イベント海外セミナー

CAREER DESIGN SEMINAR in USA Autumn 20172017.11.09

今年は春の欧州ビジネススクール訪問に続き、10月後半の約2週間をかけ、New York、Boston、Philadelphia、Chicago、San Franciscoを訪問し、セミナーと個別相談を目的とした全米ツアーを行いました。また初めての試みとして、San FranciscoのPalo AltoではStanford、Haasの2校のMBA在校生とシリコンバレーで活躍するMBA卒業生の相互の交流を目的としたイベントを開催。ビジネススクール訪問のレポートとイベントの所感を、併せて記したいと思います。

今回の訪問では、約70名の在校生と約30名の卒業生、合計約100名のMBA諸氏にお会いし、たくさんの刺激と気付きをもらいました。訪問校は訪問順にNYU(Stern)、Columbia、MIT(Sloan)、Harvard、Pennsylvania(Wharton)、Chicago(Booth)、Northwestern(Kellogg)、Stanford、Berkeley(Haas) の9校。セミナーや個別相談にはHult、BabsonのMBAも方も来てくださり、あわせて約70名の方々に参加していただけました。

Palo Altoのイベントには前述のとおり、Stanford、Berkeley(Haas)のMBAの方をはじめ、卒業生もご招待しました。結果的に約60名の参加者の出身校、卒業年次、キャリア、業界はそれぞれまったく異なり、大変刺激的なイベントとなり、大いに盛り上がりました。

(1)MBA留学生の推移

毎年、弊社アクシアムで調査している『海外MBA留学生数の推移』。詳しくはその結果がまとまる12月まで待つ必要がありますが、今回訪れたいわゆるトップスクールといわれる各校の動向は、総じて減少傾向にありました。2018年の卒業生は71名(私費30名、派遣41名)で前年に比べ増加に転じていたものの、2019年の卒業生は59名(私費24名、派遣35名)と再び減じてしまいました。今回減ってしまった留学生の内訳は私費留学生が6名、企業派遣生が6名でした。ただ9校中6校で学生数が減少、1校で横ばいの中、Chicago(Booth)が1名から8名に、Stanfordが3名から5名に増加していた点は際立っており、2校だけとはいえ嬉しく思いました。

各校の増減、とりわけ私費留学生の減少について現地の学生諸子にヒアリングしディスカッションを持ちましたが、明快な理由には至りませんでした。強いて言うなら、長く低迷する日本の社会・経済の情勢下で、20代~30代前半の私費留学生が、これまで通りにトップスクールの費用を準備することが難しくなっているのかもしれません。しかしながら、それでも奨学金を獲得し、あるいは借金をして留学している学生はおり、立派というしかありません。

ちなみにいわゆるトップスクールの日本人留学生数を、10年・20年の単位でみると、じつはその数は激減しています。30年ほど前には200名を超えていたものが、2009年には半減。さらにこの10年で私費、企業派遣生ともにさらにそこから半減し、2019年卒の学生数は私費20名、企業派遣36名の 合計56名になっています。欧州への留学やトップスクール以外の学校への留学が増えたとはいえ、総数そのものが大きく減少傾向にあることは残念ながら否めません。

参考:「日本からのMBA留学生数の推移」
https://www.axiom.co.jp/mba/table
https://www.axiom.co.jp/mba/table/table001

(2)多様化と海外志向の高まり

昨年のツアーでも感じたことですが、留学が「目的達成型」から「可能性探究型」に変わってきており、MBA留学前に積んでこられた経験もじつにバラエティに富んできました。今年はその傾向が、さらに強まっている気がします。

卒業後の進路として、やはり投資銀行や戦略コンサルに対する人気が高いものの、すべてのMBAがそれらに憧れ、留学後のキャリアとして目指した20年前とは大きく異なっています。「自分の可能性を知りたい」「自分の可能性を広げたい」と考える人が多くなり、卒業後に海外勤務を志向する人が増加した印象です。海外育ちのバイリンガル人材はもちろん、努力して英語力を鍛えたドメスティックな人材にも、海外勤務を希望する人が増えており、アメリカや欧州など先進国にこだわる人、アフリカやアジア、途上国での勤務を希望する人もおられました。このような留学生の志向の多様化の原因には、社会、特に日本社会がもつUniformityに対する息苦しさと、それを打破したいという思いがあるのかもしれません。

ちなみに今回、外国籍(日米以外の国籍の方)で日本語が堪能な数名のMBA留学生ともキャリア相談を行いましたが、彼らは一様に日本勤務を強く希望していました。その理由は、ずばり生活の安全とキャリアの安定です。彼らからみれば、日本でのキャリアは日系・外資系に関わらずリスクが低い点が魅力とのこと。また、アメリカではトランプ政権となり、外国籍のMBA生は企業のインタビューに呼ばれなくなったという噂が広まっていました。採用後のVISAの問題、つまり外国籍の人材が強制帰国させられるリスクが敬遠されているからだとのことでした(この点は日本人も同じく対象です)。

彼らの中で、長く働けることやキャリアの安定がテーマとなっているのは、やはり政治、技術などの激しい外部環境の変化の影響に思えます。また日本人でも外国籍の方でも、「家族思い」「友人思い」というのがひとつのキーワードでした。がむしゃらなキャリアの成功を目指していると言葉に出さない(出せないのかもしれませんが)人が多かったのも特徴的です。そのかわりなのか、「ソーシャルインパクト」というキーワードは多くの人の口から聞きました。その言葉の対象は、日本の場合も世界の場合もありました。

(3)売り手市場における就職活動、転職活動の違い

卒業後のキャリア(進路)を求める活動は、私費留学生では就職活動、企業派遣生では転職活動になります。同じMBA留学といえども、この違いは考慮すべきです。これらの活動は今まで同じようなフレームで議論されてきましたが、これからはもう少しハイライトされるべきポイントになると思われます。その理由は、かなりの数の企業派遣生が、2017年卒あたりから帰任せずに転職に踏み切ったことで、2018年卒以降の派遣生に対して、派遣元企業においてかなりの警戒が行われる可能性があるからです。

売手市場であることが何よりも派遣生の転職を後押ししていますが、一方で転職活動を経てオファーを獲得したものの、派遣元のキャリアをいま一度自ら積極的に選ぶという人も出てきました。これも「可能性探究型」の留学が強まっている一例といえます。20年前には「会社から留学しろと言われたから留学した」という人が多数いましたが、昨今、そのような派遣生は見られません。キャリアに対する考え方が多様化してきた表れでしょう。

30年以上MBA留学生、MBAホルダーに接してきた私としては、非常に喜ばしいことだと思います。自らの市場価値を実際のキャリアマーケットにさらしてみれば、自己認識は確実に高まります。実際の転職活動の中で、採用(GO)も不採用(NG)もそれぞれ多数出てきます。自分を知ること、それは内省的な自己分析や性格テスト、知識の試験によるものだけではありません。立派な学業の成績だけではなく、採用側の求めるキャリアに対する価値観、人生に対する考え方までもが問われるからです。まさに企業や社会が、これからの時代にどのような人材を必要としているのか、自分の眼と耳を通じて知れるのがインタビューの価値なのです。

一方、私費留学生には戻るところがないかわりに、留学費用の返済という経済的な障壁がなく、彼らはどんどんアタックをかけていきます。当然多数のNGを貰いますが、それが自分を見直す機会となり、個人を鍛えることにつながっています。最終的には複数のGOを獲得し、さらにその中からキャリアを自分で選ぶことができます。そのように動いた学生は、自分の考え方を変え、自分の心からやり遂げたいものやキャリアに巡り合う確率が高まっています。

私費留学生に比べ、企業派遣生の場合は、派遣元への留学資金の返済ができる先(報酬が高い企業)しか選べない/選ばない、多数の応募ができない、サマーインターンが禁止されている、派遣元に活動を知られないようにしなければならない、など私費留学生とは異なる制約の中で、キャリアを考えたり設計したりする必要があります。私費留学生の就職活動、派遣生の転職活動、いずれにしても個としての展望をしっかり見つけてもらいたいものです。

(4)自分で決める力、経営者の第一歩

私費・企業派遣にかかわらず、将来経営者を目指す人がトップスクールでは増えていますが、プロの経営者、特に世界市場を相手に経営するプロの経営者が少ない日本では、これは極めて好ましいことです。過熱気味とも言える売手市場では、例年より早く、すでに一部の企業からはオファーが出ていました。オファー期限の設定も1か月程度前倒しになり、回答期限が迫っている人もおられました。多数のオファーとNGの中で、個人が人生のオーナー、株主として、そして人生の経営者として、意思決定を迫られています。今までも、このような選択に成功した人がプロの経営者になってきました。さらに付け加えれば、売手市場でも買手市場でも、現在プロの経営者として活躍する先輩の共通点は、「Post MBAとして選択したキャリアで逃げずに成功させた人」また「一度失敗しても再チャレンジして成功に導いた人」という点でした。

いつ売手市場から買手市場に急激に変化するかもしれない情勢下において、「自分で決める力」とは、情報収集力はもちろん、逃げ出さずに運命を受け入れる力、変化に対応する力であると思います。そして急激な変化が起こる現在のような時代にこそ、それらの力が重要です。企業をマネジメントすることと、キャリアをマネジメントすることには共通点がたくさんあります。法人という人格は時間の制限がもはやない永遠を目指す性格のものかもしれませんが、人生は有限。結果的にしっかり自分の哲学、価値観を持っている人、キャリアの豊富な資産を保有している人、そして「自分で決める力」を持つ人が強いのです。

(5)番外編:『Palo Alto MBA Night at Jin Sho』レポート

Palo AltoでStanford、Haasの2校のMBA在校生とシリコンバレーで活躍するMBA卒業生の相互の交流を目的として開催した今回のイベント。シリコンバレー在住の起業家3名と私が共同で主催したのですが、ご協力いただいた3名の方の当地での人的ネットワークは大変なものでした。定員を超える申し込みがあり、参加できなかった方々からは「また開催してほしい」という声も数多くいただきました。

会場として選んだPalo Altoにある「Jin Sho (陣匠))は、Steve Jobsが愛した店としても有名で、Mark Zuckerbergなど著名な起業家たちも訪れる美味しい寿司と和食の名店です。10月某日の夕刻、会場では食事と飲み物を楽しみながら、世代も学校も業界も超えた交流会が行われました。

会の冒頭にスポンサーからの簡単な挨拶があった後は、皆さんもう最後まで延々(勝手に!)心ゆくまで談笑を楽しんでいただけたようです。誰ひとり、壁の花などおられません。自発性・積極性がなければ、この地では生き残れないことの表れなのでしょう。しかしながら、皆さん話すばかりなのではなく、しっかり相手の話も聞く姿勢であったのが印象的でした。数名程度のサークルになってディスカッションし、時折そのメンバーが入れ替わり、ごく抑えた声のボリュームで、ただし議論の内容は熱く、楽しい。学生・卒業生ともに、その洗練された立ち居振る舞いには感銘を受けました。

また今回、現役MBA学生に対して、先輩たるMBA卒業生が助言をするという建付けだったのですが、逆に現役生から学んだり、刺激を受けたりしたようです。会の様子を紹介した私の当日のSNS投稿を見た他地域のMBA生からは、シリコンバレー以外でもやってくれ、という声もいただき、大変嬉しく思いました。(この件に関しては、また検討してみます。)

今回参加してくださった当地で活躍中のMBA卒業生には、ベンチャー企業勤務、ベンチャーキャピタリスト、コンサルタント、日系企業のシリコンバレー支社勤務など様々なキャリアの方がおられましたが、一番多かったのは起業家かもしれません。就職や転職ではなく、起業という選択を取ることができるのも、今の時代のMBAの特徴と言えるでしょう。シリコンバレーで起業する日本人MBAは過去にも存在しましたが、これからはボストンなども含め多くの地で起業する人材がもっと増えるのではと感じました。

スポンサー一覧

松田憲幸氏 ソースネクスト株式会社 代表取締役社長
古賀洋吉氏 Drivemode, Inc. CEO & Chief Product Designer、HBS MBA
伊佐山元氏 Wil, LLC. General Partner & CEO, Stanford MBA
渡邊光章 株式会社アクシアム 代表取締役

参加者出身校一覧 ABC順

Carnegie Mellon University (Tepper)
Dartmouth College (Tuck)
Graduate School of Management, GLOBIS University
Henley Management College
Harvard University
Massachusetts Institute of Technology (Sloan)
Northwestern University (Kellogg)
Stanford University
University of California-Berkeley (Haas)
University of California—Irvine
University of Chicago (Booth)
University of Michigan (Ross)
Waseda University

最後に、改めてセミナー、個別相談、懇親会にご参加いただいた皆さん、そして『Palo Alto MBA Night at Jin Sho』に集まっていただいた皆さん、ありがとうございました。

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)

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