転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2000年 7月~9月 
2000.07.01

「年功ではなく実績で勝負」~35歳からの展職~

最近、「35歳以上の転職は厳しいという定説があるがそれは本当か」といった雑誌の特集が多いような気がします。しかし、年齢だけでその是非を判断しても意味がないのではないでしょうか。ではどういう35歳以上の方が求められている現状であるのか、採用側、投資家側の声をもとに、今回はちょっと辛口のジョブマーケット情報をお届けします。

最近、少し求人意欲が市場に戻ってきたように思います。ただし戻ってきた求人のスペックは今までになかったような厳しいものとなっています。

人材が流動するということにおいて、まず最初に行動を起こすのは、自分のことを最優先にでき、身軽で身動きが取りやすい個人(スタッフ)であるように一見見えますが、それは逆だと思うのです。資本家やその代理となる人達(ベンチャーキャピタリストたち)や起業家(資本と経営者が動く前に、チャンスと思った市場で自分が勝てると見込み、自己資本、外部資本を使ったり、融資を受けてでも創業する方達)がまず動いて、雇用を生む‘うつわ’とでも呼ぶべきしくみや組織を作り上げ、次に経営者たちがそのしくみを確実にビジネスとしてまわるように奔走し、そして最後にスタッフたちが具体的なポジションを探すために動き出す、ということなのです。

現在、まだ雇用情勢が厳しい理由はどこからくるものなのでしょうか。本来、企業に雇用されている人にとっては、転職は(会社や投資家への説明責任もなく)、自分だけの決定事項であって一番身軽で自由なはずなのに、動きは資本家や経営者たちに遅れています。これはリスクをとりたくないからではなく、リスクをとれない状態になっていることが殆どだからではないでしょうか。養うべき家族を思ってとか、会社や銀行のローンが何年も残っているなどの理由です。

過去に、将来に向けての投資をすることもなく曖昧な予測で行動してしまい、現在も目の前にある問題にかかりきりになってしまって、次の一手を打つことができない。これは、売上至上主義であった官僚的な企業によくみられる旧式思考の経営者に似ています。時価総額の伸びは悪く、しかもこの先まだリストラが心配されるような会社です。未来への投資がなされなかった企業と同じで、過去のキャリアが不良資産となったような個人が35歳以上に多数見受けられることは残念に思います。

35歳が就職の限界と一般的にいわれる傾向がありますが、そうなのではなく、今人材市場で35歳以上の方に多く求められているのは、経営を任せられる能力、素早い意思決定能力、事前にリスクを回避したり、最小限にできる能力、自社と顧客の利益が拡大するための組織を作り出せる人たちであるということなのです。そんな人に対しては、過去にないほど需要が高まっており、需要が供給を何倍も上回っています。

資本を動かす40歳代がどんどん社会にでてきました。企業に雇用されたサラリーマンキャピタリストではなく、世界の資本家、機関投資家などから信任され、資本家の代理としてビジネス活動を始めた本当のキャピタリストが活躍しています。実際に、32歳で50億、45歳で300億、42歳で200億、46歳で200億、48歳で200億、38歳で数千億を任されている方が現在おられます。

彼らの総意として、「自分達と同じ年代以上(45~55歳位)の経営者たちに経営を任せると、戦略の分離や不毛な議論が続き、ビジネスの構築が遅れる。20代をリードし、自ら行動してくれないと困る。株主(メンター)と経営者の役割関係の中で、経営者として育ちたい人に経営を任せチャンスを与えたい。」というコメントをよく聞きます。彼らが、探し出したい起業家、経営を任せられる人(CEOほか)にとって、(もちろん企業の体力によって違いますが)

  • 50名以下の会社を立ち上げるには平均35歳程度
  • 200名~500名規模なら平均45~55歳

といった経営業務経験者が彼らの考えるCEO候補のターゲットとなっています。ところが、「35歳~40歳ですでに企業経営経験をもった人を探すなんて、現在日本の著名企業ではまずいないのだから無理だ」という声が聞こえてきます。だからこそ市場価値が高いのです。 グローバルな外資系日本支社長の年齢が30代から40代であることをまだ多くの日本企業は認めたくないようです。旧式思考の経営者は、外資系の大胆ともいえる組織人事の理念や方針を「外資は外資。日本企業にはあてはまらない。人事や経営方針が違うのだ」と言い切ってしまっています。ですが、旧式発想の経営者、組織人事論の常識に染まった人達を市場はあきらかに拒否しています。

今、弊社に依頼をいただく求人者が求める35歳以上対象のキャリアは、次のようなものがあります。3つ以上自信があり、革新性ある仕事をしたいご希望があれば、ぜひ市場に挑戦してください。「起業」・「展職」いずれにおいてもその成功の可能性は高くなるでしょう。

  • 市場:特定市場についての広く、深い知識、業務経験を持つこと
  • 製品:ビジネス手法・技術のユニークさや斬新な思考で知られた経営者や技術者、あるいは有名な製品や会社を生み出した人
  • セールス・マーケティング:過去に獲得した顧客を持っていかなくとも、新しい仕事場で新規顧客を開拓できる
  • 語学力:特に英語に堪能であり、特定専門分野においてもその語学で業務、交渉が行える
  • 部下からの信頼:自分の出した結果により、部下から信頼される自信がある
  • 上司や顧客からの信頼(レファレンス):自分の成果を評価し、強力に推薦してくれる人物が昔の上司・顧客企業役員・取引先・顧客企業などに3名以上おり、当時あるいは現在の、自分の実際の仕事ぶりをいつでも評価してもらうことができる
  • そのほか世界に通じるものを持っている人:主なキーワードは、国際会計、連結決算、店頭公開・IR、証券アナライズ、企業財務分析、事業開発、資産運用、M&A,MBO,MBI,環境ビジネス開発、バイオ、HR、年金、渉外法務、ビジネス特許、企業投資審査、インターネット、通信、ハイテクの市場や技術を熟知、XML、IPプロトコル、WebDB,など

マネジャー、経営者、戦略的なポジションの求人市場は、新聞などの不特定多数が閲覧するメディア上の求人告知には表れてきませんし、メディアからの情報だけで35歳以上の方に適したキャリアは見つかりません。

もっとたくさんの隠れた市場・潜在市場があるのです。自ら人のネットワークやインターネットを通じて探すことも大切です。35歳以上で必要なこと(実績やネットワーキング、変革に対する意識など)とは何かを未だに認知、理解していないことが、ホワイトカラーの流動性の大問題になっています。

今後「雇ってもらうため」でなく経営者を目指す人にとって必要なことは、「資本家・投資家に理解してもらうための実績を作ることだといえるでしょう。

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)