転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

1996年 4月~6月 
1996.04.01

仕事ができる人が絶対的に不足

当社に寄せられる数多くの求人に、適した人材が絶対的に不足しています。一方で仕事に溢れている人材も数多く見受けられます。今後この傾向はさらに拡大する気配です。長期的な視野に立ち、世界の趨勢を的確に分析しながら将来に向け、ビジョン持ち、自分らしく、自己の責任で、職能開発、自己研磨、人脈形成、職歴開発を行うべきです。可能性を秘めた個人が自己の責任でこれらキャリアプランを検討、実行に移す為には、更に多くの正確なジョブマーケット情報の公開が必要で、それを活用する人達が今後増加して欲しいと思います。全体として、余りに一辺倒キャリアプランが多過ぎます。

今後シリーズで、現在の求人傾向でもある次の世紀に求められる人材スペックを話したいと思います。今後、益々不足する人材像です。過去の経験が無く、この不足している職能分野に変更したいと言う希望もなかなか叶えられません。ですから新卒の方でこの分野の仕事に担当となった方こそ、ご自分の職域の重要性をさらに認識して頂ければ幸いです。経験者不問で、この分野の求人がインターネット、新聞等のメディアに出ればチャンスです。

こんな人がいない。シリーズ1

1.グローバル人事

企業で人事に所属する人の数は多いのですが、そこに国際人事(当然英語力必須)と言うフィルターをかけると、とたんに適任者が不足しています。グローバルな人材活用という新しい視点と手法を職能として備え、人事戦略・政策・企画の立案、運営、財務的分析、人事考課、労務管理迄できる人材が不足しています。人事畑の多くの方は、組織側権力を振るう事、組織の都合を従業員(日本だけの言い方)に飲み込ませる担当でしかないのではないでしょうか。「個人の生産性を如何に高められるか」が重要な時代には、大企業もベンチャーも、日本企業も外資もありません。最近は取締役、本部長、部長、課長といったレベルで求人が常に発生し、国際人事分野における需要が顕在化しています。グローバルな人々の活動に興味があれば、若い方にも目指して頂きたい分野です。

2.グローバル経理、会計、財務、税務

この分野は重要性が80年代後半から叫ばれ、CPA資格保有者等がかなり増加したのですが、余りに資格重視で現場の仕事を経験した人が絶対的に不足しています。資格保有がキャリアデザインに必要ですが、十分条件ではありません。20代でしっかりとした職能資格を開発しておくべきです。グローバル人事は有る程度大きな所帯で必要ですが、こちらは企業数だけ必要です。又、ベンチャー企業、外資系企業に拘わらず実力が必要です。日本の大企業の財務、会計、税務担当は、実務を部下任せにする事が多く、海外勤務経験者で部長であった方でもベンチャーや外資系企業に移ってから使い物にならないケースがよく見受けられます。一般経理から始めて、財務会計、決算会計報告ができ、IAS でも GAAP でも「どんとこい」と言える専門家として、経営人としての財務会計のプロが求められています。いつまでも金融機関の方や会計の先生にお世話になったきりではなく、自前で運営できる組織が必要となり、その為の人材育成が望まれます。外資系ファイナンシャル・コントローラーだけでなく、店頭公開の際の部長、取締役の求人も増加しています。

150名程度以下の外資やベンチャーにおいては、この財務会計と人事総務を一人で引き受けるというケースも増加して来ました。この点も見過ごせません。

概況

96年1月の有効求人倍率は0.67倍に改善、完全失業率は3.4%と横這状態

就職浪人の問題

現在就職浪人が11万人いるそうです。これは大変な問題です。若い人に仕事がない要因が二つあります。先ず、賃金が固定している事が挙げられます。毎年増加するのですが、海外では変動もすれば、卒業大学によっても異なる国もあります。「大学を卒業したらこの賃金と言う事に問題がある」と言う経営側の声も聞かれますが、「大学院に進学するのは就職出来なかった人だ」と言う声も聞かれ、寂しい限りです。卒業した事では無く、その人に何が出来るかが論点で、何も出来ない新卒なら賃金が低くとも、雇用がある方が社会的には人材を無駄にせずに済みます。賃金を与える社会よりも、機会を与えれる社会構造が大切だと思います。もう一つの要因は、教える側と育つ側の「場」、即ち教育の場の問題です。これは大学や専門学校だけを示すのではなく、会社、社会の中のあらゆる集団内での教える側と育つ側の問題です。私どもで、新卒、在校生の方々からのオンラインカウンセリングを、多数受けるようになってから気付いた事なのですが、「就職情報をどうしたら獲得できるでしょうか?」、「キャリアカウンセリングを受けたいが、何を話して、何を聞きたいのか全く判りません。教えて下さい。」、「全く白紙で、相談したい」等、余りにも主体性の無いメールに驚いています。一度、これら多くの新卒や在校生の方々にこそメッセージをまとめたいと思いますが、まずは今回、ジョブマーケット情報として、次の事だけ述べさせて頂きます。

就職に限らず、自分が真剣に興味を持てるテーマが何か発見できている人も、そうでない人も一般的に多数見受けられます。決してこれは新卒に限った事では無く、テーマを発見できない人の問題は、方法論でも、精神論でも、要領でも、環境でも、ましてや知識でもありません。自分捜しの経験が無いだけの事だと思います。悪い先生に当たり、反発して勉強する人も、避けてバカになる人もいます。コンピュータが嫌いな人がコンピュータ会社の社長になっているケースすらあります。出来る、出来ないではなく、どんな体験もその人の受け止め方で答えが違うと言う事です。しかしながら、自分が何者であるか、どんな答えであっても様々な体験や人とのコミュニケーションからのみ、自分が何物なのかを見付ける事が出来ます。書物だけで自分が何者かが判る人は極めて少数です。就職先捜しでは無く、自分のテーマが何か、自分を見つめて下さい。インターネットでテーマを捜す事もその一つの方法です。一人ではなく、様々な人との活動やコミュニケーションがその際には不可決です。アルバイト、フィランソロピー活動、ボランティア活動等、何でも構いません。嫌いなものをテーマにしても構いません。独特なテーマであればある程、自分の適正や現時点の過不足が判ってきます。多くの成功は失敗から成り立っています。学校や研修所だけで自分の能力や、ビジョンが生まれる訳では無く、仕事や課外活動等、全ての「人間活動」と「場」で、それらは生まれて来ます。もっと簡単に言えば、どんな体験からでも必ずそこには人との出会いがあり、縁となるか判らないと言う事です。アルバイトから正社員になったり、興味から読んだ本のの著者に手紙を書いた事が就労に繋がったり、研究の為に調査に行った会社に入社する事となってしまったり、人の縁と言えばそれ迄ですが、これも自分捜しなのです。

11万人の力は貴重です。お金の為のアルバイトや入社では無く、アルバイトの時期から既にキャリアは始まっています。更に言えば小学校で経験した小さな事でも、その人の意志で、将来のキャリアに繋がるのです。意志を持って下さい。ネットワーク社会ではこの意志が、今まで以上に非常に大切なキャリア形成の要素だと私は考えています。

『ジョブマーケットに関し、記憶しておくべきデータ/95年第四半期』

  • 東京市場:株高・円安の年明け。日経平均2万0618円。円が21カ月ぶりに一時105円後半を記録。
  • 黒字でもレイオフが行われる時代。過去最大のAT&Tの45000人削減を機に、レイオフの是非が米国で議論再開される。結果的には学識者、議会や政府の批判もあり強制解雇は30000人から18000人と減少。
  • 景気回復一段と鮮明。12月鉱工業生産3カ月連続上昇。設備投資も増勢。(1月29日付、通産省)
  • 1月の失業率先月に引き続き最悪の3.4%。95年の年間平均も初の3%台。内訳;男子3.4%、女子3.5%過去最高)。15~24才、6.5%、55~64才、4.8%となっており就職浪人の11万人を含め若年層の失業が懸念される。ただ求人倍率は0.67と0.02%だが上向き基調。
  • 春の定期採用、見直し加速。旭化成、総合職の1割、国籍・性別・学歴・採用時期不問。ゼロックスも秋に同様の試み予定。三菱商事の国際人事政策改革も注目される動き。
  • 大和銀が司法取引で共同謀擬等を容認。米金融事件では過去最大の16罪状で罰金356億円。邦銀の信用回復には時間が掛かりそう。米金融界から「構造的な問題」との指摘有り。
  • 遺伝子情報産業、産官学連携促す。通産省など報告。2010年10兆円産業を見込む。
  • 国際収支5年振りに経常赤字。1月19億円、貿易黒字46.9%減。95年黒字22.3%減少(2年連続)。
  • 95年10~12月;実質成長、年率3.6%。経済対策が押し上げ、住宅7.2%。公共投資6.9%増。95年、3年連続0%台。民儒主導回復なお弱く、設備投資力不足。公共事業は夏以降息切れ懸念も。個人消費、伸びに陰り。「耐久財・輸入品傾斜」鮮明に。パソコン・家具好調。衣食は抑制。
    注)需要項目別伸び率:個人消費0.4%、設備投資1.4%、住宅投資7.2%、公共投資6.9%。
  • 都市銀行など減配。今期、大手13行、赤字発表へ。住専含む不良債権償却。

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)