転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第34回
2008.02.07

オファーレターのサイン直前で、別の内定が。適切な辞退の仕方とは?

現在、初めての転職活動に奮闘中の28歳です。数ヵ月間の活動の甲斐あって、ある外資系のコンサルティング・ファーム(A社)から内定を頂くことができました。オファーレターが届き、いよいよサインをしようと考えていたのですが、その直前で別のファーム(B社)からも口頭で内定を頂きました。

活動当初、B社が第一の希望であったため、かなり気持ちが揺らいでいます。もう少し時間をかけて考えたいのですが、オファーレターの提出を先延ばししてもらうことはできるのでしょうか? また、いずれかの企業へ辞退の意を伝える場合、注意すべき点などあれば、ぜひアドバイスをお願いします。

Answer

人事業務を長く行っている方、あるいは経営を長く手がけている方が大事にしている言葉に『応対辞令(応待辞令)』という言葉があります。もともと『応対辞令』とは、「戦国策」や「論語」などの中国古典で語られる人間学のテーマのひとつなのですが、インターネットで検索してみると、

  • 人と接する際の言葉づかいや態度の在りよう
  • 人との受け答えが「応対」、その際の言葉づかいが「辞令」
  • 人間関係の対処法
  • 物事に対処する、その仕方

などといった説明がされており、現在では概ね上記のような意味で使われているようです。『応対辞令』とは、相手に応じて判断を行い、適宜対処し、コミュニケートしていく規範を示しているのだと思います。

転職の場面を考えると、会社から個人へのオファーや、それに対する個人から会社への対応において『応対辞令』を意識することが大変重要だといえます。オファーを受けるにしても断るにしても、その受け応え如何によっては、その後、長期に良好な関係を維持できるか/決裂するかにまで影響してしまいます。(例え入社しなくとも、今後ビジネス上で何らか関わりを持つ可能性は十分あります。)

前提の説明が長くなり恐縮ですが、個人から見て、その会社がどのようにオファーをしてくれたのか(『応対辞令』の姿勢で行ってくれたものなのか)、しっかりと理解して判断することが大切だと思います。親身になってくれているなら、それ相当の“真摯な対応”が不可欠です。まして辞退の意思を伝える際には、10なら10をお返しすべきですし、さらに丁重にしたいなら、5に対しても10の対応が必要ということを、まずはご承知おきください。

今回のご相談者の場合、2つの会社に誠意を尽くし、事前に他社面談をしていることを開示していたのであれば『応対辞令』の観点ではフェアーな行為ですので、入社の決心が固まらない旨を正直に申し出てもよいと思います。

それにより、A社があなたに再度アピールする機会を提供すべきでしょう。単に回答期限の延期を依頼するのではなく、ご自分の率直な気持ち・考えを伝えてみることです。その結果、A社の判断として延期が提示されるかもしれません。あるいは、いつでもまた来てくれという回答や、他社を選ぶことへの理解を示してくれることも十分あるでしょう。

ポイントは、フェアーな姿勢で状況や気持ちを誤解のないように伝えることです。きちんと『応対辞令』の規範にかなった行動をとっていれば、説明の仕方次第で様々な解決策を得られる可能性があります。

A社・B社が、これまでどのように配慮をしてくれたか(オファーに至るまで、どのようにケアしてくれたか)も今後を考える根拠になります。誠意を尽くしてくれたのはどちらか? など、色々なことを材料に総合的に判断なさってください。

言葉を尽くすこともなく、単に「回答期限を延期してほしい」と要求するのは、感心できないやり方といえます。最悪のケースとして、過去にこんな方がおられました。回答期限を後らせる要請をある企業に行ったところ、個人としての誠意を疑問視され、またこの段階で自社が第一希望でないことも分かって延期が認められず、結局オファーを断ることに。さらにもう一方の企業からは口頭オファーが出ていたものの、本国の本社で採用の凍結が起こり、結果、両方の機会を失ってしまわれました。

また、ご相談者が一旦はサインをしようと考えたA社から、今になって他へ気持ちが揺らいでいるというあたりが心配です。どのようなキャリアの展望をもって転職を考えたのか、早急に再度しっかりと確認すべきです。その上でした決心でなければ、ご本人にとっても、入社先の企業にとっても、将来あまり好ましい結果は生みません。

とはいえ、そもそものキャリア展望の整理や『応対辞令』の観点での自己確認を、ご自身のみで行うのは難しい点も多いでしょう。そんなときこそ、信頼できるキャリアコンサルタントを持っておき、相談しながら活動を進めて頂きたいものです。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)