転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第95回
2010.11.04

「入社の意思を固めないと、オファーレターは出せない。」と企業に言われたのですが…。

外資系大手の企業から「ぜひ採用したい。」と言われ、報酬やポジションタイトルなどの採用条件について口頭で説明を受けました。

最終の意思決定にあたりオファーレターの発行を期待していたのですが、企業側から「入社する決心をしてくれれば、正式な採用通知書、オファーレターを発行する。」と言われました。少し違和感があったので外資系大手に勤める友人に聞いてみたところ、友人は「オファーレターを発行しないで意思決定を迫るのは、外資系らしくない。そんな一方的で高慢な会社はやめておいたほうが良い。外資では日本の企業と違い契約の概念が厳密でフェアだから、口頭の提示だけで意思決定しろとは通常言わず、しっかりと書面に落として確認するのが常だ。後で話が違うとならないよう、オファーレターを発行してもらって、それをもって最終意思決定するべきだ。」と助言してくれました。

そこで、採用通知を書面で発行して欲しいと企業に伝えたところ、企業は「オファーレターは、あくまでも口頭で合意ができた後に正式に書面で雇用契約を交わすという位置づけなので、貴方が入社の意思を固めた旨を表明しないうちは、一方的にオファーレターを出すことはしない。それに、オファーレターを発行すると、信義上、他の候補者の選考を止めなければならなくなる。貴方にはぜひ入社してほしいと思うが、貴方の入社意思が固まらないのであれば他の候補者の選考を継続せざるを得ず、その意味でもオファーレターは意思決定してもらってからの発行としたい。」と拒否されてしまいました。

友人が言うように、この外資系企業は外資らしくない、フェアでない企業なのでしょうか?入社後も、会社側に有利に、フェアでない扱いをされるのではないかと危惧しています。一般的にはどれが普通なのでしょうか?

Answer

ご質問の本質は、オファーレター発行後まで最終意思決定しないほうが良いか、それともオファーレターが無くても概ね腹積もりをして意思決定すべきか、ということであると思います。

決して、外資系ではどういう手続きが一般的かという問題ではありませんね。 実際、企業によって状況や事情、手続きの仕方などは様々であって、一般的にどれが普通というのはありません。

ただ、ご友人がおっしゃるように、以前は多くの外資系企業が、候補者が入社の最終意思決定をする前にオファーレターを発行していました。企業は、候補者がオファーレターに定められた回答期限内で、自社のオファーを他社や現職と比較し、自身のキャリアを熟考して納得した上で、最終的に自社を選択してくれれば良いという考えでオファーレターを発行し、意思決定はその後としていました。

しかしながら昨今は、外資系企業でも「オファーレター発行の前に概ね意思決定はしてほしい」と考えるようになり、プロセスが変ってきました。この流れは、外資系企業が日本的になったということでも、フェアでなくなったということでもないように思われます。 まったく別の以下のような理由から、オファーレター発行前の意思決定を期待するケースが増えたと考えたほうが良いでしょう。


<オファーレターが意思決定前に発行されない理由>

  • 正式な採用通知書、オファーレターを発行した後に候補者がオファーを辞退すると、会社の評判・風評に悪影響が生じる可能性があるため。(多数の候補者がオファーを辞退すると、「あの会社は何か問題があるのでは?」という根拠のない憶測が生じえるので。)
  • 応募数、面談率、内定率、採用率などは、企業の採用担当者の人事評価の指標でもあり、自身の評価を下げないためにも、採用担当者はオファーの辞退率を下げておきたいと考えるため。
  • 口頭であっても、ポジションタイトル/役職、職務内容、職責、年収などの条件が揃っていれば、入社の合意形成を図るのに充分であるため。(候補者がオファーを辞退する本質的な理由は、上記にも述べた、ポジションタイトル/役職、職務内容、職責、年収など、既に提示された条件面によるものであることが多く、オファーレターが発行されないことで案件が破談となるとは考えにくい。合意形成を焦点とするならば、オファーレターの発行は事務的な手続きに過ぎない。)
  • 会長や社長など上級役員による面談を採用プロセスの最終ステップとして形式的に行うが、上級役員面談の後、候補者が断ることは、面談者、および会社の名誉に傷がつくため。また、面談をした役員、採用担当者が、良い候補者を採用できなかったことにより、責任・叱責の対象となるだけでなく、各担当者個人の社内評価を下げてしまうことにもなるため、候補者に最終面談前に意思決定をしてもらいたいと考える。
  • オファーレターとして書面にしてしまうと回答猶予期限が定められ、例えば、1週間の回答猶予期限では、候補者がオファーを熟考できないまま、辞退の意思決定をしてしまう可能性があるため。書面に落とさず口頭オファーに留めておくことで、候補者が1週間以上の猶予期間をもってオファーをしっかりと検討して、確かな、納得のいく意志決定を下せるようにする。

企業としては、オファーレター発行前であれば、仮に候補者が辞退したとしても、口頭オファーの段階なので、オファーレターを発行する手間が省け、正式なオファーレター発行後の辞退によってもたらされるだろう会社に対する悪影響も回避することができます。言い換えれば、オファーを受ける人だけにオファーレターを発行したいのです。

 

お分かりにように、これらの理由は、企業側のリスクマネジメントや業務の効率化などがその背景にあるのですが、本件で考えるべきポイントは、冒頭に申し上げたとおり、外資なのか日系なのか、オファーレターが発行されるシステムなのか否か、口頭とオファーレターのどちらが良いかなどではなく、口頭であっても書面であっても、ご自身が、提示されたオファーをしっかりと理解し受け止め、キャリアを今一度深く考え、本質的に価値判断をして、最終意思決定ができるかどうかです。ご自身にとって、本当に腹落ちする、納得のいく、確かな意思決定ができることを願っています。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)