転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2021年10月~12月 
2021.10.07

年齢・世代を超えて、新しい力や考え方を実装する時代の幕開け

雇用情勢が、徐々に好転し始めています。

10月1日に公表された8月の完全失業者数は193万人。前年同月に比べ13万人減り、2カ月連続の減少となっています。コロナ禍によって失業者の増加が続いていましたが、一段落したように見えます。

労働政策研究・研修機構による調査データ(※)で興味深いのは、完全失業者数(四半期、季節調整済、実数)の項目にある「(1)2007年1-3月期(Q1)~2021年4-6月期(Q2)」のグラフと、「(2)リーマンショック(2008年9月)とコロナショック(2020年)の比較」グラフです。

※参考:「新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響/国際比較統計 完全失業者数」
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)

アメリカの完全失業者数は、コロナ前には600万人程度だったものがコロナによって2000万人にまで一気に上昇し、ワクチン接種の普及などにより954万人程度まで減少しました。日本を含むアメリカ以外の各国の完全失業者数には、そこまで大きな変動はないようですが、日本は上昇から減少に転じたように見えます。

2020年のコロナショック時の完全失業者数よりも、2008年のリーマンショック時のそれの方が、各国とも多かったようです。日本でもリーマンショック後の2009年には最大で350万人を記録、コロナ禍の現在は193万人程度となっています。この数字がピークとなるのかまだ先行きは楽観視できませんが、ワクチンや治療薬の開発、経済活動を再開させる様々な工夫が進めば、失業率そのものは減少すると思われます。

実際、求人受託数は弊社でも増加に転じており、このままいけばコロナ前の状況に戻れるのではとの思いがよぎります。ただその内実では、求職者に求められる要件に、大きな変化が起きています。単に年齢の問題やDXの浸透がその理由ではありません。この夏頃から取り沙汰されることが多くなった『リスキリング(Reskilling)』がキーワードになります。

『リスキリング(Reskilling)』とは、経済産業省の定義によると「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」です。職業能力の再開発・再教育といえますが、DX時代にふさわしいITリテラシーを高める、それらに対応する能力を新しい職能として獲得するという意味だけではないと、個人的には感じています。

トップマネジメント(CEO、CFO、COO)人材についても、求められるコンピテンスが変化し、多様化しています。ミドルマネジメントも同様です。さらにいえば、求められるスキルや経験だけではなく、『行動・意識』についても変わってきているように思うのです。つまり「変化を受け入れられない人」ではなく「変化を受け入れられる人」、さらにいえば「変化を起こす人」が求められるようになっています。

企業においても同様で、業績に良い会社は『リスキリング(Reskilling)』を社員に提供することができるため、より一層変化を先導し業績が向上します。業績が悪化している会社は、『リスキリング(Reskilling)』を社員に提供できず、益々業績が悪化していきます。地方企業の多くは後継者が不在といわれていますが、業績の良い会社であっても、オーナーである創業家/経営者/経営陣が自らではガバナンスや戦略を変えられず、外部資本の導入によってのみ変化を起こせる状態に陥っているのかもしれません。

一番の課題は、「自分たちの現状の能力はここまでだ、変えられない」とあきらめていることだと思います。現実直視とは、変えられることはないとあきらめるのでなく、また、変えられないことを列挙するのでもなく、「変えられることは何か」を直視することであると私は思います。そこから始めることで次の一手が見つかり、企業であれば事業開発、個人であればキャリア開発に繋がっていくと思うのです。

現在の状況は多くの人々に様々な形でストレスを与えていますが、この”ストレス”という単語は、ハンガリー系カナダ人の生理学者、ハンス・セリエ博士が生み出し、提唱した概念です。博士はストレッサー(ストレスの原因となる刺激)による生体反応(防御反応のメカニズム)の研究を続けた人物ですが、いくつかの著書の中でこんな言葉を残しています。

「どうしようもないことに悩まず、自分ができることに集中しなさい。ストレスに毒されず、他人の批判に邪魔されず、結果を信じること」
「すべてのストレスは、私たちに傷跡を残していきます。でもそれは同じようなストレスに襲われた時に、今度は私たちを守ってくれる」

いまだコロナ禍にあって、この瞬間にも仕事を奪われている人々がいます。ですが同時に、仕事や雇用を生み出せるリーダーの募集も沢山あります。「Withコロナ」「Withストレス」の時代、私たちには新しい力や考え方を実装することが必要になってきたのかもしれません。今まで役立たなかったものが新しい環境で役に立つこともあるでしょう。もし役立つなら、どんどん伸ばせばいいですし、いらなくなった資質は活かせる場所を探すか、新しい資質を獲得するか、どちらか選べばいいのです。年齢や世代にかかわらず、新しい力、考え方を身に着け、皆さんと共に一歩を踏み出していきたいと思います。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)