転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

2024年5月 
2024.05.09

過去に経験がない「2つの変化」が起きた春

前回のコラムでは、「人的資本経営:Human Capital Management」について2000年代に得た気づきと、そこから20年以上経った現在思う点について述べさせていただきました。今回は、弊社アクシアムの設立から30年を経て感じる“新たな潮目”ともいえる、キャリアマーケットの大きな2つの変化についてお伝えしたいと思います。

◆変化(1)優秀層からの転職相談、キャリア相談が増加
◆変化(2)新たなタイプの求人が台頭/キーワードは「スタートアップ」

優秀層からの転職相談、キャリア相談が増加

この春、自ら転職活動を積極的に行わずともスカウトの声がかかるような層の方から、ご相談を受けることが増えました。セグメントとしては、40代後半~50代の層(仮にシニア人材層と呼びます)と20代~30代前半の層(こちらは若手人材層とします)の2種類に分けられます。

シニア人材層のご相談者の多くは、もともと20代後半~30代の今日まで長きにわたりアクシアムでキャリア相談を重ねてきた方々です。そんな彼ら・彼女らはいま40代~50代をむかえ、代表取締役社長を含むCxOやパートナーなどの重責を担い、年収も数千万円以上になって順調にキャリアを積んでいらっしゃいます。そのような方々の再相談が、最近は目立って増えてきたのです。

私たちアクシアムには上記のように長期で相談を続けてきた方も多く、現在は弊社顧客を含む採用企業の経営陣となっていらっしゃいます。そこが他のサーチファームや人材紹介会社との違いであり、アクシアムならではの特長なのですが、そのような現役マネジメトリーダーと呼ばれる方々が口をそろえて“変化”を感じるとおっしゃいます。様々な経験や見識のある方々とのキャリア相談を通じ、私自身にも多くの気づきがあるわけですが、実績のある方ほど、何歳になっても真摯に市場の変化(取り組んでいらっしゃるビジネス市場の変化、そしてキャリアマーケットの変化という2重の意味で)を知ろうとされていて驚かされます。

一方、若手人材層では、自身のコンピテンスをしっかり持ち、JOB型社会に対応できているタイプ(年収が既に2000万円以上の方も珍しくありません)の方々からのご相談が多い状況です。著名なコンサルティングファーム、商社、投資銀行、大手外資系企業などに在籍し、毎日スカウトメールを山のように受信している方々です。まだまだキャリアを形成中であるものの、優秀さゆえに目の前の選択肢が多く、その中から賢明な選択を行いたいと考えているという特徴をお持ちです。それと同時に、若手ならではの機敏さ・敏感さで“小さな変化”をもキャッチする感性をお持ちのように思います。このように、世代の異なる2つの層の方々が同時期に何らかの変化を感じ、そのご相談が増えていることは興味深い現象です。

いずれにしてもVUCA時代を迎え、賢明な人ほど、年収の額や案件の細かな条件などよりも『キャリア相談』=『ご自身のキャリアについてコンサルタントと対話すること』を重視されています。そうすることで、結果的にキャリアのAspirationがはっきりと浮かび上がり、求人案件のご紹介においてもミスマッチを起こすことなく転職の成功が容易になっていると思います。

それとは逆に、目先の条件面にとらわれすぎてしまったり、焦ってしまったりして転職をする方たちは、シニアであっても若手であっても、キャリア選択の際のリスクが高まる一方だと感じています。

新たなタイプの求人が台頭/キーワードは「スタートアップ」

求人についても、過去になかった事案が生じています。

近年、日本でもスタートアップが多数生まれるようになったといわれていますが、日本は年間2万社、アメリカは200万社(「スタートアップ」の定義にもよりますが)と数では遠く及びません。それでも日本発で世界市場に挑戦し、成長の波に乗るものが増えてきました。30年前に比べれば隔世の感がありますが、今後まだまだ新たなスタートアップが生まれて、10年後には世界でも名が知られる会社が出てくることでしょう。

弊社にはベンチャーキャピタルあるいは起業家の方々から、CxOクラスやリーダーポジションの求人依頼(最近は特にディープテック、ESG関連のベンチャー求人が多いです)をいただくのですが、過去にないほど報酬面が改善されており、その待遇は向上しています。「ベンチャー、特にスタートアップは報酬が期待できない」という過去の常識はもはや当てはまらない、新たなタイプの求人ともいえるものが増えています。

また、東証プライム上場企業から投資先企業であるスタートアップの求人依頼があったり、外資系のディープテックスタートアップから日本支社のGMを採用したいとの依頼があったり、外資系グロースベンチャーから投資先スタートアップの日本支社CFOを探してほしいと要望があったり…と、これまであまりみられなかった種類の求人依頼が舞い込んでいます。

そして、これらの新しいタイプの求人では、特にシニア人材層のご相談者たちが見事にその機会を手にされています。

海外赴任をして海外でトータル20年以上勤務されていた経営経験豊富な50代の方は、「今後は日本に戻って能力を発揮したい」と思われ転職を模索。大企業での海外業務経験がキャリアの中心であり、業界経験も異なっていましたが、あるスタートアップのCEOとしてマッチアップしました。また、40代で外資系の日本代表を務められていた方が、日本のシードベンチャーのCOOとして転職し新たな挑戦をされました。IPOまで10年はかかるといわれて状況を、ほどなく打破。結果としてIPOではなかったものの、大手企業に売却が決定し、マルチプルも想定以上となり、ご自身もIPO以上の2桁億円ものキャピタルゲインを得られたという事案もでてきました。

自己都合の転職タイミング(何らかの理由があり2~3ヵ月のうちに転職しないといけない/転職したい)など、自らが設定した条件にしばられて求人を探すのではなく、本質的に「自分が何をやりたいのか?」という視点にフォーカスして活動をされると、特に良い機会に出会えるように思います。この点は、若手人材層であっても同じです。

以上、この春初めて感じた2つの変化について述べさせていただきましたが、私たちキャリアコンサルタントも過去の経験に胡坐をかいてはいられません。求人者と求職者双方の真に幸福なマッチングを生み出すために、現状と今後のさらなる変化をとらえ、固定的な価値観やバイアスを捨てなければならない時代が来たのだと、ますます強く自覚した次第です。

※本コラムは不定期掲載とさせていただきます。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)