転職コラム注目企業インタビュー

石坂産業株式会社2013.03.14

関越自動車道三芳SAの近くに、石坂産業株式会社という産業廃棄物処理を業にする企業がある。創業47年を迎える同社は、この10年で大きなイノベーションを成し遂げた。経営手法、地域環境への取り組み、産業全体を捉える視野の広さ、いずれも我々がイメージする産廃企業とは大きく異なるもので、その動向に今や日本政府やマスコミ、さらには海外からも注目が集まっている。今日は革新的なプラントや周辺の環境保護地域、現場で働く社員の方々を90分程度視察させていただいた後、石坂産業株式会社の二代目社長の石坂典子氏に話を伺った。 [掲載日:2014/8/7]

石坂産業株式会社

渡邊

石坂産業は、地域環境を重視し、高い技術力や緻密な処理プロセスを有するなど、従来の産業廃棄物処理会社とは一線を画す企業となっておられますが、社長に就任されてからの10年間はどのような思いや取り組みがあったのでしょうか?

石坂氏

石坂産業株式会社産業廃棄物処理事業は、建物の取り壊しで出る、人が要らなくなったものを処分する仕事です。日本が高度経済成長にあった時代、たくさんの廃棄物が排出され、その処理が間に合わずに不適切な処理や不法投棄をする業者がたくさん現れました。その印象が根強く、今でも偏見やマイナスなイメージを持たれがちで、行政からの規制や許認可がこういった一部の不適切な処理によって厳しいものになっていったという経緯もあります。それが故に事業化するのが難しい産業と言われておりますが、それでも世の中に無くてはならない仕事です。

1999年のダイオキシン騒動(※)で、この地域住民からのバッシングを受けたことがきっかけで、石坂産業だけでなく業界そのものをより良い方向へ変えていかないと、将来この産業を背負う人たちはやっていけないだろうと強く感じました。そして石坂産業を改革していくために2002年に父に「社長をやらせてほしい」と申し出たのです。ご存知の通りこの業界は明らかな男性社会で、当然父からも「女性がやるには厳しい業界だぞ」と言われましたが、それでもやらせてほしいと言い、就任することとなりました。

(※)1999年、所沢エリアで高濃度のダイオキシンが検出されたと、あるニュースで特集が組まれたのだが、後日誤報であることが判明。それでもこのあたりの農家や産廃業者が大きな風評被害を受けた。

石坂産業株式会社私なりの改革の構想があり、それを地道にこの10年間積み重ね、築き上げてきた結果が今日に至っています。例えば、私が社長に就任してすぐに本社ビルを建て直しました。私自身がきれいな環境で働きたいと思いましたし、何よりも良い職場環境でこそ私も社員も良い仕事ができると考えたからです。

まだ当時使用できる本社ビルを、労働環境をより良くする目的で建て直すことは、会社としては投資に当たり、間接経費の負担が大きくなることにつながります。元来この業界は投資ということが難しい業界なのです。我々が扱う産業廃棄物は使い古された不要なものなので、廃棄物を出す側としてはなるべく処分費用を安く抑えたいと考えます。そうなると値段勝負となり、ダンピング合戦になってしまいます。「捨てられるか?値段はいくらか?」それだけです。価格が低く抑えられれば当然、資金は増えずに投資にまわせなくなる。これが投資活動が難しい理由です。

こうなると社員が働く環境を整備することもできなくなり、業界全体の成長が見込めないことにつながってしまいます。私は働く環境や風土を整備できない会社・産業には夢を持てなかったので、まず本社ビルを建て直すところから始めたいと強く考えたのです。

石坂産業株式会社私が取り組んで来ている改革の一つに、企業のブランド作りがあります。公園づくりや森の保護などはその一環です。これは自社だけでなく、自分たちの産業全体について世間から正しく理解していただき、業界へのイメージや評価を上げたいという思いからでした。今、環境保全活動を展開している中で、敷地内には公園や池がありますが、近隣住民の憩いの場として喜ばれるようにもなっています。

地域住民に私たちの活動を喜んでいただけるのは本当に嬉しいことです。社員も自信を持つことができます。社員が誇りを持って仕事をしてもらえる会社にしたい、社員の子供が親の仕事に誇りと期待を持てるようなってもらいたい、そして社員が自分達の子供を石坂産業に入社させたい、と思えるような会社にしたい、私が社長になってからの10年間は常にそれを強く意識してきました。

一旦この土地に根ざして事業を興した以上、この地域で必要とされる企業にならねばいけません。より地域環境に優しい施設建設、技術開発、その技術を次世代につなぐための教育・研修というハード・ソフト両面を力強く進めていきます。さらには私たちができることは産廃処理事業だけではないとも考えています。色々と工夫することで、この地域にもっと貢献できますし、会社としての成長も見込めます。そういう意味では非常に将来性のある産業だと思っています。

次なる事業展開については、私の代だけでやる必要はなく、次代の人がそのときの時流に乗って展開できるチャンスがたくさんあるはずです。そのチャンスを得るためにも今、地域の共感、賛同を得られなければならないと考えています。

渡邊

中南米から大使が来たというニュースがありましたが、この地域で出来たことを海外に広げるお考えはありますか?

石坂氏

先日、中南米10カ国の大使が弊社のプラントを見学に来られました。その国々は町を発展させるためのインフラ整備に力を入れていますが、特に発展途上国は産業廃棄物のほとんどが処理されずにただ埋められることになります。これを50年、100年と続けていってはきっとその国々は町を発展させた分だけゴミだらけになってしまうでしょう。そういう意味で、その地域には確かにビジネスチャンスはあるのですが、日本と海外では家屋も法規制も異なるので、同じビジネスモデルをもっていっても同じようなビジネス展開はできません。

石坂産業株式会社また前述のように価格の問題が起こり、埋めるところはいくらでもあるという国もあれば、欧州の様に環境問題に先進的な国もあります。日本と海外ではそれぞれの国々で特性が異なります。従いまして、海外進出と言っても、それぞれ異なったビジネスモデルが必要ですし、進出にかかる投資の回収は容易では無いでしょう。ではどうするか。環境や産業廃棄物に関するマインド教育が大切だと思っています。先日も米国の大学の学生達が見学に訪れ、当社の環境への取組みを理解してもらい、環境アセスメントの重要性を認識してくれたと思っています。この様に、当社の取組みを海外にドンドン発信していき、多くの理解者を得ることを積極的に展開していきたいと思っています。これにより、単なる私企業の事業性の次元ではなく、それぞれの国が国策として取り組んでいく、という動きにつながれば良いと思っています。即ち、我々が海外の国に産廃処理の意義、必要性を提言して、国の政策として廃棄物の処理に積極的になっていただき、さらに国営の機関と弊社とが共同運営するなどの方法が取れれば海外事業の成功確率は上がるでしょう。実は今、海外との円滑なやりとりをするために英語ができる社員の雇用も検討しています。

とはいえ、大企業と異なり、中堅・中小企業は資本が少ないので、海外進出はまさに命がけであり、チャンスと同時に大きなリスクにもなります。海外進出よりもまず優先的にやるべきことは、日本の環境がここまで守られているのは、廃棄物を処理する人がいるからで、そういう人たちの価値を認めていただくことだと思っています。

今、年間に3,000人以上の方が工場見学に来てくださるようになりました。見学に来てくださった方に褒めていただけると社員は自信を持てますし、各々が創意工夫して自発的に考えて動けるようになります。この流れをもっと加速させるためには、もっと多くの人に我々の活動を知っていただく必要があります。国内でまずはしっかりと基盤を作り、地域や社会から正しく理解されるようになる。そうすれば海外からの見学ももっと増え、弊社の産廃処理技術やプロセスが海外に広まるようになります。海外進出はそれからでも遅くないと考えています。

渡邊

石坂産業の経営理念や企業経営をする上で石坂社長が特に重視されている点を教えてください。

石坂氏

私が社長に就任し、会社の改革を始めるときに、創業者である父に企業理念を作って欲しいと頼んだところ、

「 謙虚な心、前向きな姿勢、そして努力と奉仕 」

という言葉をもらいました。これを最初に聞いたときに、企業理念というよりも、人に訴えかけるような言葉という印象を受けたのですが、同時にこれでもかというほど周りのためにやれということなんだ、と身の引き締まる思いをしたことを覚えています。

石坂産業株式会社この理念のおかげで、頭を下げていろいろな人の話をよく聞き、挫折を乗り越え、前向きに取り組むことができました。この10年間この言葉なくしてはやってこられなかったと思っているので、いい言葉をくれたことに感謝しています。今でも何かあると常にこの言葉を思い出して踏ん張っています。この先も多くの苦難があると思いますが、この理念を忘れずに展望を持てる会社にしていきたいですね。

また、先ほども申し上げましたが、この会社を次世代に継いでいくことも私の役割、使命だと思っています。私の後ろに掲げている額に、「永続企業」と書かれていますが、この言葉を選んだのはこの思いからです。

渡邊

一番重視される人として「チームプレーができる方」を挙げておられるようにお見受けしましたが、なぜでしょうか?

石坂氏

端的に申しますと、「会社として最大の成果を出すため」ということになろうかと思います。

通常、産廃業者の中には処理できる廃棄物が単一で、1つしかプラントを保有しないケースもありますが、弊社は混合廃棄物を扱うので、分別し種類別に処理するためのプラントを7つ保有しています。プラントで働いている社員には職人気質な社員もいて、プラント内での仲間意識、縄張り意識が芽生え、過去にはプラント間で対立が起こったこともありました。産業廃棄物は色々と混ざって持ち込まれてくるため、それらを仕分けるチームや分けられたものを処理工程に入れていくチームなどがいますし、どういう風に分類されていくかがそれぞれのチームで共有されないと前工程や後工程間でトラブルになります。でも最終的には石坂産業という1つの会社であって、その中でお互いが尊重・協力しあって利益を出していくことが重要なのです。そうすることで仕事の成果を出しやすくなり、私たちの生活や環境が豊かになるはずです。その意味での「チームワークができる方」です。今では以前に比べて社員がこのことをずいぶん意識して考えて動けるようになってきたと感じています。

渡邊

石坂産業で活躍できる人というのは、社長から見て、どのような特徴、特性があるでしょうか?10年、20年一緒に社長が働きたいと思われる仲間とはどのような方でしょうか?

石坂産業株式会社

石坂氏

いくつかあります。先ほど申したとおり、相手を尊重し協力でき、利己ではなく利他の精神を持って、チームプレー重視や働く意味を考えることができる人。社内イノベーションを起こしていけるような人、まだまだ自分の力を試してみたいと思っている人、自分がやり遂げたんだという達成感を味わいたい人がいいですね。自分のやりたいことが達成されれば、やりがいになり誇りになるはずですから。ただしその人のやりたいことと会社のベクトルを合わせることは大事です。会社が地域のために何をしようとしているのか、会社が成長していくために何をどういう手順でやっていく必要があるのか、という視点を持った上で、自分のやりたいことにチャレンジしてもらいたいです。仮にこれまで確固たる成功体験がなくても、人柄などを見て成功できる可能性があるのであれば、弊社で時間をかけて育てます。

あと重要なのは、現場主義かどうかです。これは面接でしっかりとみさせていただきます。いくら成功体験を有している人でも企画だけやってこられたような人は弊社では通用しません。むしろ現場に対して拒否感が無く、現場作業も厭わない人のほうが力強いと感じます。また弊社は地域の環境作りに力を入れているので環境に関心が高く、共感して志望しましたという方も最近は多いのですが、弊社の事業はあくまで産業廃棄物処理なので、そこを理解していただくことも大事です。

渡邊

会社の利益をあげることと森や公園の建設・整備といった地域貢献活動はともすると相反する関係になるものかと思いますが、その両立について経営者としてどのようなことを意識されているのでしょうか?

石坂氏

地域貢献活動をしているとTV、雑誌、ネットなどの媒体が取り上げてくれるようになり、その媒体を目にした行政が我々の声に耳を傾けてくれるようになります。すると我々は行政にこの産業の意義、抱えている課題、あるべき姿、許認可や法律の緩和などを訴えられるようになるのです。これは大きなチャンスです。

今年の8月には県知事が視察に訪れる予定もあります。これまでは産廃業者に視察に訪れるようなことはなかったのですが、周りが評価してくださると行政としてももっと育てなければいけない会社や産業だと考えてくれるようになります。もしくは、圧倒的なブランドが確立されれば、行政から「共同で廃棄物処理場の運営をしましょう」という話が出てくる可能性もあります。こうなれば許認可すら関係なくなります。

私たちの取引先に大手ハウスメーカーやゼネコンがあります。いずれもブランドを大事にしている会社です。石坂産業の名前や活動が媒体を通じて世に広まることによって「石坂産業は知名度も高いし安心だ。あの会社と付き合おう」となります。こうなると従来の価格競争の世界から脱却できるのです。価格を底上げできれば利益が生まれ、社員が生き生きと働ける環境や次世代の技術開発のために投資できるようになるのです。

※当記事でご紹介している内容は、ご登場頂きました方の所属・役職を含め、掲載当時のものです。

Profile

石坂 典子 氏

代表取締役社長

1971年東京都生まれ。
高校卒業後、米バークレー大学に短期留学。帰国後、父親が創業した石坂産業に入社。2002年に取締役社長に就任。
「脱産廃屋!」を掲げ、先鋭的改革を行う。

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)