転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2021年1月~3月 
2021.01.07

不安を期待に

あけましておめでとうございます。激動の一年が終わり、新たな年となりました。いまだ世界は2020年の総括をすることができないほどコロナ禍の真っただ中にありますが、新型ワクチンの開発が何社かで成功し、各地で投与が開始されるなど、明るいニュースも聞こえてくるようになってきました。感染拡大を防ぎながら経済を回すという、新しい挑戦局面となる2021年が始まります。

日本の完全失業者数を見てみると、すでに2020年の年始で失業者は約150万人だったわけですが、コロナの問題が起きてからは毎月増加を続け、昨年12月時点で約215万人になっています。ただ今回のコロナの影響は、昨年時点ではリーマンショックの時ほどは急激に失業者を増加させませんでした。

ちなみにリーマンショックが起きた2008年時には、完全失業者数が250万人だったものが、翌年2009年末には350万人にまで増加。そのうち自発的な転職者は100万人程度であり、リーマンショック前も直後もほぼ増減がありません。一方、会社理由でやむなく失業した人、定年退職や契約満了で失業した人が内訳として圧倒的に増加しました。

※参照:独立行政法人労働政策研究・研修機構
「新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響/国内統計:完全失業者数

今回の場合、今から会社理由・早期退職・定年・契約満了などで職を失う人(特に50歳以上で)が急激に増加することを懸念しています。個人的には350万人程度まで、つまりさらに100万人の方が失業するのではと危惧しています。仮にそうだとすると、リーマンショック以上のマイナスの影響があることになり、それがすぐに減少に転じない恐怖がそれに続くことになります。我々アクシアムにご依頼いただくミドル~シニア層の求人はマネジメントあるいはそれに類するポジションが多く、単純にマーケット全体の動きと連動するものではありませんが、いっそうこれらの層の方々へのキャリア支援が重要になると身が引き締まる思いです。

一方、リーマンショックの体感などない20代、30代の人にとっては、キャリアチェンジ、キャリアのシフトが起きているように感じます。総じて40歳以上の方は(私も含め)、どうしても好景気も不景気も、自ら体験した過去に照らして考えがちですが、この若い人たちは過去との比較をすることなく、次の20年、30年を考えています。不確実性が高まり暗い空気が流れがちな現在にあっても、日々キャリア相談で接する彼らは、圧倒的に悲観的な考えよりも楽観的な考えを持つ人が多く、救われる思いです。人生の成功の定義や幸福の定義が変わってきたことを、教えられることも多くなりました。

昨年(11月時点)の企業側の求人状況を示す月間有効求人倍率(季節調整値)は、前月に比べてわずかですが0.02ポイント増加しました。産業別では、建設業などで採用活動を再開する動きがみられたものの、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業などが引き続き低迷。感染の再拡大により求人の冷え込みに底打ち感はいまだありません。地方再生が大きな課題として引き続き注目されていますが、地方経済や雇用の担い手として期待されていた大部分は、製造業ではなくサービス産業であり、その低迷は極めて深刻です。

ただ昨年後半からは、弊社にも、地方のサービス産業の経営管理者などといった求人依頼が寄せられるようになりました。今こそ優秀な人材を確保しようとするグローバル企業、あるいは革新的なテック系やバイオ系のベンチャー、またバイアウトやサーチファンドなどの新しい試みをお手伝いすることも多くなってきました。

様々な不安をぬぐえない日々は、しばらく続くかもしれません。ですが不安よりも期待を多く持って、楽観主義で、この新たな一年を皆さんと乗り越え、過ごしたいと思います。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)