転職コラムキャリアに効く一冊

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2014年1月

僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。
出雲 充(著)

2005年8月に創業された「ユーグレナ」は、2012年12 月にマザーズに上場し、上場後の1年で企業価値は10倍以上にもなったと言われています。

私が最初に「ユーグレナ」の名前を知ったのは2009年前後だったと思いますが、その時は「ミドリムシの学名を社名につける東大のベンチャーがある」というぐらいにしか思っておらず、ネットビジネスでも会社名をアマゾンとするように、きっとそのような感じで、洒落でつけた名前でスマホやネット系のビジネスだと思いこんでいました。ミドリムシをビジネスに繋げるということは何十年前から言われていたことですが、農学部出身の私ですら、本当にビジネス化するとは全く思っていませんでした。

なので、店頭公開にあわせて出版された本書を読んで感動や共感という軽いものではなく、まさに衝撃を受けました。

食糧問題の解決、エネルギー問題の解決、地球温暖化防止、宇宙開発への架け橋など、どれをとっても壮大なビジョンに向かって本気で取り組んでいる点、私が学生時代から憧れていたバイオベンチャーである点、しかも日本発であることもあわせて、まさにこれこそイノベーションと思わずにいられませんでした。

本書を読んでみると、理工系出身者、研究員の人達が、あらためて、決心とはどれほどのことを示すのか、普通の人が諦めてしまうことをなぜ諦めないでやり遂げることができたのか、出雲さんの人生のドラマを見ることができると思います。

本書を読んだ起業家の卵が、「ユーグレナや出雲社長の成功は出会った人との縁や幸運で構成されたもの。とてもではないが、こんな苦労をして成功できるかどうか分からないベンチャーは、自分には無理だ」と断念するかもしれませんし、それが自然な事かも知れません。

ミドリムシの養殖が不可能だと思われてきたにもかかわらず、それを可能にするまでの苦難の道、成果がでるかどうか誰も答えを持たない中で、出雲さんが追求、実践し、最後にそれを成し遂げたのは一重に出雲さんの「意志の力」と言えるでしょう。出雲さんは開発の段階でも、そして上場後、今も成長企業のトップとして常に挑戦する限り、失敗を恐れていないはずはありません。でも失敗を恐れるのではなく、「成功のために行動すべきことを選択した」からこそ、成功も失敗も乗り越えられると言う事だと思います。


「くだらないものなんて、ない」

これが出雲さんの本書で伝えたいことでありますが、大学時代の活動や銀行時代にはご自身でもリーダーシップがあったほうでないはずなのに、その後、ユーグレナを始めるとなったとたん、リーダーとなる前の経験がリーダーとなってから役立ってくる。自ら行動することで信頼を得る。

このシンプルなポイントは、いくら本で概念論を読んでもわからないですが、出雲さんが明かしてくれる経歴にそれが非常に分かりやすく語られています。最初からリーダーとして生まれるとか、権威のある人だけが、ベンチャーで成功、起業するわけではないということです。

大阪府立大学農学部の教授の協力を得る件などは、私の母校でもあるので、個人的には少々、誇らしく思いました。

本書を読んだ若者が、「起業のリアル」を感じて起業を断念するかもしれません。でもたった一割の読者が「自分もできるように思う」と感じ、さらにその一割だけでも「本当に起業したい」と心の底で小さな火をつけてくれるのではないかと密かに期待してしまいました。

僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。 出版社:ダイヤモンド社
著者:出雲 充(著)