転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2019年4月~6月 
2019.04.04

新元号「令和」時代を迎える、50代への提言

今週、新たな元号「令和」が発表されましたね。江戸末期の元治は2年、慶應はたった4年間でした。明治が45年続き、大正は15年、昭和は64年、平成は31年間続いたということになります。そして新たな「令和」へ。新元号の時代も、長く平和であってほしいものです。

これからの人生100年時代とは、多ければ元号で3~4つの時代を生きることも意味します。新社会人として平成生まれが登場し昭和生まれの人たちが驚いたのと同じように、現在の平成生まれが令和生まれの世代を迎える20年後には、またきっと今とは様々な点で異なる社会になっているのでしょう。

日本は、新年度や新元号を迎えるごとに、“リセットをはかる”ことができるメンタリティーを持っているようです。その性質の良い点としては、それをきっかけとして社会全体の自己肯定感を高められることでしょう。幸福に必要な要素は自己肯定感だとよくいわれますが、「上を向いて歩こう」の精神です。

一方、悪い点としては、過去に起きたことからの学びや改善が曖昧なまま、社会全体が進んでしまうことだと私は思います。変えなければならないとわかっていながら、変わらない。変えられない。日本の社会、制度、会社、個人のいずれにおいても、この傾向があるのではないでしょうか。話し合い、議論はするのですが、決着を見ることなく進んでしまう。そんな感覚を覚えることが少なくないはずです。何事かを自分の頭で考え、決着・決心しないままでも元号は変わり、「新たな時代が来た」という空気は社会を覆います。

さて、前置きが長くなりましたが、今回のコラムでは元号の話を中心にしたいのではありません。平成に続き、「令和」の時代も労働マーケットは売り手市場で大盛況のまま、その幕開けを迎えそうです。しかし数年前から繰り返し本稿でも主張しているように、いつまでも売り手市場というわけにいかないことは、多くの方々が気づいていることです。そのターニングポイントがいつで、何が原因になるかは諸説あるでしょうが、今回述べたいのはリセッションが生じた時にもっとも困る人たちに、先に警告を発したい、ということです。

その対象となるのは、50歳以上(48歳~50歳の方も予備軍かも)で初めて転職をする方です。これまでのキャリアを大企業で築かれていても、中堅や中小、ベンチャーでも、外資系でも日系であっても、です。30年以上ひとつの組織にいて転職を経験したことがない方の多くは、昭和の世代。会社の外をあまりに知らず、昭和の価値観で突っ走ってきたと雇用側からみなされます。キャリアも働き方も、そして組織のリーダーシップの在り方も、その間に何回も転換しています。

会社に起因する理由であれ、個人的理由であれ、初めて社外に出る(マーケットインする)ことは、気分としては、大型の船から飛び降りて大海に飛び込むほどの恐怖があるかもしれません。大きな客船に乗れる人、小さなボートに乗れる人、浮き輪もないまま泳がざるを得ない人……様々な光景が今後繰り広げられることが予想され、大変憂慮しています。

特に高学歴で大企業に入社し、管理職候補としてキャリアを積んできた方で、極めて順調に社内で昇格してきた方、高報酬だった方、いわゆる昭和の時代の総合職であった方が特に警告の対象になります。

昭和の時代であれば、会社を退職後も子会社や取引先に移籍して役員待遇が保証されていたはずが、そのような構造は平成を経てほぼ消え去りつつあります。これからの時代は、自力で、退職後の機会を探さざるを得ないのです。(もちろん、中には30代・40代から万一のことを考えて計画を立て、退職後のプランを走らせている方もいるでしょうが。)

大手企業では45歳前後で、その後も社内で役員や経営者を目指せるかどうかの分かれ道が来るといわれます。その時点で社外に出た人は、以前であれば“負け組”とされました。しかしながらこの20年間のうちに、早く社外に機会を求めて出ることは、必ずしも負け組を意味することではなくなりました。そもそも社内で経営者になれる資質を持つ人は社外でも経営者になれるはずで、むしろ30代などで社外のチャンスに目を向けた人の方が、実際に経営人材になっていらっしゃると体感するほどです。

お叱りを受けることも承知で申し上げると、50歳以上のいわゆる“総合職”の方々には、すでに社外に出るには遅れてしまっている自覚をお持ちいただく必要があると考えます。いたずらに焦る必要はないのですが、「60歳までの残り10年」ではなく、「60歳以降のプラスの10年間」も含めて今後20年間をどうするのか、社会の一員として、改めてキャリアを再構築・再デザインする視点をお持ちいただきたいのです。

これだけの売り手市場であっても、逆に採用側にとってみれば、市場全体の活性化のおかげでこれまでなかなか採用できなかった=市場に簡単に出てこなかった優秀な候補者のマーケットインも期待できるわけで、妥協せずに採用ができます(そのスピード、そして報酬もアップします)。それが売り手市場の特性です。ですから余計に、今までであれば“売れる”はずだったキャリアの資産が、売れないキャリアになってしまう可能性もあるわけです。

大きな変化が来る前に、ただキャリアの再デザインについて考えるだけでなく、社外の可能性を探すだけでもなく、社会の一員として、いま一度「どんな人生を歩みたいのか」を再発見していただきたいと思います。社会が求める人材は具体的にはどのようなものなのか、この数十年のニーズの変化も見据えつつ、ぜひ考えを深めてください。焦ることはありません。ですが考え、行動を起こされることを切に願います。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)