転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2009年 4月~6月 
2009.04.09

厳しい環境下にある個人の方へ、ささやかな決意表明

外資系企業の第一四半期が終わり、日系大手企業の旧年度も3月で終了しました。例年であれば4月から新たな経営戦略に基づく採用が開始されますが、新卒ならびに中途とも厳しい状況です。転職市場では一般募集(公募)に候補者が殺到している状況で、ますます採用側の基準が高くなったり狭くなったりしています。

人材紹介業全般に目を転じても1割以上の会社が閉鎖されたという話が出てきており、個人で紹介事務所を開業していたところなどは、この時期、継続が難しい情勢です。こんな時こそ我々のような人材紹介会社はより多くの方々をサポートすべきなのですが、ご相談者への助言・相談を全力で行うのみならず、求人案件を開拓・発掘するマーケティングが重要になっています。それをできる会社かどうかが、問われているといえます。

アクシアムでは、できるだけ他社(人材紹介会社やサーチファーム)と異なる非公開の案件を扱い、また、広いセグメントの案件を扱うことでキャンディデイトの方々を支援しようとしています。しかしながら、それらの案件は、どんな人にも開示・案内できるものではないため「現状、アクシアムの顧客企業ネットワークの中では残念ながら案件がない」という現実を不本意ながらお伝えしなくてはならないケースが増えています。

求人が半減した一方で、企業が採用したいと対象にする人(スカウト対象者)とそうでない人の明暗が顕著になっており、より多くの人をサポートしたいと思う弊社キャリアコンサルタントのジレンマとなっています。信じられないほど高いキャリアの実績・実力を持つ方が市場に出てきているのも特徴で、これほど企業にとって優秀な人材の採用が容易な時期は、過去になかったと言っても過言ではありません。

この不景気の中でも積極的に採用活動を行えるのは、明快なビジョンを持ち、好成績を達成する力を備えた組織と経営者です。いまアクシアムは、懸命にこのようなビジョンや力のある採用企業を探し出すマーケティング活動を展開していますが、売り込み型の営業で顧客開拓すればいいというものでもないのが、この業界の難しいところです。ですから、いわゆるプル型マーケティングを行っています。

最近、我々に求人依頼がくるケースで一番多いのは、過去にアクシアムのキャンディデイトであった方々が起業したベンチャー企業、役員となられた外資系企業、プライベートエクイティなどです。ご相談者という立場から、今度はクライアントとして、求人のご依頼いただくことが増えています。各コンサルタントが真摯に行ってきたキャリア支援の成果が、このようにアクシアムの資産となっているのだと痛感します。

冒頭に述べたとおり、転職市場では求人案件が激減し逆に応募者は殺到し、面談が厳しくなっています。意欲・コンピテンス・年齢・年収・タイミングなどのすべての面で、条件に合致することが求められるようになってしまいました。ひとつとして欠けても、転職が叶わない事態がみられます。年収が高すぎでも低すぎても、面談や採用に至らないケースが沢山あります。

くわえて、一昨年「年齢をもって審査をしてはいけない」という新しい仕組みが施行されましたが(筆者はこの考えを当たり前に思いますが)、その実、日本の古典的な年功序列型社会ではかえって運用面での足かせとなり、求人側・求職側の双方の不利益になっている気がしてなりません。

例えば、外資系企業で30歳前後の部長職の人が部下のスタッフを募集しようとする場合 。能力さえあれば何歳でもこだわりなく採用したいと考えても、人事部サイドが逆に「組織としてのバランスが悪くなる」「年齢が高いと入社の数年後に次のポジションを用意しづらい」と実質的な制限をかけてしまうようなことはよく耳にします。Web等で開示されている要求要件には年齢の記載はしていないものの、書類選考の際には大量にやって来るレジュメの確認作業を省力化するため、はじめから35歳以下の応募者の書類にしか目を通さない、というような安易なプロセスを踏んでしまっている企業もあるようです。

そのような現状を踏まえ、個人の方々にお伝えしたい“今”の活動のコツは、以下の3点です。

 

1)『広く』

情報収集のためのアンテナは『広く』張り巡らせておき、可能性がありそうならできるだけ『広く』応募しましょう。もちろん、闇雲に応募しろということではありません。年収についても『広く』探るというのは効果的です。たいていの方は、現状維持から探し始め、機会損失をしてしまいます。活動開始から何週間かが経ってからやっと現実を認識し、現状の7割に下げてもいいからと探すのですが、さらに案件がないので今度は5割で探す…というパターンに陥るケースがよくみられます。これでは無駄な期間が過ぎてしまいます。

極端な話、500万円以上で探しても、面談を進める中で最終的には1000万円で採用に至ることもあります。案件を探し始めるにあたっては、報酬のボトムをもちろん想定しておきつつも、いったんボトムを下げて『広く』探してみることをお勧めします。面談にいたらなければ何も起こりません。私の肌感覚にはなりますが、現在年収が1800万円以上の人はベースサラリーの金額で、1200万円以上の人は800万円以上で、800万円以上の人なら600万円以上で探すというのがよいのではと思います。

2)『深く』

書類選考を通過して面談に進むことになれば、そのとき、『深く』その企業や業界を研究・調査し、対応の準備を徹底的にします。この点は、何時間でもかけてしっかりとすべきです。面談が決まれば集中的に時間、労力を投下する…ここが大切なポイントで、面談に至るまでは面談対策に大幅な時間を投下する必要はありません。よく面談に進めてもいないのに、あれこれ考えて時間を投下するだけして疲れてしまう方がおられます。これでは活動が長続きしません。2次面談、3次面談となれば、さらに準備に時間を投下して、少ないチャンスを失わないよう万全の体制で臨むべきです。

3)『早く』

応募を躊躇することや面談日時の調整の遅れも機会損失につながります。今は、求人案件が発生したとたん、あっというまに採用が決まっていく状況です。自分と相手(採用企業)しかいないのではなく、かならず大量の自分と同質以上の候補者が存在すると想定して活動を進めなくてはなりません。たとえオファーをもらえたとしても、早期に決めなければオファーへの躊躇と受け取られたり、自社が第二希望なのかと不要な勘ぐりを受けてしまいます。

 

とはいえ、第二希望先からオファーがあって回答期限が切られ、他に有力候補者もいると聞かされて入社の回答をしたものの、本命企業から予想もしていなかったオファーが舞い込み困ってしまうこともあるでしょう。このタイミングばかりは非常に難しいのですが、基本的には、なんでも『早く』進めることが大事とお伝えしたいのではなく、『早く』進めるために事前に何をなすべきか、何を考えておくべきか…躊躇して行動が遅れることがないように段取りを組んでおく、大きな計画を持っておくことをお勧めしたいのです。

最後に、ミドル層以上の方々へ。いま就職活動を余儀なくされた場合、35歳未満であればまだまだ一般募集している案件も多く、求人情報をサイトなどで調べることが容易です。しかし35歳以上の方の場合は、求人情報サイトなどの公開情報がまとまっているところばかりを検索するのではなく、一般には求人をしていない会社にも直接問い合わせてみることを推奨したいと思います。ご自身がその企業に貢献できることが明快であれば、それを具体的に、勇気をもって伝えることをしてみてください。サーチファームやハローワークなどを活用する一方で、そのような間接的な応募だけでなく直接アタックするような活動も広げていくぐらいの姿勢が必要になっています。

35歳以上の転職の成功は、採用の合否ではなく、ご自身と企業がマッチするかどうかにかかっています。相手が求めるものと自分が提供できるもの、相手と自分の価値観などを、個人側から「先」に、「明確」に、「具体的」に提示することが突破口に繋がる気がします。公募での採用をしていなくとも、ビジョンと経営力がある会社であれば応募者を受け入れることがあります。

例えば、新規事業を考えていて求人ニーズはあるが、まだ役員会で承認されておらず、求人の要件や募集方法を整理していない段階のような場合。そこにタイミングよく候補者が発生したとしたら、しっかりしたビジョンと経営力を備えた役員なら面談を行うでしょう。このように採用のスコープが明解に定まっていないものの、人材ニーズは顕在化しているという企業は、意外に市場に存在します。

「株主が代わったので新たな幹部が必要」「合弁会社を設立するのでメンバーがほしい」「企業再生をしたいからスペシャリストがいる」「起業したが、なかなか人材が集まらない」「秘密裏に日本支社を設立したい」などの理由が、アクシアムに依頼くださる採用企業の事情として目立ちます。このような求人で求められるものは、公募されるものとは異なります。個別事情に左右されて特殊なことが多く、もちろんリスクもあり、混沌とした市場といえるのかもしれません。だからこそ企業と個人のマッチが重要ですし、逆にチャンスがあるといえます。

混沌を恐れず積極的にチャレンジをしようとする方、自分が先方の組織に入って秩序・成果をもたらすのだという気概を持つ方たちを、これからもアクシアムは全力で応援したいと思います。そのような強みを持った個人を応援することが「日本を担うビジネスリーダーを創出する」という我々のビジョンに適うことだと考えています。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)