転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2009年 1月~3月 
2009.01.15

2015年から2009年を見返してみれば

2008年に続き、さらに転職市場が厳しい状態です。

ファンドや投資銀行を含む金融、製造、コンサルティングなどの業界にかかわらず、外資系企業の日本からの撤退や部門閉鎖、ダウンサイジング決定の話が次々と舞い込んで、昨年12月は厳しいクリスマスシーズンとなりました。そのまま新年を迎え、2009年がスタートした印象です。1998年、そして2002~2003年と、過去にも冷え込んだ時期はありましたが、ここまでではありませんでした。

過去の冷え込み期と比較して大きく変わったと感じるのは、転職市場の競争に耐えうるだけの実績や自信(覚悟)のあるなしに関わらず、また、アラサーやアラフォーなどという造語が話題になりましたが、幅広い年齢層の方が市場に出てきているという点です。また、非常に優秀な人材もマーケットインしています。

個々人が想定している(感じている)よりも極めて現実は厳しく、一つのポジションに多数の有力候補が存在する事態が生じています。求人企業の求める要件は以前に比べて高めになり、ぎりぎり条件を満たす状態では書類選考も通過しません。採用スコープのど真ん中を射止める候補者でないと、面談に進むことができないのが実態です。業界、職種、年齢、年収、意欲、体力、気力、実績、価値観、タイミング(入社可能予定月)など、この全てがフィットするかどうか? が精緻に問われてしまっています。

採用側は妥協なく、コストを下げてより良い人材を獲得しようと動き始めています。多数の候補者が転職市場に出てきているため、これまで難しかった中核人材の採用ですら、高いコストと時間をかける必要がなくなっています。求人数が激減したこと以上に、競合他者の存在が、市場での個々人のコントローラビリティーを危うくしていると感じています。

これは決して、単に能力や経歴の優劣という意味だけでは、じつはありません。

例えば、複数の候補者がいた場合、入社のタイミングが合致しているか否かが最終の決め手となり、採用・不採用が決まってしまうケースも出てきています。企業の採用活動がデジタル化したといわれていますが、大量の候補者のデータを企業が把握・管理し、「入社可能時期」というような要件の一致・不一致で道が分かれてしまうという、個人にとって悩ましい状況が生まれています。(それだけに、個人の決断力も、チャンスをつかめるかどうかのより大きな要因になってきているのかもしれません。)

このような時代のキャリアの戦略的決定に際しては、市場変化に一喜一憂するのではなく、よりいっそう長期の視点が不可欠であると考えています。

2010年の3月ぐらいまでは、市場がどうなるか分からないと筆者は思っています。「景気の底はいつか」という議論では既になく「底が抜けてしまっている」としか言いようがない印象で、底がふさがるのは早くて来年だろうと感じています。ですから底がふさがってから5年後あたりの未来(例えば2015年)に、世界がどうなっているか、自分はその中でどうありたいか、しっかりこの時期に、仮説でもビジョンでも想いでもかまいませんので、それらを持っていることこそが重要だと思います。

これだけの経済的な出来事・変化が生じているわけですから、確かにオファーを手にすることは大変な作業でしょう。しかし、求人数が激減してはいるものの、ゼロになったわけではありません。いま存在する求人をしっかり見つけ出し、現実を直視し、選択することを強く意識していただきたいと思います。

  • 存在しないものをまだ探している人
  • 過去に手にしていたものと同様のものを継続したいと思っている人
  • オファーがあるのに決断できない人
  • リスクを何がなんでも取らないでいる人
  • 目的もなく転職をする(した)人
  • 「○○が嫌だから」などネガティブな要因だけで、それを排除しようとして転職する(した)人

上記のパターンに心当たりがある方は、これだけ不確実性が高まっている世情変化の中で、結果的にリスクの高いものを選ぶことに陥りかねません。想定していなかったリスクが顕在化するか、リターンを見失うかということになりがちである気がします。年収1500万円以上といった高報酬を手にしていた方々にとって、初めてとなるこの局面は、本当に想定以上の厳しさといえます。

いま筆者が驚いているのは、このような状況下にありながら、逆にチャンスや、やりがいをしっかり手にしてキャリアを創っている人に出会う時です。

新聞で倒産なり撤退・縮小なりのニュースを目にして、そのような企業に所属するご相談者が心配になって何年かぶりにご連絡をしたところ「今はこれまでの経験を活かしながら、別の会社で経営を手がけています」というご返信をくださった方がいました。また、「会社を移って5年があっという間にたったが、今の場所で厳しいながらも奮闘しています」「まだ赴任先の海外で頑張っています」「ベンチャーでの経験を活かして企業再生経営を進めています」等の声もありました。

彼らに共通するのは、現在と同様に混沌としていた2002~2003年に、5年後はどうなるかと社会の変化の方向をしっかり押さえつつも、それに振り回されて迎合することなく、自分がどうなりたいか、何ができるか、何ができるようになっていたいか、個としての解を持っていたことだと思います。彼らは、しっかりと5年後の夢、目論見(ときに私も想定しえないような)を当時語っていました。

それらを伺った際には正直「そんなことは難しいかも」と一瞬思った場合もありましたが、それよりも「無理かもしれないが、この人ならやり遂げそうだ」とどこか感じさせるものが、その方にあったと記憶しています。つまり、合理的に考えれば、かなり険しい道。でも何か、やれるかもと期待させるものがあったのです。それを言葉にして語ることは難しいのですが、それはきっと「人としての何か」「確固たる軸」というものなのかもしれません。

2009年、非常に厳しい環境だからこそ、そのような社会変化と同時に、ご自身の変化・変革を見据え、道を切り拓ける人材がきっと出てくると信じています。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)