転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

2011年10月~12月 
2011.10.06

リーダーとフォロアー

震災から半年が経過しましたが、今も復興にむけて日本中が一丸となって努力を続けています。海外からも多数の支援がありました。ここまでの復旧にも時間がかかってしまいましたが、復興に向けてさらなる長期的かつ継続的な取り組みが必要になっています。次世代そしてこれから生まれてくる子孫のためにも、責任ある判断が求められています。決断や行動を遅らせることはできません。

実際の求人の中にも、同じような動きが感じられます。経営人材、マネジメント人材、経営プロフェショナル、マネジメントリーダーなど、言い方は様々ですが、震災前からの「次世代リーダー」に対するニーズの流れは、震災後によりその輪郭がはっきりとしてきました。

次世代リーダーに求められるものとは、『平常時にあってはリスクに備え、有事にあっては不断なく意思決定できる力』、『信念をもって行動に移せる力』、『リーダーシップを発揮できるプロフェッショナル』、『既存の枠組みを捨てて挑戦できるプロアクティブな資質』というような形で表れています。ロジックだけでは足らない時代の到来と言えます。

日本ではロジックで動ける人や誰かの決断を受けて行動できる人、すなわちリーダーの決定をまって行動に移せるフォロアータイプの方は非常に多いのですが、そうしたフォロアーを導けるリーダーやフォロアーに信頼されるリーダーは少なく、またそのリーダーを目指す人も少ないように思われます。さらに言ってしまえば、ビジョンを提示できないリーダーというのも多いと思います。こうした力のあるリーダー不足という状況が社会の閉塞感に繋がっているのでしょう。

一方、このような閉塞感に立ち向かって具体的に活動しているリーダーシップや、イニチアチブをもって行動している人達も若者を中心に増えてきました。社会起業家と呼ばれる人達の台頭、またプロフェショナルと呼ばれる職業経験のある人たちのプロボノと呼ばれる活動、あるいは企業の社会貢献活動の増加がそれです。

この半年で、いろいろな人がまったく新しいキャリアの考え方を示し、行動をとっています。この半年、私がであった人達を紹介しましょう。

  • 大企業を退職し、社会貢献活動のイニチアチブをとり始めた20代
  • 官僚を退職し、人材育成のための塾を始めた30代
  • 海外から帰国して、東北でプロボノでプロジェクトマネジメントに奔走している40代
  • ベンチャー企業の役員を退職し、東北の若手ベンチャー育成や投資を始めた40代
  • コンサルティングの本職を続けながら、プロボノで復興支援を行っている50代
  • 医学部を休学し、社会貢献活動を本格化させた20代
  • 東北から海外に挑戦する農業ベンチャー起業家、30代
  • 海外から日本を支援している社会起業家、50代

これらのリーダーの周辺には、それを支える素晴らしいフォロアーがいます。

リーダーは皆、金銭的理由や単なる営利目的からではなく活動を始めています。中には成功確率が低いことも承知の上で社会が直面する困難な問題の解決に挑戦し、さらには自分のキャリアとして、失敗した時には再就職先がないかもしれないというリスクさえも厭わず、ひたすらビジョンの実現化にむけて突き進んでいます。

アクシアムは、こうしたビジョンを示し行動に移せるリーダー、多くのフォロアーに支持されるリーダーをこれからも支援していきたいと思います。

次世代の経営者、これからの「企業家」や「起業家」にとってのフォロアーとは、時として資本家や投資家であり、時として創業メンバーや社員、あるいは取引先顧客となります。次世代の政治家にとってのフォロアーとは、時として有権者や官僚であり、時として海外の政治家や財界となるのだと思います。フォロアーが大切なのは言うまでもありませんが、今の日本全体を見るに、このフォロアー同士の折衝にあまりに時間をかけすぎているように思えてなりません。

前号で懸念していた完全失業率については、9月現在4.7ポイントと上昇しておらず、2003年や2009年の5.4ポイントという厳しい時にくらべれば、とそれほど酷くない状況です。しかしながら、新卒採用を含めた25歳くらいまでの若手スタッフレベルの人材ニーズの現象や、50歳以上を受け入れる求人が震災後殆どなくなってしまっている状況を見るに、あまり楽観的にもなれません。全体の統計では見えてこない就職事情、今までとは違う厳しさが始まったと感じています。

 

もうひとつ、今回の震災による雇用への影響はそれほど大きくないことは伝えておきます。
以前の98年の日本の年金運用や長銀の破綻、2003年の米アンダーセンの破綻、そして2008年のリーマンブラザーズの破綻の時は、直下型ともいえる大きなインパクトが経済全体に広がり求人市場にも多大な影響を及ぼしましたが、このほどの震災が雇用に与えた悪影響は比較的限定的で、日本全体に及んだと言うことではないと感じています。

しかし、世界経済や金融市場ではまだ危機的な状況を脱したとは言えない不安定な状態が続いて、まだまだ先が見えない状況です。

今年も残すところあと3カ月となりましたが、2012年がどうなるかということだけではなく、本当に50年後や100年後の社会のあり方、さらにもっと先の人類のあり方までを視点に今何をすべきか考える必要がでてきました。
会社やキャリアを選択するにあたっても、そんな長期視点が重要担ってきたと感じます。

人類のためと言うと大袈裟だと笑って済ませる人達もきっとまだ多いことだと思いますが、それを真剣に考える人が増えたことも確かです。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)