転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

1996年 7月~9月 
1996.07.01

世界的に見て高い日本の賃金を考える

費用当たりの生産性を国別で比較調査した結果などを見ると、日本の技術系、科学技術者は概ねアジアでトップですが、経営管理者は、何とアジアで17位と言う状況です。日本のホワイトカラーは、国際的に見て競争力のある価格になっていない事を示しています。30才過ぎで年収1000万円は当り前、と思っている大手企業ホワイトカラーも多い事だと思います。しかしホワイトカラーのみならず経営者の方々は、日本のエンジニアが世界的な特許を取っても会社からは金一封で済まされてしまい、徹夜で実験したり、世界に誇れる生産技術を創り出し、賃金以上に企業と社会に貢献している事を再考するべきです。一般的にエンジニアは視野が狭い事も事実ですが、世界的なエンジニアや科学者に対する報酬を見直さなければ、新規技術の世界標準の開発など、はかない夢です。この技術系と経営系の報酬制度を含めた歪が有る事は、国際基準に照らせば一目瞭然です。

新卒の賃金も問題です。アメリカでもアジアでも職務経歴がない大学卒の場合、就職は困難です。加えて卒業した大学のレベルによって、かなりの賃金格差があります。日本は大学格差を不平等で均一化していますが、中下位の大学にとって単に就職を難しくしているだけです。誰でもが大学の格差を黙認しています。そんな中で卒業までに職務経歴や様々な活動の経験をつける逞しい学生が現われてきています。実務に役立つ経験を重視する人達です。ベンチャー企業でパートタイムとして正社員に混ざって仕事をこなしてたり、外資系コンサルタント会社で調査の仕事を手伝います。これらの事象が中小企業や大企業に普及すれば、日本も定期採用の廃止、通年採用の重視など海外事情にもっと近くなるでしょう。ただし本当に日本の大手企業が中途採用者を活用できる組織戦略、人事政策、そして企業文化を備えるにはまだまだ時間がかかります。大企業における職能開発研修は価値がありますが、みそぎ研修などは個人にとっては価値がありません。ハリウッドでは、ただ働きでCGを学ぶ事を目的に仕事する若い人がいます。ニュー丁稚奉公制度の様なものです。一方、日本ではCG を学校で勉強させて資格を発行しようとしています。ここに日本の最大の問題があります。教育国家日本の良さがまったく裏目に出ています。なんでも教育しよう、組織を作ろうとします。学校で習う古い技術は通用しません。お金設けの為の人材育成の限界があります。スーパーな人材の育成が望まれます。結論から言うと、採用側から、資格者を供給して欲しいと言う要望はありません。資格ではなく経験と技術です。新しい産業に就きたいなら賃金が安くとも、職能と実績を機会として将来につなぐ事を新卒の方にお勧めします。賃金だけが高くても、職能と汎用性がなく、他の人と同じようなキャリアを形成するようでは、市場における付加価値がある訳がありません。どちらを取るかで、未来が違います。

中途採用の市場では最近、求職中の多くの人が、時間を有効活用しインターネットやパソコン研修にいそしんでいます。前向きだと思いますが、それで就職先が見つかる訳ではありません。就職後に電子メールなどが必要となってきているのも事実ですが、就職に役立つ訳ではありません。総務庁の調査で現在44万人もの人が、一年以上求職中である事が判りました。不景気の時期には新卒であれ、中途であれ、決して資格や学位がキャリアを形成したり、あるいは産業を起したりする要素とならない事にくれぐれも留意して下さい。

年収も下がってきているようです。日本企業の中国の工場長ですら800万円程度です。また外資系日本支社長も、以前は高い給与のイメージがありましたが、今では2000~5000万円程度です。インドネシアの財閥系の役員で5万ドルです(もっとも、プール、メイド付きの家ですが)。エンジニアの賃金を残業手当で調節して支払っている会社も多数あります。1000万円のホワイトカラーを1人やめさせて300万円台の新卒を3名入れるといった会社もあります。まだまだ複合的な問題がそこに存在します。

ローンを組んでいる人が賃金に縛られている間に、ローンのない人は自由にキャリアを伸ばしましょう。ローンで身動きできない人が30~55才で多数います。報酬の高い会社にいる人が現状維持で会社を変わりづらくなっています。今後は一度は下げても報酬を自分で作れる会社探しがポイントとなるでしょう。働く人の過半数は年齢に関係なく年収で800万円以下です。38才前後で500万円弱と言うのが日本の平均です。この平均賃金だけを見れば決して賃金が高いとか思えませんが、評価されるべき個人が報酬を得ていない、いびつな構造です。

そう言えば、アメリカのインターネット・ユーザーの平均給与は高く、8万ドル前後だと言う統計もありました。日本はもっと高額の人でもインターネットを見る事すら、忙しいと言う理由で敬遠している人がいます。英語ができる人がレジメを海外の会社に送ると、すぐに返事が来ます。日本では人事から直ぐにメールが返ってきません。インターネットであろうと紙媒体であろうと、知名度がもとから有る会社にだけメールを出す求職者側にも、創造性が欠落していますし、調査能力が欠けているのではないでしょうか?英語で仕事ができる貴重な人材が海外に流出していく事になります。賃金が高いことで有名な日本へは海外から『日本で仕事したい』と言うメールがきます。でも『日本語ができ、就労ビザを持っている人でも就職が難しい』と言わざるを得ませんが、就職が困難である事は彼等には判りません。海外から日本で仕事したいと言われ、日本人は海外で仕事がしたい。グローバルな視点で解決すべき問題がそこにあります。

勤務地だけでキャリアを考えていませんか?キャリアが先ずありきで、勤務地は二の次だと思います。たとえばどこの地域に生産拠点があるか、市場の将来性があるかでしょう。
『ホンコンに行きたいのですが、どんな職能や業界がいいですか?』『どんな資格がキャリアに有効ですか?』などのご質問には残念ながら答える準備がありません。この場を借りて再考をお勧めします。そんな方は資本主義の社会では、企業にとってジョブマーケットの採用対象ではなく、教育産業、旅行産業にとってのお客様であり、お金を出していただく側となります。

最後に、ジョブマーケットでは人材は売る側です。適正価格は変化しています。賃金はその人の人生の時間軸には残念ながら合わせてくれませんし、日本国内だけでの適正化はできない時代となりました。さあ、あなたはこれから、いつ、どこで、どんな人生を送りますか?

こんな人がいない。シリーズ

ネットワーク技術

イントラネット、インターネットにつながる、エンジニア、サイエンティストが必要です。数学理論をつきとめる人、データベースのプラットホーム、アプリケーションの開発ができる人、コンテンツの開発、設計ができる人、CG関連、グループウェアの開発ができる人、通信技術者、サーバー管理者、等々。Visual Basic、 C、C+、C++、UNIX、Java、そんな人材がいくらでも必要です。不思議な事に汎用機も一部求人があります。さらに今までになかった仕事として、文系の方にも仕事、雇用が発生します。インターネットの関連です。オン・ディマンドの関連技術や周辺制作者も必要ですね。今はJavaを使えればしばらくは売れっ子です。これは空想ですが、インターネット・リサーチャー、アナリストと呼ばれるネットの上でグローバルに各種調査・研究ができる人、ネットインタビュアーと呼ばれ電子メールで取材などする人、ネットの警備者、ホームぺージやサイトの保全・開発者と今までにない職域が発生します。インタクティブ営業マンでいろいろなマルチメディアを駆使して営業できる人。スタジオ・プロデユーサー、ネット小説家、いろいろなスターが輩出されると思います。映画やテレビがスターを生んだのと同じく、劇場などがネットで出てくればスターも出てきます。CGでできた理想の女性バーチャルスターが日本で生まれた話が最近ありましたが、まだ20世紀のダヴィンチの様な存在がきっとどこかで既に生まれているような気もします。『ハッカーを撃て』(TBSブリタニカ)の下村努さんのような人に対する需要はもっとあるでしょう。こんなキャリアがあれば創業も可能でしょう。絶対稀少価値があり。でも最初は独学で師匠がいませんし、学校もありません。20才になったら遊びは終わり。社会人として大学に通っている事をお忘れなく。創業もキャリア形成も20才になったら真剣が一番です。

概況

96年5月の有効求人倍率は0.69倍で前月より0.02ポイント改善。完全失業率は3.5%で過去最悪の水準。

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)