転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2019年1月~3月 
2019.01.10

ベンチャー、起業というキャリア選択について

1925年から1989年まで64年間続いた昭和、そして1989年から2019年までの30年間にわたった平成が間もなく終わりを告げ、いよいよ新たな元号が始まる年を迎えました。

そんな節目となる年頭のコラムを執筆するにあたり、何を書くべきか…様々に去来するものがありましたが、今回は『ベンチャー』と『起業』をキーワードに、思うところを綴ってみたいと思います。

まず概況として、労働市場は相変わらずバブル期に迫る売り手市場で、完全失業率も非常に低い状態にあります。弊社に寄せられる転職のご相談も、過去最多と言っていいほど多い状況です。その中で特徴的なのが、ベンチャー企業からの求人の増加です。実際に、ベンチャー企業に就職・転職する方も多くなってきました。また同時に、単なる転職ではなく「転職か?起業か?」というキャリアのご相談が増えてきた点は特筆すべきことです。

スピード感がより求められる、ベンチャーへの就職・転職

弊社アクシアムでご提供するキャリアコンサルティングは、会社を変わるための転職相談ではなく「長期的なキャリア形成のために、いかにキャリアをデザインするか?」、そして「人生の意義やAspirationといった、ぶれない軸は何か?」を明らかにし、それらに根差した選択をしていただくことを重視し行っています。

最近では、より良いキャリアチャンスを手にするために、そのような長期の視点にしっかり立ちながらも“素早い行動と決断”を行う必要性が増してきました。たしかに売り手市場で求人はたくさんありますが、一方で優秀な人材のマーケットインも活発で、のんびり活動していたのでは魅力的なポジションはあっという間に決まってしまうことが多くなっているからです。

成功する企業、特に成長中のベンチャーの採用は本当にスピーディーです。この傾向は日系だけでなく、外資系のベンチャーでも同様です。「だいたい半年くらいをかけて転職先を探そう」と従来どおり考える人にとっては、2週間ほどで面談・内定・意思決定まで行える人材の出現に、まずスピードで負けてしまい、人生のチャンスを失っているケースが多々見られます。

もちろん、スピード重視の意思決定には落とし穴もあります。特に40代~50代の方に多いのですが、申し分のないタイトルと年収を前に焦りが生じ、本来、入社前にしっかりDue Diligence すべきこと(財務体質、人間関係のチェックなど)が甘くなるケースが見受けられます。これは非常に残念なことです。

キャリアの選択というのは人生をかける先の選定と同義ですから、難しいことですが、スピードと情報収集という2つをうまく両立させ、より良いチャンスを手にしていただきたいものです。そのためにも、経験豊かで信頼できるコンサルタントをパートナーにして、定期的にキャリアについてコミュニケーションをとっておかれることをお薦めします。

「起業」というキャリア選択

私をはじめ弊社のコンサルタントには、いわゆる弊社からの転職紹介以外のキャリアに関するご相談も、じつはあります。転職のタイミングに関するご相談、他のエージェント経由でのオファー内容のご相談をはじめ、人生の進路としての真偽のご相談です。このようなキャリア相談を無償で行ってきたことが、手前味噌ながら、アクシアムへの信頼の土台となっていると考えています。その中には、起業・創業に関するご相談も含まれます。

「転職すべきか、起業すべきか?」
「将来の起業にむけ、いま何をすべきか?」
「起業したが、会社を清算すべきか?清算して転職はできるか?」
「家業を継ぐべきか?」
「家業を継ぐ人がいない、支援先を紹介してほしい」
「起業のためにベンチャーキャピタルを紹介してほしい」
「創業したいが、協同経営者を探してほしい」
「友人から、創業メンバーに参画してほしいと誘われた」
・・・などなど。

もはや転職相談の域を超えていますね。アクシアムでご相談をお受けする人の多くは、転職もできるが、起業もできる優秀な方々です。彼らが起業を口にした時、私はできるだけその背中を押してきました。ただ成功の可能性が低いと自分なりに感じられれば、彼らを押し止めて現職の継続や転職を薦めてきました。今後そのようなご相談は、今まで以上に多くなると感じています。

今年もご相談者の中から、きっと起業というキャリアを選ぶ人が出てくるでしょう。アクシアムの『より多くの人々が展望を伴った職業経歴を実現できるよう継続的支援を提供し、産業社会の活性化に貢献する』というミッションがいよいよ具体化し、単なる転職支援を超えたキャリア開発支援の一つとして、起業支援も含まれるようになってきた気がします。

企業の生存率と、キャリアのリスク

さて、そのように「起業」という場面に様々な形で関わらせていただくことが増えてきたわけですが、「起業」を含め、キャリアのリスクについてのご質問もよく受けます。では、キャリアのリスクを語るうえで皆さんが気にされることの多い「企業の生存率(存続率)」とはそもそもどの程度なのでしょうか?

インターネット上などでよく見られるのは、以下の数字です。
5年後の生存率 15%
10年後の生存率 6.3%
20年後の生存率 0.3%
これらは、その出所が判然としないものです。

中小企業庁が公表している「中小企業白書(2011年度版)」では、
5年後の生存率 82%
10年後の生存率 70%
20年後の生存率 52%
とされています。

◆出典:中小企業白書2011年版全文 コラム第3-1-11図
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h23/h23_1/110803Hakusyo_part3_chap1_web.pdf

また、起業から5年間に限った数字にはなりますが、同じく中小企業庁が公表している「中小企業白書(2017年度版)」では、5年後の生存率は81.7%となっています。

◆出典:中小企業白書2017年版全文 コラム2-1-2②図
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf

白書が調査対象母体としているのは帝国データバンクのCOSMOS2であり、売上1億円未満の比較的小さな会社は含まれず、そのため数字が上ぶれている可能性は十分考えられます。母集団を何に取るか、あるいは何をもって生存した/生存できなかったと定義するかにより、その率は違ってくるのでしょう。しかしながら、先に触れた「ベンチャーの20年後の生存率は0.3%(0.4%という記載も散見)」というのは、私は眉唾だと感じています。

あくまで私のコンサルタントとしての経験(もうキャリア相談をお受けして25年以上が経ちました)からくる類推でしかないものの、その生存率は5年で約半分、10年で25%程度であると考えています。特に1998年以降に創業されたベンチャーにはそれ以前のベンチャーと大きく異なる特徴があり、よく言われている生存率よりも高い割合で生き残りを果たしていると思います。

その特徴とは、MBA保有者や投資銀行、戦略コンサル出身者などを中心に、資本政策や成長戦略を考えられる若手経営陣が増えたこと。VCなどの支援が手厚くなったこと。社会のベンチャーへの理解が進み、ベンチャー企業に就職する人が増えたこと、などです。

様々流布しているこれらの数字を高いと見るか、低いとみるか・・・。ただ、大企業であってもその存続を盲目的には信じられない時代です。どのような道を進もうとも、産業社会の変化、技術や経済の変化が大きいことは胆に銘じるべきでしょう。キャリアの選択として大企業への転職でもベンチャーへの転職でも、あるいは起業であっても、成功と失敗の確率はそれぞれに考えるべきもの。そして、それぞれにリターンとリスクは応分にあります。

ですから、いたずらに「ベンチャーや起業は危険」とのイメージを持つのではなく、その会社ごとのリスクをしっかりと分析した上で、その志や挑戦、ビジネスモデル、金銭的なアップサイドなどの「夢」の実現に人生をかけてみたいか?という想いを大切にしてキャリアの選択をしていただきたいと思います。