転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2012年1月~3月 
2012.01.05

リスクが取れる若手リーダーのチャンスと、リスクを取れない世代のリスク

明けましておめでとうございます。

新年のスタートにあたり、読者の皆さんのキャリア開発に少しでもお役に立てることを願って起稿します。

まずはポジティブな話からお伝えしましょう。

昨年3.11の大震災にもかかわらず、以降も求人は減少することなく増加傾向にあります。日本の社会全体としてみれば、労働市場は比較的好調と言ってよいと思います。

求人が増加している領域のキーワードは、やはりグローバル、リーダーシップ、イノベーション、ソーシャル、インタンジブルといったところでしょうか。

一方で、ネガティブな話もあります。

日本企業のグローバル化が叫ばれているわりに、バイリンガルな優秀な人の採用は進んでいません。大手企業が求めているのは30代の若手だけであり、マネジャー以上のレイヤーについてはほとんど中途採用が行われない状況にあるのです。特に、50歳以上の方を対象とした求人が急激に消えてしまっています。

結局、バイリンガルな30歳以上は以前と変わらず、外資、ベンチャー、中堅企業、再生企業といった企業へ進むこととなります。

 

もう少し詳しくお話します。

リーマン・ショック以降外資系企業の求人数は激減していますが、その代わりにベンチャー企業や中堅企業において、海外展開のための求人などが急激に増加しています。

そうした求人では、30歳未満の若手はもちろんのこと、30代のマネジャー、場合によって40代の役員クラスまで広くニーズがあります。また、「グローバル」というキーワードに、「次世代経営者」や「リーダーシップ」が加わってくることもあります。

これらの求人においては、「不確実で予測不能な未来への対応」、「新市場への挑戦」などがテーマであり、総じて「意思決定力」や「スピード」、「強力な実行のリーダーシップ」などが求められます。過去の経験則が当てはまらず、決まったパターンがない中でリーダーシップを発揮しなくてはいけないため、大手企業の出身者が得意とするような「過去のデータをしっかり分析し、KPIで合理的にマネジメントをする人」とは全く違うタイプの人物が求められます。

求められているのは、過去の資産を運用するのではなく、新しい資産を生み出せる経営人材。皆を導くプレイングマネジャー。反対を受けてもぶれることのない信念を持ったリーダーです。さらには、精神的にタフということだけでなく、若手からも尊敬される人柄までも兼ね備えた人が求められています。それが、40代50代ではなく、30代で求められているのです。

そこには、日本を支えるリーダーの世代交代が起きていることを感じざるを得ません。

20代、30代でのチャレンジは歓迎される時代、一方で40代、50代にとってはチャレンジが受け入れられない苦悩の時代になりつつあります。特に、30代までに大きなチャレンジをした経験がない40代以上は、転職しようと思ってもかなりの苦戦を強いられるでしょう。

大企業で20年務めてきた方が転職に苦労するなど、20年前には考えられなかったことかもしれません。

また、30代までにチャレンジしてきた人でも、転職については成功も失敗も起こります。

例えば、リスクを取って金融業界などに転職し年収も億単位になり名声も得て成功したように見えて、リーマン・ショックで離職し、その後は転職先がなく失速する人もいます。また、転職時に年収を大幅に下げることとなり、一見失敗したように見えても、その後新しいチャレンジの機会を得て、会社の成長とともに役職や報酬を大幅に伸ばし、大きく成功することとなった人もいます。ほかにも、会社を転々として自分が見えなくなってしまい、どうにもうまくいかないという人もいます。

そもそも、こうした30代、40代の方が、今のキャリアが成功なのか失敗なのかを判断するのは難しいでしょう。成功か否か、「今現在」だけでは判断が付かないはずです。

ただ、30代、40代の時点でしっかり成功しているといえる人の大半は、それまでにリスクをとってきた経験のある方が多く、決して目先の報酬や安定を求めずに次の10年に向けてキャリアを投資してきた方であるように思われます。

翻って、そうした自らのキャリアにおいてもリスクをとってきた方こそ、ビジネスにおいても危機管理とチャレンジを怠らず、成功に導くことができるのです。そうした30代、40代こそ新しい時代の経営人材像にほかならず、今後求められる人材といえます。

 

もう一方の、シニア層を対象とした求人の惨状についても詳しく書きます。

前述の通り、震災後、50歳以上の方を対象とした求人がまったくなくなってしまっています。直近の数千件の求人の中でたった3件という惨状です。少なくとも、弊社の受託案件においては、壊滅状態と言っても過言ではありません。

結果、シニア層(50代以上)の転職、再就職は厳しい状況にあります。前職で1億円以上の年収であった人であっても、あるいは社長や役員などの経験者でも、コンサルやスペシャリストなど専門性の高い人でも、エンジニアでもマーケティングでも、PhDやMBAホルダーでも、実績がある人もない人も、総じて厳しい状況にあります。

もちろん、日本中で見て、業種、職種、職位、年収も問わなければ、何らか見つけることができるでしょう。以前から述べているように、年収500万円以下の求人であれば、50代でも60代でもどこか見つかるでしょう。

しかしながら問題は、経営能力をもった実績のある人材であっても、ふさわしい求人がないということです。日系大手企業にも外資大手企業にも、あるいはベンチャー企業にもありません。マネジャー、マネジメント経験者といえども、50歳を超えて転職・就職活動を行うことは非常に困難になってきたということです。

50代以降は、会社を離れても家計を破綻させることなく人生を営む方法を考える必要性が出てきました。大それたベンチャー創業ということでなくても、個人事業やスモールビジネスあるいはNPO団体など、なんらかの事業を興し、その経営ができるようにしなくてはいけないのかもしれません。

 

最後に、蛇足ながら今後の日本経済について。

この少子高齢化の中では、GDPの成長率のアップを期待できず、正社員数の減少が続き、平均年収も減少していくことが危惧されています。おのずと350万円以下の年収レンジで就労せざるを得ない方も増え、国家としても税収入がさらに減少することになってしまうかもしれません。

その中、円高やデフレを恐れる専門家の意見が圧倒的ですが、筆者は、デフレ社会よりもインフレ社会が到来することを真に恐れています。デフレは、忍耐強い日本人社会にとっては対応可能と思われますが、インフレは個人の忍耐や対処では、到底乗り越えられない事態を引き起こすと思うからです。

そのようにならないように、インフレの可能性を排除せず、備えてほしいと思います。

後になって、「インフレなど起きるとは思っていなかった」という言葉は聴きたくないものです。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)