転職コラムキャリアに効く一冊

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2014年2月

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
リンダ・グラットン(著),池村 千秋 (翻訳)

ロンドンビジネススクール教授で教鞭をとる経営組織論の世界的権威が、自身の17歳と15歳の息子達から「ジャーナリストになりたい」「お医者さんになりたい」と言われた一人の母として、「働き方」のプロが、いざ自分の子供に何を伝えるべきかを改めて考えるところから始まります。

「漫然と迎える未来」をとるか「主体的に築く未来」をとるか。信念をもって選べば、未来は選べるというのが著者の主張です。既定概念となっているゼネラリスト的な技能を選ぶ事を考え直すべきだと警鐘を鳴らす著者は、「職業生活とキャリアを成功させる土台が個人主義と競争原理であるという常識で固まっている限り、時間に追われ、孤独を感じる傾向がさらに強まるばかりで、これからは人間同士のつながりやコラボレーション、人的ネットワークが重要となる」と説きます。

さらに最も大事なポイントは、「どのような職業人生が幸福なのか価値観を転換、シフトさせるべきだ」と説いている点です。大量消費の時代にあった「孤独で貧困な人生」から「自由で創造的な人生、質の高い経験と人生のバランス」が新しい幸福の形になるのだと述べており、さらに、Co-creation共創の時代、ミニ起業家の時代だと続けます。昔でいえばマイクロビジネスと言われていたものが、ミニ起業家達がネットワークで生態系を形成していくと言う事例も面白い指摘です。大企業から離れても社会活動や職業人生が作れると言う観点です。

キャリアに関する本を世界中の人が好んで読むようになっているようですが、本書はそれではありません。また未来予想の書でもありません。しかしながら、できるだけ未来の複数の起こりえるシナリオを示しながら、各自がキャリアを考える指針を決めていく、共感するかどうか、読者に対して価値観をぶつけてくれる書です。

また国ごとではなく、全世界の人を世代で分けて考えているのも面白い点です。1995年以降に生まれた世代をZ世代とし、2025年頃には、この世代が世界中の企業で中心的役割を果たす重要な世代ととらえています。子供の時に不況と環境・エネルギー問題、国際的なニュースTV番組を見て育ち、ネットを爆発的に利用し始めた世代で、世界的な共通体験をもっている「Regeneration・再生の世代」という見方が興味深いです。

グラットン氏が提唱する未来を切り開く3つの資本のシフトをもう少し述べておくと、シフトとは知識、技能、行動パターン、習慣などを根本から<シフト>する必要があると言う意味合いで使います。

第一にシフトすべき資本は、知的資本と呼ばれる知識や知的思考力の転換です。ネット時代において、浅い知識はすぐに万人共有のものとなってしまうため、深堀した知識が必要となります。かといってT型人間等を提唱するのではなく、ゼネラリストを否定し、いくつかの専門的な技能を連続的に習得しなければならない時代が到来していることを力説されています。この点は、実は私たちキャリアコンサルタントは強く共感できる部分です。近年、ご自身のキャリアに必要な知識をしっかりと深く習得され、次から次と自分の軸をもちながらも他分野との融合、展開を果たせる人が実際に出てきています。

第二の資本のシフトは人間関係資本です。人的ネットワークの広さと深さです。これには仕事に限らず生活に喜びを与えてくれる人間関係も含まれます。様々なタイプの情報や発想に触れる事を可能にするネットワークを重視しています。一人孤独に闘う過去の価値観から、賢い群衆を味方にして戦うことができる未来やイノベーションを起こすことを提唱しています。

第三の資本のシフトは、最も難しく、最も大切かもしれないシフト「情緒的資本」です。すなわち自分自身について理解し、「自分の選択を考え抜く能力」「勇気のある行動をとる強靭な精神力を育む能力」です。自分の価値観にあった幸福な人生を歩むには、このシフトが重要です。グラットン氏が、強靭な精神力が必要と言わず、強靭な精神力を育む能力が重要だと述べる点が、さすがだと思いました。「幸せ」「再生」これが氏の本書でもっとも強調したい点だと思います。

プロフェショナルな職業人生を歩もうと考えている人で、「家庭や人生を犠牲にせず、幸福な職業人生を歩みたい」「社会にどうしたら職業人として貢献できるのか?」といった疑問を抱いている人には名著となるでしょう。

初めての職業に就く人、転職する人にお勧めです。また、職業人生を再生したいと考えている人にもお勧めできます。

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉 出版社:プレジデント社
著者:リンダ・グラットン(著),池村 千秋 (翻訳)