一つの分野をとことん突き詰め、その分野でのスペシャリストを目指す。だが一般的な社会人は、一つのことで勝負できるほどの能力を有している方は少なく、したがって1つのことだけで勝負するのではなく、3つの軸で勝負できるよう「100人に1人の希少性」×「100人に1人の希少性」×「100人に1人の希少性」と、100万人に1人の存在となれるようなキャリアを築くべき。

100万人に1人というのは、確率だけで見るとなかなか難しく思えますが、ようは「希少性」を身に着けて「余人をもって代えがたし」と言われる人材になりましょう、ということです。

◆自分のキャリアを三角形でイメージして、まずは20代の5~10年で1万時間をかけて左足の軸を固め、次に30代の5~10年で同じく1万時間をかけて右足の軸を固める。40代~50代では、さらに1万時間をかけてできるだけ遠くへ踏み出し、三角形の頂点を作って大三角形を作り出す。

この「できるだけ遠くへ」というのは、自分の専門性が生きる場所に安易に足を伸ばすのではなく、異なる分野に足を踏み出すこと。それにより、三角形の面積がより大きくなることを意味します。こうすることによって自分ならではの領域を形成し、「希少性」を身に着けることができると藤原氏は主張します。

人の価値は報酬の多寡だけで決まるものでありませんが、人にはできない、自分だけができることを行うことで「希少性」が高まり、高い報酬がついてくるというのは、至極もっともな論理です。弊社がキャリア相談をさせていただく方の中にも驚くような報酬を得ている方がいますが、彼らが身に着けている「希少性」について改めて着目・整理し、ご相談者の皆さんにもお伝えしていこうと思いました。

また本書には、「希少性」を身に着けるために必要な能力についても書かれています。

◆大切なのは情報収集能力や情報処理能力ではなく「情報編集能力」。状況が複雑に変化する現代では、ものごとに正解がないため、その状況に合わせて自分も他者も納得できる「納得解」を導き出すことが求められ、そのためには様々な情報を集めて、自分なりに加工・編集して他者にわかりやすく伝えることが重要。

◆情報処理能力は、ジグソーパズルのように、どのパーツをどこにはめるかという正解があるもの。一方、「情報編集能力」は、レゴのように自由な発想で創り上げていくもの。これからの不確実性が高い時代で生き延びていくには、レゴ型の思考が必要。

◆そのためには頭を情報編集モードに切り替える必要があり、クリティカルシンキングとイマジネーションを鍛える必要がある。前者は世の中の常識や前例を疑う思考、後者はものごとを考える時に目いっぱい想像力を働かせること。

また、こんな面白い話も載っていました。

日本で「虹の色は?」と聞かれたら「赤・青・黄・緑・紫・橙・藍」の7色が正解ですが、フランスでは「赤・青・黄・緑・紫」の5色が正解、アフリカのとある民族のではなんと「色」を表す言葉が「明るい色」と「暗い色」の2色しかないために、虹の色も2色が正解(それ以外に表現できない)なのだそうです。このように、ものごとには様々な見方があり、ある常識は別の場所では非常識になることを認識して、多様かつ柔軟な思考でものごとを見ていきましょうという逸話です。

状況が複雑に変化する現代において、会社は変わり続けなければならず、その会社に所属する人も、当然変わらなければいけません。「変化するもの同士が、考えられる組み合わせの中で日々、常にベクトルを合わせ続けること。21世紀の働き方は、これに尽きる」と藤原氏は説いています。

そのベクトルを合わせるために大事なのは、皆が経営者意識を持つことです。それを実現させるためには「情報を徹底的に共有する」と「プロフィットとコストの意識を全員が持つ」という2つが求められるとあります。これが徹底されている会社は、まさに「希少」と言えるのでしょう。

これからの世の中を生き延び、さらにリードしていくために…人も企業も自分だけが持つ「希少性」を身に着け、変化への対応力を磨くこと。本書には、皆さんのキャリア構築に、大いに参考になるメッセージが込められていると感じました。

藤原先生、これからの働き方について教えてください。 出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
著者:藤原 和博 (著)

コンサルタント

若張 正道

株式会社アクシアム 
取締役/エグゼクティブ・コンサルタント/人材紹介事業推進マネジャー

若張 正道

大学卒業後、大手食品商社の営業部門からキャリアをスタート。人材サービスに関心があったことから、2001年、アクシアム入社。新規事業であるMBAをメインとしたネットリクルーティングサービスの立ち上げに参画。無事にローンチを果たし、その後は人材紹介事業推進マネジャー 兼 エグゼクティブ・コンサルタントとして、ハイエンド人材の展望ある転職=「展職」を支援している。