転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第63回
2009.05.14

勤務先のヘッジファンドが昨日撤退となりました。金融のキャリアを継続したいが可能ですか?

昨日、勤務先ヘッジファンドが日本での業務継続が難しいとのことで、突然解雇となってしまいました。退職のパッケージについての提示もなく、「今月末までの給与は出せるが明日から出社しなくて良い」という突然のアナウンスに驚いています。

私はまだ30歳で、またMBAを取得したばかりであり、できれば金融業界でのキャリアを継続したいと希望しています。リーマンショック以降、金融業界での転職はかなり難しくなっているとは思いますが、他方、求人している会社もちらほらあるように聞きますので、何とか金融関連で企業投資にかかわるような求人を紹介してもらえないでしょうか。

現に30代の後半の知り合いのMBAホルダーが、メジャーの投資銀行からメジャーなプライベートエクイティーに転職しているので、私もそのような転職ができるのではと期待します。数少なくともチャンスがあれば、ぜひアプライしたいと思います。

一方、今までは考えていませんでしたが、このまま金融業界でのキャリアを継続して良いのかという根本的な命題についても考えるところがあり、その点についても助言があればあわせてお願いいたします。

Answer

リーマンショック以降、このようなご質問は後を絶ちません。投資銀行のカバレッジ業務、M&A、PE、PI、VCなど、MBA保有者が多数活躍している業界で、これほど大量の人材が同時に転職マーケットに出てきたことは過去にはなかったように思われます。

金融業界は、過去にも80年代、90年代、そして2000年以降と、幾度かの危機に直面しつつも、それを乗り越え発展してきました。各社の組織規模に目を向けても、拡大と縮小を繰り返しながらも、5年単位で見れば一定の割合で増加してきたと言えます。結果的に多数の金融プロが求められるようになりました。

しかしながら、今回ばかりは様子が異なります。過去の幾度の危機を乗り越え金融業界で成功を収めてきた『勝者』と言うべき方でも、業界で生き延びるのが困難になっているのです。実際に、そのような金融のプロとして華々しいキャリアを持つ45歳の方でさえ、解雇から半年経ち、1年を経過してもなお、次の機会を得られずにいたりします。

これら金融業界でのキャリアの継続を希望される方においては、「いずれまた、金融業界の人材需要が回復する」ということが前提条件となっているのですが、少なくても今は厳しいといわざるを得ません。また、「今こそ逆張りで(リスクをとって)金融を選ぶ」とおっしゃり、新たに飛び込んでいく方もいますが、転職した矢先に日本法人が閉鎖、縮小になってしまったという話もしばしば耳にします。

一方、金融業界での転職をいったん断念して、比較的近い領域である財務コンサルティング(アドバイザリー)や事業会社の財務部に転職し、金融業界が復活するまで待機(我慢?)しておくというようなプランはどうでしょうか。一見、金融業界でのキャリアの代替案として現実的であるように思われますが、実はそのような思惑ですら今は実現するのが難しく、転職・就職ができない方が多いのです。それは、すでに求人数の何倍・何十倍もの数の方が金融業界から放出されていて、競争が激化しているからにほかなりません。特に35~45歳のゾーンのポジション争いは熾烈を極めます。

ちなみに、金融業界の求人は、弊社の受託数で見ても昨年比で10%以下になってしまっています。たしかに求人がゼロになったわけではありませんが、今の状況では、専門性、実績、年収、英語力、学歴、職歴、年齢バランス、そしてタイミングなど全ての要件が採用側の要求とFITしていないとマッチングしません。

この状況を見ると、ヘッジファンド、プライベートエクイティー、投資銀行業務、ベンチャーキャピタルなど企業投資を業としていた人達のキャリア形成に大きな転機が到来していると言わざるを得ません。

今の時期を金融業界でサバイバルできる人はより力を蓄えることになるでしょうが、この質問をされた方のようなMBAを取得したばかりの30歳の方など、まだこれから30年近く働くことができるわけですから、金融に固執せず、この機にその長いキャリア(および人生)を改めて構想されたらよいと思います。

特に『報酬』については、今一度しっかりと考えておかれてはいかがでしょう。 投資銀行など金融のプロフェッショナル・キャリアにおいては、大学を卒業したばかりの新卒22歳でさえ年収650万円という高額なレンジからスタートし、30歳ですでに1000万円を大きく超え、MBA取得者などはさらに30代で数千万円、そして億単位という破格な報酬を得ることを皆さん目指されるわけですが、これが本当に妥当なのか?また、そのような高額報酬があり得る特殊なキャリアに、不自然さを感じなくなっていないか。高額報酬を得られる理由は何なのか? などについて今一度考えてみることをお勧めします。

もしも、「報酬にこだわらずキャリアを再構築する」ということになれば、チャンスはあると思われます。

なお、今の求人市場の需要からすれば、30歳以下なら金融での転職はまだ実現可能といえます。ただ、これが35歳程度になると、金融業界でのキャリア継続を希望することはかなりのリスクを伴うと考えるべきでしょう。そして35歳以上の人は、金融業界での転職は困難を極めるというのが現状です。

金融(投資関連)業界のキャリアにおいては、求人市場の局面も売り手市場と買い手市場との間を急激に逆転しますし、キャリアの明暗もはっきりするため、特にリスクが高いものであることを今回ははっきり認識しておくべきだと思います。そもそも他業種よりもはるかに報酬が高いというハイリターンは、リスクの高い業界であるがゆえのものであると肝に銘じましょう。

つらつらと書きましたが、この質問をいただいた30歳の方へは、「金融でのキャリアを継続するにしても、金融以外のキャリアに展開するにしても、現時点で、35歳、40歳あたりの先輩がどうなっているのか、あるいは5年後10年後の金融業界、そして社会全体がどなっているのかなど、自分なりの分析と目論見を持って判断すべき」という回答をさせていただきたいと思います。

また、転職活動を通じて初めて見えてくることもあるでしょう。金融業界でオファーをもらうことができるのか、はたまた金融業界以外でオファーをもらうことができるのか、インタビューを通じてこそ答えを導きだすことが可能になると思います。それがあなたの未来のキャリアを描く現実的なシグナルとなるはずです。

厳しいと思っていたら、あっさり金融でオファーを得ることが出来たという人もいますし、逆に金融にこだわってしまって苦戦に苦戦を重ね、半年以上も職を得られない人もいます。

残念ながら、筆者が「こうすべき」という答えを持っているわけではありません。皆さんご自身が、現実的な求人者とのインタビューを通じ答えをみつけるのです。人と人との出会い、そこで生まれる価値の融合によってこそ、見えてくる答えがあると思います。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)