転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第62回
2009.04.23

初めての転職。人材紹介(サーチ)会社を使う時、何を知っておくべきでしょうか?

日本の会社で、エンジニアとセールスを経験している28歳です。 はじめての転職を考えています。人材紹介会社にも登録・相談をしようと思っているのですが、転職経験のある友人から、「人材紹介会社に勝手に書類をばら撒かれてとても困った。おまえも気をつけろ。」といわれました。 そのような話を聞くと、人材紹介会社を使うことをためらいます。

個人情報保護が厳しく問われる昨今でも、本当にそのようなことはあるのでしょうか?

また、「勝手に書類をばら撒かれる」ということを避けようと思ったら、どのような事に気をつけたり、注意したりすればいいのか、ぜひアドバイスをお願いします。

Answer

残念ながら、「個人の皆様に無承諾で履歴書等を企業に提出・配布する人材紹介会社(エージェント)がまだ数多く存在する」というのが実態でしょう。 これは、絶対にあってはならない、許されないことです。この業界に携わるものとして大変由々しき事態であると感じておりますし、アクシアムとしても業界団体に継続的に是正を働きかけている問題でもあります。

しかしながら現実には、個人情報保護法の施行など法的な整備が進んでいる中でなお、まだこのような事態が起こってしまっているのです。この事態を踏まえると、更なる法改正や監視強化などの公的な施策に期待するだけでなく、個人の皆様が高い意識を持ち、そのような「悪徳な会社」を皆様自身で選別し、排除していく手段を身につけていただくことが必要といえます。

初めての転職で人材紹介会社への登録もしたことがない方の場合、かなり難しいことであるかとも思いますが、以下にこのような事態が起こってしまっている背景とともに、具体的な対策を例示いたしますのでぜひご活用ください。

なぜ、無断で書類をばら撒くエージェントが後を絶たないのか?

日本では、転職において人材紹介(有料職業紹介)事業者を利用するケースは、まだ全体の1割程度といわれております。それ以外は、何らかの方法(ハローワークなどの無料職業紹介を含む)で知りえた求人企業に個人の方が直接応募をし、転職しているということになります。

実は欧米と比べてこの比率は低いといわれており、その歴史を見ても日本の本格的な人材流動化が進んだこの10年の間にやっとここまで来たという程度のものであるといえます。 つまり、まだ歴史が浅い業界であり、法的な整備や不当な(不法な)行為をする企業への監視や指導も十分行き届いていないということに加え、一般的に人材紹介事業に関する十分な認知がされていないため、業界内における淘汰や選別がされていないことがその背景にあるのです。

しばしば人材紹介と人材派遣との区別がついていない方も見受けられるくらい、一般的な認知がしっかりとなされていない業界です。(人材紹介(有料職業紹介)は「職業安定法」で、人材派遣業は「労働者派遣法」という全く別の法令で定められた許認可事業ですが。)それに加え、最近では紹介予定派遣という新たな形態ができたり、インターネットを活用した求人広告サイトと人材紹介事業の融合されたようなモデルが登場しています。さらに、従来の有料職業紹介とは違い個人の皆様に選別した求人情報を提供することで個人の皆様から費用を課金するモデルも登場したりと、その構造はより複雑化し、区別が付きにくくなってきています。

そのような背景の中、(ここが重要なポイントなのですが、)人材紹介会社と顧客企業との間にある悪しき慣習が残っていて、そのためにこのような事態が起きているのです。それは、・・・

「同じ人物が複数の(別の)紹介会社より紹介された場合、先に紹介(書類を提出)した会社に紹介料の請求権がある。」

さらには、

「仮に今回の求人で採用に至らなくとも、その経緯にかかわらず、おおむね紹介後1年程度は、その後採用に至った場合に紹介料の請求権を主張できる。」

というような、かなりナンセンスなものです。

そもそも、個人の皆様から承諾を得たうえで採用企業に紹介をしているのであれば、複数の紹介事業者から一つの求人に二重・三重で応募してしまうことは起こらないはずなのですが、以前の規制が緩かった時代の名残か、未だにこの慣習が残っています。それ故、(特に今のような不景気になるとなおさら)人材紹介会社は「何より先に書類を提出すること」に血眼となり、承諾なしに動いてしまうのです。

これを聞くと、「やはり人材紹介会社への登録はやめておこう。」と思われるかも知れませんね。 100%、ご自分の職務経歴書や履歴書の無断提出や流出を防ごうと思ったら、人材紹介会社(サーチ会社)を使わないこと。確かにこれしかありません。

しかしながら、一方で多くの人材紹介会社はしっかりとした対応をしています。機密性の高いポジションなどは人材紹介会社経由でしかアクセスできない(一般に公開されていないので自分で探せない)ものが多く、そのような求人を探すのであれば人材紹介会社を使うメリットも大きいですし、一部の「不当な行為を行う会社」に引きずられてそのメリットを捨ててしまうのではなく、しっかりとよい会社を見極めて付き合っていくのが賢明でしょう。

対処方法/悪徳紹介会社の選別方法

ほとんどすべての会社は、『個人情報保護方針』を掲げ、承諾なく外部に情報提出をすることがないと約束しているはずなのですが、それを鵜呑みにして信用しすぎないこと。大きな会社だからとか広告をしばしば見る会社だからなどと安易に信用してしまうのは禁物です。 上記のような背景から、「悪いと知りながらやっているところがある」という理解のもと、念を押すこと。まずはこれが、大事です。 そして、万一そのような事実が発覚したり、疑わしい状況となった場合には、断固たる措置を取ること。 具体的には、以下の方策があげられます。

1)人材紹介会社に対して、「自分の承諾なく、絶対に外部に出すな。」と強く要請し、「そのようなことは起こらないですよね。」としっかり確認する。万一、そのような事実が発覚したら、監督官庁(厚生労働省:ハローワークです)に苦情申し立てをするつもりであることまで言ってもよいかもしれません。

2)信用できない状況では、口頭でしか自分の情報を伝えない。履歴書や職務経歴書など、アナログもデジタルのデータも一切渡さない。

3)万が一、書類を勝手に出されたら(あるいはその疑いを持ったなら)、その会社に一切のデータを消去してもらうよう依頼する。また、勝手に提出された会社に対しても、一切のデータの消去をしてもらうようその紹介会社経由で依頼し、完了した報告も求める。(どうしても応募したい企業であったとしても、それをやり過ごさず、ほかの紹介会社に切り替えたり、その企業への直接応募に切り替えることをしたほうがよいでしょう。)

4)勝手に書類を提出されたことが明らかであり、それにより何らかの問題や機会損失、あるいは実害があったと思うのであれば、迷わずハローワークに苦情申し立てをする。

5)一般にも公開されている求人の場合、そもそも、本当に紹介会社経由で応募すべきなのか、その理由の説明を求める。 それに限らず、少しでも疑問に思うことがあったら、どんどん質問する。 「本当は直接応募したほうが良い。」という場合もありますので、納得のいく説明があるか、本当に自分のために考えてくれているのかという観点で、答えを聞く。

6)「●●さんに会いたいという企業は多数あります。そのような企業があればどんどんアポイントを入れますので日程調整してください。」とか「ご希望にフィットする案件があればどんどん紹介をしておきます。スピード勝負なのでまずはご推薦し、企業とのアポイントが入ったらお知らせします。」などと言ってくる会社は疑ったほうがよいでしょう。

一見、「あなたのため」を装いながら、その実は自社のメリットしか考えていないかもしれません。そんな際は、「書類を出す前に、個別に必ず確認をしてくれ。絶対に個別の承諾なしに書類を出さないでくれ。」と念押ししましょう。

7)他にも、具体的に勧められたA社の求人について、

「同じものをすでに他の紹介会社から案内された。かなり多くの案件の一つで、リストの一つに入っていたが、そちらに紹介をお願いしてしまったかもしれない。後ほど確認しないとわからない。」

とわざと言ってみる。その反応が、

「他社経由で進められているなら、残念ですが仕方ないですね。良い結果になるといいですね。もし、まだそちらで進めていないということであればまたご相談ください。」

というようなものであれば、まずは信頼できます。ところが、

「弊社はA社とのパイプがとても太い。弊社経由で紹介を進めたほうが面接に進む確率は高いし、キーマンに直接プッシュできるので有利。後からでも切り替えられるので、すぐに弊社経由でも応募して、後で切り替えましょう。」

などと言ってきたら要注意です。本来、二重応募は個人の皆様にとってデメリットしかないはずなのですが、それを平気で勧めるということ自体かなり利己的なので、未承諾での書類提出もしかねないといえます。

最後に、良い紹介会社の見極め方法をひとつ。

転職に成功した友人や知人、あるいは採用側として人材紹介会社を使っている人事や経営者などに、どの人材紹介会社が信頼できる良い会社か聞いてみること。これが一番確実かもしれません。

初めての転職をお考えの方には難しいことであるかとも思いますが、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

また、業界団体としては、以下の社団法人があります。 団体のサイトにも活用方法が掲載されていますので、ご参照ください。

社団法人 日本人材紹介事業協会
http://www.jesra.or.jp/

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)