転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

1999年 4月~6月 
1999.04.01

ストック型とフロー型

あなたはストック型ですか?
それともフロー型ですか?
それとも、そのどちらでもないですか?

ストック型とは、会社や社会にとって、資産や価値を生みだしてくれるヒトのことです。フロー型は、会社や社会にとって、経営資源となる生産性をそなえたヒトのことです。どちらでもなければ、失業者になる可能性は否定できないでしょう。だからと言って、300万人もの失業者の方々が、社会の資本でも資源でもないということを意味しているわけでもありません。

資本と資源は、絶対価値ではなく、どこでどのように活用するか、活用されるかによってその価値が変わります。相手次第ですね。その価値を活かす場はかならずあります。

今回のジョブマーケット情報は、外資系と日本企業における「採用」と「育成」の違いを述べることにより、少しでもキャリアメイクのヒントになればとの趣旨です。

まず、今まで外資系といえば、フロー型人材に高い報酬を出して、不要になれば追い出すという認識があったのではないでしょうか?

しかし現実には変化が起きています。ストック型の人材の『採用』と『育成』が、90年代後半から外資系大手金融機関やグローバルな活動を展開する外資系企業で導入され始めているのです。ストック型人材、いわゆる将来の幹部候補です。語学力、高学歴、すぐれた職能、高い意識をそなえた20代の人材を対象に、世界レベルで採用が活発に起きています。外資系金融機関、コンサルティング、ハイテクベンチャー、医薬バイオ等の業界で、未来の本社経営者候補を探しており、弊社にもそのような採用の助言や支援を依頼されることが多くなりました。ストック型のヒトにとっては、これから国籍に関係がなく、グローバルな企業の経営陣を狙えるわけです。

日本的な表現方法だと、グローバル総合職です。これが一部の外資系企業が始めているストック型採用です。

グローバルな企業活動を展開する企業にとっては、ローカル採用を中心にしながらも、同時に世界中から優秀な人的資本を採用することが可能になりました。ストック型人材にとっては、日本で採用されても海外勤務と同時に、経営者へのキャリアの展開が可能になるということです。

今まで、日本企業と外資系企業はステレオタイプ的に比較されてきました。現在の外資ブームでも、幾分その影響が多いことは否めません。しかし外資系が人気である理由は、日本企業への否定以上に、別の理由があります。外資系といった紋切り型の分類ではなく、採用も育成も、国境、年齢、職域を超えてキャリアを創造することが可能になってきたグローバルな企業が存在するということが理由です。

もちろんフロー型採用で外資系にいる人はこの意見に異論もあるかと思われます。また日本企業でマネジメントを学び、外資系に転職した人も異論があると思います。英語で日本的経営を実行しているだけの方もまだ市場に沢山おられます。外資系企業で日本のトップを目指す方と、外資系本社役員を目指す世代の違いです。

一方、日本の組織における中途採用の多くは、今だに採用スペック重視で、キャリアプランについての提示がありません。中途採用という言葉どおり、中途半端な採用といえます。キャリア採用ではなく、キャリアトラックに途中からのるという感じです。

日本の金融機関に移った中途採用の人の多くは、長期的なキャリアを実質的に会社に任せることになり、コミットメントが少ない状態が続きます。結果、プロパーの人達との間に壁を作ってしまい、生産的な雇用関係が長期的には続かないことになってしまいます。

M&Aで中途採用されても、1~2年で地方支店に転勤を命じられたりします。これは会社がその人を不要だというサインだと万人が認識してしまい、結果これらの人は自己都合で退社してしまう事になります。雇用統計に出てこない実質的レイオフと言えます。

それに比べ、外資系ではポジションごとに明確な使命があり、目標管理システムが機能しており、プロフェッショナルとしての適性と、スキルとしての職能を見るだけでなく、使命に対する意欲や、コミットメントが採用時に重視されます。会社に対する忠誠ではなく、同じ使命をもった働く仲間としてのプライドが求められます。

特に金融業界においては、日本市場の変化だけでなく、世界的な経済変化が経営の戦略転換に直結しているため、外資系企業では組織の再設計が敏速に行われます。

先月まで拡大していた部門が、翌月には一気に縮小、撤退となることもあります。そんな時に採用された人は途方にくれるはずですが、実際にはあまり問題にはなっていません。

その理由は、提示されていた報酬が高いことに加え、会社の戦略転換という会社側の都合である場合は、たった1カ月在籍していても、本人に提示していた年間賃金を退職金の意味あいも含めて支払うシステムなどがあることです。加えてそのリエンジニアリングのタイミングは、会社に力がある時期でも行われます。

次に別の観点として、日本の人事部と外資系 Human Resource Management(HRM)の違いを考えてみましょう。

日本企業における人事部と、外資系企業におけるHRMの違いは、組織の中での位置付けと、その役割の違いです。日本の人事部は、エリートとよばれる人々で、会社側の方針、命令を社内に徹底させる権限があり、その採用決定権が及ぶ範囲は職域や階級に係わらずず多岐にわたります。

しかし外資系HRM担当者は、決して全てのポジションに対して採用決定権があるわけではなく、多くは部門ごとで各々の部門のディレクターが採用決定権を持ち、報酬も含めて判断を下します。

もちろんこの場合にも、公平性ということで機能するHRMの役割は大きいのです。

日本企業の場合は、人事役員が部門役員よりも強い力を持つ場合が数多く見受けられます。

知識産業でもある金融サービス、情報サービス、コンサルティング、ハイテク等では、外資系であれ、日本のベンチャー企業であれ、個々の国際性、専門性において、先見性のある、競争優位性をもった人材を資本として採用し、資源として最大活用するダイナミックな構造を目指し、大いなる転換を図っているところのように思われます。

GEなどのコングロマリットでも、ファイナンスの部門の利益が全体の過半数を占めるようになっていますが、同社ではシックスシグマと呼ばれる運動と連動して、世界中で人材の育成に投資し、生産性を向上させています。

ストック型人材すなわち将来の経営幹部として採用された人を対象として、以前にも増して、よりグローバルな意味あいの研修が、盛んに行われるようになってきました。これらは本来、日本企業が得意としてきた人に対する企業方針ではないでしょうか?

人事がキャリアを支配するキャリア観、人的資源をもとにしたキャリア観、人的資本の発想をもったキャリア観、あなたならこの3つの概念のうち、どの概念で自分の人生を設計していくか、今一度考えてみて下さい。

関連情報

  • 「総務庁・統計局」発表、平成11年 2月の完全失業率『4.6%』
    1953年の調査開始以来の最悪水準を更新。失業者は300万人の大台に。
    自己都合の離職者:113万人
    解雇、定年等による非自発的離職者:96万人。
  • 「労働省職業安定局」発表資料、平成11年 2月の有効求人倍率『0.49』
    前月と同水準。有効求人:前月比0.4%増 有効求職者:0.3%増

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)