転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2021年4月~6月 
2021.04.01

変化するキャリア観/Z世代・ミレニアル世代

最近、インターネットやTVなどでジェネレーションZ(以下「Z世代」)が取り上げられることが増えました。今回は、このZ世代と呼ばれる26歳以下の年代の人たちを対象としたキャリア相談や、その上のミレニアル世代の方をご支援する中で感じたこと、考えさせられたことについて考察してみたいと思います。

まず、Z世代について説明しておきます。Z世代とは、主に米国で広く用いられている世代別定義です。1981~94年ごろに生まれた人口層(2021年時点で27~40歳)がミレニアル世代、1995年から2010年の間に生まれた人口層(2021年時点で11~26歳)がZ世代と呼ばれることが多いようです(※細かな年代の定義は、各国・各学会等によりまちまちであり、現状では流動的です)。

ミレニアル世代は別名『デジタル・ネイティブ世代』といわれ、Z世代は『ソーシャル・ネイティブ世代』とも呼ばれています。Z世代は、今や世界人口の3分の1を占めており、米国では人口の約25%。日本では1,860万人ほどで、総人口の約15%を占めるといわれています。

2025年には世界の労働人口の約75%がミレニアル世代およびZ世代になる見込みで、日本でもこれらの世代が労働力の約50%を占めることになりそうです。

◆参考:
Worker’s Resort 『日本のミレニアル世代・Z世代が持つ「仕事・働き方」の価値観5つ』
※ミレニアル世代・Z世代のキャリア観について、とても良くまとまっている記事です。

日本では、ゆとり世代と呼ばれる層がちょうどこのミレニアル世代に相当しますが、その特徴は、無理をしない、経験を大切にする、成長の機会を求める意識が強い、といわれています。

2018年にVorkersが行った「世代別の入社理由ランキング」によると、バブル世代は(1)業界・事業内容、(2)会社規模・安定感・知名度、(3)自身の成長・キャリア、(4)会社の強み・将来性、(5)社風・企業文化、という順で入社先を選ぶ傾向がありました。一方、ゆとり世代では、(1)自身の成長・キャリア、(2)業界・事業内容、(3)会社規模・安定感・知名度、④社員・人事担当者、(5)社風・企業文化という結果でした。また、前述の「Worker’s Resort」の記事によると、ミレニアル世代・Z世代は新たな意味での雇用の安定を求めており、「雇用の安定=キャリアアップや成長機会の確保」と捉えているようです。

さて、ここからは私の考察を述べさせていただきます。

弊社アクシアムがキャリア相談をお受けする方の中には、海外で育った方、留学経験者、海外勤務経験者が比較的多く、バイリンガルの方も多くいらっしゃいます。昨年あたりから、そのようないわば“海外経験者”の中でミレニアル世代・Z世代にあたる方、さらにその中の20代の人たちに「柔軟な働き方」「Diversity & Inclusion」「社会問題」といった観点を重視したキャリアデザインを望み、実際にそれに沿ったキャリア選択をする傾向を強く感じるようになりました。その傾向は同じグループの30歳以上の方たちと比較しても、顕著なように思います。

30歳以上の方は、気持ちとしては上記のような観点を重視したいと感じていても、現実に主張することは少ない気がします。ですが20代の人たちでは、「柔軟な働き方」「Diversity & Inclusion」「社会問題」などのキーワードを、明確にキャリア選択の因子に挙げることが増えました。また、漠然と社会問題を挙げるのではなく、仕事を通じて自身が社会とつながっていることをより強く意識し、社会的課題の解決に携わる機会を求めています。転職の際のインタビュー(面接)でも、相手に合わせないといけないような転職先はそもそも選んでおらず、自分のありのままを自分の言葉で伝えようとします。そのような方が増えてきたと感じています。

新型コロナウイルスの問題によって社会の不確実性が高まり、明るい材料が見当たらない状況でも、想定外のことが連続しても、あるいはバブル世代が根っこに抱いているような未来への期待値や夢がないと批判されても、彼らは異に介しません。過剰に楽観的にも悲観的にもなることなく、現実を直視している印象です。

英語をはじめとする外国語で世界中の友人とつながっている若い世代(とりわけZ世代)がもつキャリア観は、明らかに上の世代とは違いますし、日本語のみのZ世代とも随分と異なっているのではないかと思います。日本国内だけのコミュニケーション、情報ソース、ネットワークでは、日本の総人口の15%としての意見や力しか持てません。本来であれば、世界人口の30%を超える力があり、価値観を共有するチャンスが存在するのに、です。日本の若手人材に関し、その点は少し危惧しています。

ちなみに、海外・グローバルといった文脈での求人状況についてお伝えすると、外資系企業の日本支社では、2010年以前のような採用意欲がないように思います。IT産業、ライフサイエンス産業は例外として、それ以外は減少傾向が続いています。一方、日系企業における海外勤務のチャンスは増加しました(勿論、コロナ禍にあって一時スローダウンはしていますが)。大手企業だけでなく、様々な規模の日系企業で海外赴任のチャンスを得る20代・30代の方が増えている印象です。

弊社の顧客である日系大手、ベンチャー、あるいはミッドキャップとよばれる中堅企業においても、グローバルビジネスを展開するところが多く、そのような海外事業関連の求人は多くあります。20代でもチャンスは随分とあります。ただ最近は、求められる英語力のレベルが高まり、また合わせて別のコンピテンスも求められます。例えばかつてはTOEICの点数が600~700点でも海外赴任のチャンスがありました。ですが今は、上の世代で通じた英語力では海外事業担当として採用・派遣されることが難しくなっています。

ただ、勤務地が海外か国内かで、グローバル人材かドメスティック人材かが分かれる時代は、そろそろ終わるとも思っています。今やリモートワークによって東京にいてもアメリカの仕事ができますし、ビジネスプロジェクトや雇用の形態も、大きく変わってきています。この点に関しては、また別の機会に考えをまとめたいと思います。

最後に、昨年から続くコロナ禍の中、思うことがあります。バブル世代以上の年齢層は、ハードやモノにこだわることで豊かな世界を生み出してきました。ミレニアル世代になると、自らが生産と需要の主役になり、ソフトやコトにこだわることで豊かさが得られることに気づきました。それがZ世代になると、豊かさよりも、快適さを求めるようになったのではと思います。

例えば、”食“についてバブル世代以上のマーケティグ担当者は、”食“は文化を越えられないと信じて疑いませんでした。しかしながらZ世代の大半は、世界中でいとも簡単に、単一文化に縛られることなく極めてオープンにふるまいます。と同時に、自分たちの文化に対しても肯定的で、自分や自国の価値観を他人や他国の価値観と対峙させることはありません。そのような彼らを見ていると、多くのことに気づかされます。日本のZ世代が、世界のZ世代とともに国境を越え、人財のDiversity(多様性)をお互いにInclusion(包摂)できる社会、あるいは会社をきっと生み出してくれると感じています。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)