転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2020年10月~12月 
2020.10.15

今こそAspirationとCompanyを大切に

前回(7~9月期)のコラムで、国際通貨基金(IMF)の発表では2020年の世界経済の成長率はマイナス4.9%の見込みとなり、各国政府が行う新型コロナウイルスの経済対策の規模が10兆ドル(約1070兆円)を突破したことを取り上げました。一方、経済協力開発機構(OECD)が発表した9月16日付けの「経済見通し中間報告」ではマイナス4.5%となり、2021年は5.0%に回復する見通しとのことです。これは各国政府の経済対策が一定の成果をあげているという期待値をもりこんだシナリオの場合です。

ただ報告書には、G20(金融世界経済に関する首脳会合)のうちプラス成長は1.8%の中国のみで、前例のない景気の落ち込みから完全に回復するには時間がかかるとも記されています。世界は、第二次世界大戦以来の最も深刻な経済不況に直面しています。

だからこそ益々、経済支援を存続可能な企業、今後数十年にわたって必要になるとみられる製品やサービスへ集中させる政策、それらに投資するのを助ける支援が必要です。SDGsへの投資は加速していますし、さらに進めていく必要があるのでしょう。

これまで折に触れて、キャリアについてもSDGs(Sustainable Development Goals)と同じく“Sustainable Career Development”を考えることが重要だとお伝えしました。いまだコロナ禍の中にはありますが、世界は解決すべき課題、目指すべき社会のゴールに向けて少しずつ進んでいます。一方、個々人にとってはどうでしょうか? 皆さんは目指すべきゴールや、解決すべき人生の課題をお持ちですか?

キャリアのゴールを設定している人もいれば、ゴールが見えない人もいるでしょう。今回のコロナの影響でそれを見失ってしまった人もいらっしゃると思います。そんな方は、ゴールではなく“Aspiration”を考えてみることをお薦めします。あるいはご自分の周りにある課題について考えてみてはいかがでしょう。コロナによって新しく生じた課題も沢山あります。そして、それらの課題を解決するための“仲間”を探すことから始めてはどうでしょうか?

じつはこれらの言葉は、この半年間に、多くの方(特にミドル層の方)にお伝えしてきたことです。人生を捧げてきたゴールをいきなり見失うことになった方々にお話してきた内容です。そのような状況に陥ることはとてもつらいことですし、ご自身が何十年も経験してきた業界・職種のことはわかっても、それ以外の業界・職種についてはわからないのも当然です。次のキャリアへの糸口がまったく見えないという思いにとらわれるかもしれません。

そんな時こそ、ご自身の“Aspiration”に立ち戻る、あるいは“Aspiration”につながる課題について考えてみることが大切なのではないでしょうか。そしてその課題を解決するための仲間が集まれば、会社が生まれます。英語で会社は“Company”、つまり仲間なのです。

リモートワークが広がり、いろいろな働き方が提唱され、組織の在り方が改めて議論されるようになりました。一方で医療・介護業、会計や弁護士業、あるいは交通、製造、建築、そして一次産業など、まったくリモートワークに移行できないものが沢山あることがあぶり出されました。いま一度、リモートが可能なものと不可能なもの、デジタル化すべき業務とそうでない業務について、思いを巡らせておく必要に私たちは迫られています。

リモートワークになった人々は、否応なく家庭や生活に仕事が入ってくることになりました。その期間が長くなるにつれ、Work Life BalanceというよりもWork in Lifeという感覚に移行しているように思います。インタビュー(採用面接)もオンラインで行われ、オファーはデジタルなレターとして発行され、入社式はなく自宅で入社日を迎える。そしてオンラインで研修を受け、実務開始後も会社に行くことはなく、自宅で仕事。大学や大学院でも同じようなことが起きています。

SDGs時代には仲間がとても大事になると私は考えていますが、オンラインだけで始まった機能、役割、JOBだけで有効な“Company”は成り立つのでしょうか。まだ答えをもっているわけではありませんが、働くこと、企業経営、人的資源管理などの考え方が、とても大きな転換点を迎えていることだけは間違いありません。長くキャリア構築支援、転職支援の現場に携わってきた者として、それらを注視し、本稿をはじめ様々な機会を捉えて、その変化を皆さんにお伝えしていきたいと思っています。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)