転職コラムキャリアに効く一冊

キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。

2011年5月

運命を創る 人間学講話
安岡 正篤(著)

本書に出会ったのは1986年、日本がプラザ合意後の円高ドル安の中、本格的な国際化に向かい始めた時期だった。戦後の驚異的な高度経済成長を成し遂げた日本は、当時ジャパン・アズ・ナンバーワンと称されていたものの、急激な円高で製造業を中心とした輸出産業は大きな打撃を受け、工場の海外移転が進み始めていた。国際化の波にさらされ、新たな試練に向かわざるをえなくなった日本の将来を考えた時、20代であった私は自分のあまりにも小さき事を憂いていた。

そんな時、タイトルに惹かれて思わず手にしたのが本書である。

その後の日本は、金融市場の国際化にも成功し、世界中から集まったマネーにより不動産と株は高騰。空前の好景気を迎え、世界中の企業や不動産を買いあさり、国際化に成功したかに見えた。しかしながら、ほどなくバブル経済は崩壊した。

戦争や天災だけではなく、経済や政治などの社会や歴史を考えれば考えるほど、その問題の大きさに比べ自分があまりに小さい存在であることを痛感するとともに、「自分などが何をしても社会や歴史を変えることなどできないのだ」と思えてしまう時期がある。

しかし、この書に出会い、そしてその後も安岡正篤の書を多く読んでゆくにつれ、「社会を変えるには、自分を変えることである」と気付かされることになる。

特にこの書は、社会的に大きな問題が起きるたびに紐解くことにしていて、バブル経済の崩壊、ベルリンの壁崩壊、日本の金融危機、ネットベンチャーの終焉、リーマンショックといった事件の後、必ず読み返している。

社会が大きく変わる時、多くの人は元通りになりたいと願うのかもしれない。しかしながら、戻ることを希望せず、変化を受け入れることもできるはずだ。

変化が大きければ大きいほど自分を見つめる良い機会となり、自分を見つめれば自分を変えることもできるし、また逆に、外部の変化に影響されず自分を保つことも可能となる。

どんな人でも人生の壁にぶつかること、自分だけではどうしようもない問題や思ったとおりに行かないことにつきあたることが幾度となくあるだろう。そんな時に、この書は不思議な効果をもたらしてくれる。

安岡正篤を師と仰ぐ人は多いが、その言葉は生涯をかけて学んだとしてもたどり着くことができない高みにある。書としては他に「経営?言」「王陽明の研究」なども有名であるが、講話を主体とした本書や「活学」などが読みやすい。

人生の一原則としての「六中観」や「人生の五計」などは、常に自分の生き方を磨く言葉となる。社会が病んでいる時、問題を抱えている時にこそ自分の在り方を見つめ、学ぶ機会としたい。あえて解説はつけないが、キャリアを深く考えるときにこそ是非一読していただきたい書である。

「六中観」
忙中閑あり
苦中楽あり
死中活あり
壷中天あり
意中人あり

「人生の五計」
生計
身計
家計
老計
死計
運命を創る 人間学講話 出版社:プレジデント社
著者:安岡 正篤(著)